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普通名称「ドローンフォレンジック」が商標登録されていたことが発覚

ドローン後進国である日本にはドローン関連の情報が不足しており、新聞やテクノロジー系メディアの記事に不正確な内容が散見されることは少なくない。これまで目立った誤りはTwitterで指摘してきたが、今回は普通名称「ドローンフォレンジック」が商標登録されていたことが発覚したのでnoteで懸念を表明しておきたい。

「ドローン」(drone)とは

「ドローン」(drone)という名詞の意味は本来「雄のミツバチ」を指す言葉だが、現代では「無人航空機」(unmanned aerial vehicle)を示す普通名詞として国内外で一般的に使用されているだけでなく、現在では「無人潜水艇」(unmanned underwater vehicle)のことを「水中ドローン」と表すなど「無人機」(unmanned vehicle)全般を指す普通名詞として定着している。

「フォレンジック」(forensics)とは

「フォレンジック」(forensics)とは警察や裁判所などによる事件・事故の解明や原因究明のための法医学や犯罪科学、電子情報解析といった科学的手法とそれらを用いた一連の「科学調査(捜査)」を総称した普通名詞である。「forensics」という概念をそのまま表す日本語の言葉が定まっていないので「フォレンジック」というカタカナ語が一般名詞として使用されている。

この「フォレンジック」が何をターゲットとして行われるかで特定対象を指す普通名詞と組み合わさり、「デジタル」を対象とした「フォレンジック」であれば「デジタルフォレンジック」、さらにその専門分野として「コンピュータフォレンジック」「モバイルフォレンジック」などが一般名称となっている。

「ドローンフォレンジック」(drone forensics)とは

「ドローンフォレンジック」は「コンピュータフォレンジック」などと同じく「デジタルフォレンジック」の専門分野のひとつであり、ドローンによる事故や犯罪などの原因究明や証拠調査のためにハッキングを含めた遠隔操縦者の識別と操縦者位置情報の特定、メモリデータの取得とクローニング、飛行中のGNSSやカメラなどのセンサーデータの抽出と飛行ルート解析、離陸時と飛行中の電圧とバッテリー温度変化、スマホやタブレットとの通信データの抽出と解析など飛行データから重要なアーティファクトを収集・検査・復元・分析することを総称する普通名称である。

商標法における商標とは

商標法における「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるものからなる標識である。

商標法
(定義等)
第二条 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)

出願しても登録にならない商標とは

しかし、商標法第3条第1項第1号ならびに第2号では「その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」「その商品又は役務について慣用されている商標」を除き、商標登録を受けることができるとされている。つまり、商標法に準ずれば慣用されている「普通名称」は商標登録できないはずである。然るに、普通名称である「ドローンフォレンジック」が登録商標されていたことは非常に不可解だ。しかも、今回の「ドローンフォレンジック」は標章(マーク)ではなくただの標準文字で登録商標となっている。

商標法
第二章 商標登録及び商標登録出願
(商標登録の要件)
第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
二 その商品又は役務について慣用されている商標

商標登録異議の申立て期間とは

特許庁が普通名称である「ドローンフォレンジック」を登録査定したのは遺憾だが、J-PlatPatのステータスを見たら「存続-登録-異議申立のための公告」になっていたのでまだ異議申立てができる期間のようだ(日付だけ見て「過ぎている模様」とTweetしてしまったが)。「商標掲載公報の発行の日から二月以内に限り」登録異議の申立てをすることができるとされている。ここはぜひドローン業界が一致団結して異議を申し立てたいところだ。商標登録異議申立てには料金がかかるので一個人や一企業よりも業界団体が動くべき事案だと思われる。(と記述し公開したが、本稿公開同日にJ-PlatPatのステータスが「存続-登録-継続」に変わったのでやはり申立て期間を経過していた模様。今後はデジタルフォレンジック業界団体やドローン業界の自浄作用に期待したい。)

補足

因みに、「ドローンフォレンジック」に使用される解析ソフトとしてはサン電子株式会社のイスラエル子会社Cellebrite Mobile Synchronizationの「Cellebrite UFED」が有名であり、「デジタルフォレンジック」ソリューション企業としてはさらにそのCellebrite社のアメリカ子会社BlackBag Technologiesが知られているが、いずれも今回の商標登録とは無関係であることを念のため留意いただきたい。


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