元慶應義塾大学塾長の安西祐一郎氏。大学入試改革の旗振り役。慶應元塾長に利益相反疑惑を直撃

やっぱりね。ってかんじ。


〈民間資格・検定試験の活用〉という方針を文部科学省が打ち出したのは2014年12月、諮問機関である中央教育審議会(中教審)の答申だ。民主党政権時代からのベテラン委員で、答申当時の会長として議論を取りまとめたのは元慶應義塾大学塾長の安西祐一郎氏。文科省OBは「答申を出した後も関連の会議のトップを務めてきた安西氏は、入試改革を推し進めた最大の功労者」と証言する。

 その自負からか、東大が不採用を打ち出した昨年秋、安西氏は読売新聞が運営するウェブ版のインタビューで「東大の見識を疑う」と激しく“口撃”している。そんな安西氏の背景を取材すると、あるテスト業者との間に“関係”が浮かび上がってきた。

 8つある民間試験のうち「有力な選択肢」(塾講師)との呼び声高い、「GTEC」。通信教育大手のベネッセとともにこの試験を共催するのは、「進学基準研究機構(CEES)」という聞きなれない名前の一般財団法人だ。

 同法人の所在地は新宿にあるベネッセ東京本部の社内。公式HPの役員一覧によれば、理事長は文部事務次官を務めた佐藤禎一氏だ。この天下りの事実だけでも文科省との深い関係がわかるが、問題はそれだけではない。

 さらにHPには記載がないが、法人登記によれば2014年11月の設立と同時に就任した3人の「評議員」の筆頭に、安西氏の名前があるのだ。民間活用を打ち出した中教審会長が、答申前に民間試験業者側にポストを得ていたとあれば、利益相反の疑念が生じてくる。議論が民間試験導入の方向に曲げられたのではないかという疑念だ。

 しかも安西氏は、中教審の答申を取りまとめた後も2015年2月~2017年2月には文科省の顧問として、2018年6月からは参与として、業務実態に応じて日給2万6200円もしくは2万2700円の報酬をそれぞれ得ている。

 一方のベネッセは文科省が小学6年と中学3年の全児童・生徒を対象に約50億円という巨額予算を投じて毎年実施する「全国学力学習状況調査」を直近5年間、毎年落札している。

この入り組んだ関係を俯瞰してみると、「民間試験導入」でベネッセは新市場を、導入を主導した安西氏はポストと報酬を、文科省は新たな天下り先をそれぞれ手に入れる──そんな構図が見えてくる。1月10日、都内の会合から出てきた安西氏に、筆者はこの点を直接、問い質した。

「それ(評議員就任と中教審答申)は全く関係ないと思う」

──答申直前に評議員に就任されたことは適切だったとお考えですか。

「えーと、それはちょっと(回答を)考えますけど」

──CEESからは報酬は受け取っていますか?

「受け取っていないです。ええ、1円も」

 一方のベネッセは、安西氏に答申の方向性の希望を伝えるなどしたのではないかとの問いに「一切ない」(広報・IR部)としたが、報酬については「評議員の方にお支払いしている固定の報酬はない」という表現の仕方をする回答だった。

 受験生の人生を左右する入試には、何よりも「公正さ」が求められる。新たに導入される入試制度の運営体制は、その条件を満たしているのか。

取材・文/広野真嗣(ノンフィクション作家)