見出し画像

【世界初】救急ドローン(AED搬送ドローン)がOHCA患者を救命

所謂「救急ドローン」(ambulance drone)と呼称される「AED搬送ドローン」(AED delivery drone)による救命救急サービス「Emergency Medical Aerial Delivery」の実用化(社会実装)に取り組んできたスウェーデンEverdrone社の自律型ドローンが2021年12月9日朝、雪掻きの最中に心臓発作を起こして院外心停止(OHCA)に陥ったトロルヘッタンの71歳男性にAED(自動体外式除細動器)を3分で届け、救急隊(EMS)が到着する前からの一次救命処置(BLS)で救命に成功した。

緊急通報(日本における119番通報)とシステム連携した救急ドローン(AED搬送ドローン)による救命救急としてはスウェーデン初(そして恐らく世界初)の救命事例となった。(「AED搬送ドローン」の詳細については以前の記事『【医療物資のドローン物流】 救急車より早い救急ドローン(AED搬送ドローン)』を参照ください。)

以下、本稿は以前の記事『【医療物資のドローン物流】 救急車より早い救急ドローン(AED搬送ドローン)』からの抜粋をベースとしつつ構成する。


突然の心停止

人が心停止に陥ったとき、脳死と死亡は僅か数分以内に起こる恐れがあり、病院外で発生した場合の生存率は極めて低い。EUでは年間80万人が突然の心停止に遭遇するが、そのうち生還できるのは僅か8%しかいない。

心停止から3分で脳死の恐れ

心停止では1分経過する毎に救命率は約10%低下する。心停止から3分で脳の損傷が発生し、8分経過すると救命の可能性は極めて低くなる。救命率を上げるためには心肺蘇生法とAED(自動体外式除細動器)を用いた迅速な一次救命処置(BLS)が重要であり、1秒でも早くAEDを現場に届ける必要がある。

心停止の7割が自宅で発生

病院で心停止が発生した場合は迅速な対応が可能だが、実際はそう都合よくいかない。心停止の約70%が自宅で発生し、バイスタンダーに発見してもらえたとしてもAEDがない場合がほとんどである。

AED搬送ドローンのアイデア

そこで、ドイツの社団法人Definetzは院外心停止(OHCA)患者へAEDを届けるためにドローンを使用するアイデアを思い付き、2013年にHEIGHT TECH社と共同でAED搬送ドローン「Defikopter」を開発する。

同時期、オランダのデルフト工科大学(TU Delft)産業デザイン工学部の学生だったAlec Momontは、院外心停止(OHCA)患者へ1分以内にAEDを届けるためのAED一体型ドローンのアイデアを思い付く。

Alec Momontにより卒業プログラムの一環として2014年に製作されたのがGPS測位方式のAED一体型ドローン「Ambulance Drone」(救急ドローン)プロトタイプである。これらがAED搬送ドローンの始まりとなった。

救急ドローンの研究

ドイツとオランダを皮切りにAED搬送ドローン(救急ドローン)はスウェーデン、カナダ、アメリカ、中国などで研究され、アメリカ心臓協会(American Heart Association)や欧州心臓病学会(European Society of Cardiology)などで報告されている。

救急ドローンは救急車より早い

いずれの研究結果でもAED搬送ドローンはEMS(救急隊)より早く現場に到着する傾向にあり、カロリンスカ研究所(Karolinska Institutet)の研究(査読論文)「Unmanned aerial vehicles (drones) in out-of-hospital-cardiac-arrest」(DOI: 10.1186/s13049-016-0313-5)によると都市部では平均1.5分、地方部では平均19分も時間を短縮できた。

救急ドローンは居合わせた人より早い

また、倒れている人を発見したバイスタンダーが近くのAEDを探して持って来る所要時間と緊急通報してドローンによるAED搬送の到着時間を比較したノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina at Chapel Hill)の研究(査読論文)「Drone Delivery of an Automated External Defibrillator」(DOI: 10.1056/NEJMc1915956)では、約3分から1分半ほどAED搬送ドローンの方が早く到着するという実験結果となった。

実際の緊急通報における出動実証

スウェーデンではカロリンスカ研究所(Karolinska Institutet)を中心に実際の緊急通報(112番救急通報)でEMS(救急隊)と同時にAED搬送ドローンを出動させるテスト本番と言える実証が行われ、研究結果が『European Heart Journal』(Published: 26 August 2021)に発表されている。

その研究(査読論文)「Automated external defibrillators delivered by drones to patients with suspected out-of-hospital cardiac arrest」(DOI: 10.1093/eurheartj/ehab498)によると、研究対象となった4箇月間においてOHCA(院外心停止)が疑われる患者の救急要請で実際にAED搬送ドローンを出動させた12件のうちの11件で救急ドローンは現場到着に成功。64%のケースにおいてAED搬送ドローンは救急車よりも早く現場に到着し、時間差の中央値は1分52秒(IQR 01:35-04:54)だった。

Updated: November 2023

この研究は更にエビデンスが積み重ねられ、アップデートされた論文(査読論文)「Drone delivery of automated external defibrillators compared with ambulance arrival in real-life suspected out-of-hospital cardiac arrests: a prospective observational study in Sweden」(DOI: 10.1016/S2589-7500(23)00161-9)が『The Lancet Digital Health』(Volume 5, Number 12, e862, Published: December 2023)に発表された。

Emergency Medical Aerial Delivery

今回のEverdrone社による自律型ドローンを使用したAEDの緊急搬送サービス「Emergency Medical Aerial Delivery」(EMADE)は、そのカロリンスカ研究所(Karolinska Institutet)、SOS Alarm、Västra Götalandsregionenの協力によって開発され、Vinnova、Swelife、Medtech4Healthが運用をサポートしている。

この「Emergency Medical Aerial Delivery」サービスは現在、20万人の住民をカバーするまでに至った。Everdrone社は「Emergency Medical Aerial Delivery」サービスをスウェーデンだけでなく今年(2022年)中にヨーロッパの多くの地域に拡大させる予定としている。

AED搬送ドローンの意義立証

今回、AED搬送ドローンによって一命を取留めた71歳男性は完全に回復し、退院しており、「I can’t put into words how thankful I am to this new technology and the speedy delivery of the defibrillator. If it wasn’t for the drone I probably wouldn’t be here」と語った。

今回の事例はAED搬送ドローンだけでなく、たまたま出勤途中の医師(Dr. Mustafa Ali)に倒れているのを発見されたのもこの71歳男性にとって不幸中の幸いだった。

救急医療ドローンプラットフォーム

今回の救急ドローン(AED搬送ドローン)による初の救命事例は私たちが実現を目指している「救急医療ドローン」(Emergency Medical Drone)と診療前診断AI(人工知能)を用いたコネクテッドヘルス(connected health)プラットフォームである「救急医療ドローンプラットフォーム」(Emergency Medical Drone Platform)および所謂「空飛ぶ救急車」(medevac drone)開発の励みとなったのはもちろん、救命救急のゲームチェンジャーとなるターニングポイントであり、医療とヘルステックにおける希望となる出来事と言える。


この記事が参加している募集

SDGsへの向き合い方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?