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IGNの正当な主張 - AAAゲームスタジオは拝金主義に成り下がったのか?

先日、IGNの公式YouTubeチャンネルにて、Larian Studioによる新作ゲームであるBaldur's Gate 3の圧倒的好評価と、それに絡めたTwitterでのゲーム開発者のコメントを発端とする議論がなされました。以下では、IGN所属Destin氏の話す当該動画の要約と、自身の感想を書いていきたいと思います。


要約

Baldur's Gate 3は一人用RPGでありながら、Steamでの同時プレイ人数が80万人を超える大ヒットを見せ、批評家からも高い評価を得ています。これに反応したゲーム開発者の一人がTwitterにて、「Baldur's Gate 3 の成功を業界の期待を高めるために使わないで欲しい」と発信し、物議を醸しました。
他のAAAゲームを制作する会社は13年前のゲーム(レッドデッドリデンプション)を現世代機向けに移植して50ドルで販売したり、コンソール向けの調整を怠ったまま発売を強行したり、少額課金向けのコンテンツ提供を他コンテンツ実装よりも優先させたりと、ゲーム体験よりも金稼ぎが主目的に成り代わっているように見られます。
Baldur's Gate 3, エルデンリング, ゼルダの伝説 ティアーズオブザキングダムがファンから好評を受けたのはゲームプレイに注力し、少額課金要素を持たなかったからでしょう。
Baldur's Gate 3は少額課金要素を持たず、正式リリース前にアーリーアクセスを提供しプレイヤーのフィードバックを受けながら開発を進めてきました。それに対して他のスタジオが同じようにできないと言う主張には無理があります。実際デッドスペースやバイオハザード4のリメイクは少額課金無しで大成功を収めました。
少額課金要素や定額課金のバトルパスはゲームデザインと直接の関係があり、プレイヤーに長い時間ゲームをプレイさせ、購入オプションを表示する頻度を高め、ゲームに熱中させ(課金者が増え)るよう仕組まれています。
Larianは400名以上の開発者を持つ大規模なスタジオですが、Blizzardは8,500名、Bungieは1,500名、Biowareは500名以上の開発者が在籍しており、それらと比べるとむしろ小規模とも言えます。
Baldur's Gate 3のような質の高いゲームが発売されることを消費者は歓迎すべきであり、他のスタジオにも同じクオリティのゲームを望むのも当然の事でしょう。その意見を「ゲームデザインを知らない」という理由で無視されるのは、ユーザーからしたら堪ったものではありません。

感想

この動画で話されていることは最近のゲーム業界におけるトレンドであり、一部のユーザーからは悪しき慣習としても認知されています。最近ではゲームを起動すると「お知らせ」が表示され、DLCや課金要素のストアに誘導されることも頻繁に見られます。
これはビデオゲームが常時インターネットに接続されることの弊害とも言えるでしょう、ゲームを持っている人に課金を促す方が、ゲームを持っていない人にゲームソフトを買わせるよりも容易いでしょうし。少なくともPS3, Xbox 360, Wiiの時代にはここまで顕著ではありませんでした。
スタジオとしてはユーザーから集金したいと思うのも不思議ではありませんし、むしろ集金していないAAAゲームの方が稀にも思えます。ゲームの開発費は高騰しながらも、定価はせいぜい10ドル上がった程度なので、他の方法で資金を集める必要があることも一定の理解が出来ます。
しかし、肝心のゲームプレイが犠牲になると、ゲーム全体の質が低下するように思われます。ゴッドオブウォーやエルデンリングが有料の装備品を導入したり、ゼルダの伝説が5ドルでスタミナ2倍に強化等と言ったシステムを取り入れた場合を想像すると寒気がします。

日本でもいわゆるスマホゲームが基本無料で提供され、ガチャを引くために課金を促されることも一般的です。競技性の必要ないゲーム体験や美麗なイラスト、豪華な声優陣を使ってマーケティングを行っていますが、それらは全て基本無料だからこそ成立しているように思えます。タダで出来るゲームに傑作を期待するのは筋違いでしょうし、ハマった人やギャンブル好きのみを取り込む経済圏は他の人の害にはなりません。
そこから発展して、海外のAAAゲームへ個人的に期待したいのは、課金コンテンツは基本無料ゲームに集約して欲しいということです。動画にも出ていたDiablo IVにも課金要素が導入されていますが、課金はDiablo Immortalsに集め、ナンバリングタイトルにはゲームプレイ要素に集中して欲しいと考えます。
基本無料のゲームを出してもフランチャイズに魅力があればファンはこぞって金を積むでしょうし、通常のプレイヤーは魅力的なゲームを通じてファンになる可能性も高まります。実際カプコンやフロムソフトウェア等の国内ゲームスタジオも、コンソールゲームに課金要素を重視していないように思えますし、それが世界的な成功に結び付いているとも考えます。

ここまで書いておいて何ですが、実際にゲーム業界が課金システムを変更する望みは薄いように思えます。コスメアイテムやルートボックスは間違いなくゲーム本体よりも遥かに低予算で実装できますし、マーケティングを続けていく限り購入者は増えていくでしょう。ゲームの定価70ドルに対し服やアクセサリに5~20ドル払うのは合理性に欠けますが、趣味に合理性を求めるのも酷な話でしょう。
極端な話ゲーム販売もビジネスですから、各スタジオは利益を最大化させるための活動を続けるでしょう。AAAゲームスタジオとユーザー間に出来た隙間を埋めてくれるような、ストーリー性やゲームプレイを重視したインディーゲームを個人や小規模開発のスタジオがリリースしてくれることを祈るばかりです。
それにこれはゲームに限った話でも無いですし。ゲームメディアは女性の露出が多いスマホゲームの広告を打ちますし、ニュースサイトは信憑性の欠片も感じない健康、美容商品の広告を載せています。最近複数のサブスクサービスの一部として入っている雑誌類も、どこからどこまでが広告か分からない始末です。ゲーム業界にだけ拝金主義になるなと訴えるのも不公平でしょう?

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