見出し画像

父と七年ぶりに会話した

MEDIA LAB SUGAMOでは、長期休みに「大学生の自由研究」と題してチャレンジ企画やがっつりした企画に取り組んでいます。
今回はその自由研究の第二弾です。第一弾はこちらから。


私「おとーーーーーさーーーーーーん! 行こーーーーーー!」
父「はいはい」

これが、7年ぶりの父との会話だった。
私は、冷戦状態だった父とバレンタインデート(笑)をしてきたのである。

* * *

2022年のとある冬の日。MEDIA LAB SUGAMOの会議にて、家族の話をしていたときのことだ。

「お父さんと仲が良くて、今でも一緒に出かけるんです」
「ええ、すごいね。私なんかもう7年くらい話してないかも」
「そんなに?!」

そのエピソードがなぜか周りに面白がられ、ちょうど話していた春休み中のチャレンジ企画として「お父さんと話そう」が誕生してしまったのである。普通にすごい嫌だったのだが、不本意ではあったのだが、思いの外ウケている様子を見るとやる気が出るものである。関西人の性だろうか。

母を経由して父を誘い、予定を押さえた。
母曰く「半ニヤ半疑、戸惑い気味だった」とのこと。
「親父狩りにあうんちゃうか?」と言っていたらしい。失礼な。


7年前、私は一方的に父と話をしなくなった。
わからずやの、話を全く聞かない、現実に生きているとは到底思えない、本当に変わった父が本当に嫌いだったのだ。

それまでは普通に欲しいものを買ってくれる金ヅル・・・大好きな父だったのだ。
しかし大きくなるにつれて我が家の家計や母とのやりとり、普段の行動がよく見えるようになると嫌悪ポイントが加算されていくのである。
決定的な出来事が7年前に起こり、一切話さなくなり、現在まで至る。

正直、それがなくても好きではいられなかっただろう。
本当に今の今まで、浪人決定時と大学入学時のお礼(その時も言い逃げだったが)以外で全く喋っていない。
高校入学のタイミングでスマートフォンを買ったが、LINEすら交換していなかったのである

* * *

父と2人きりのドライブが始まる。

地元の百貨店に向かう道すがら、父から声をかけられる。来た。

「東京はどうや。楽しいか」
「うん。楽しいよ」
「東京やとどこで遊ぶんや」
「池袋かな・・・近いし、大きい本屋もあるし。ていうかそもそも大学におる時間が長いんよな」

ぎこちない空気が流れるが、なぜか2人とも格好をつけて「今まで通り」話そうとしていた。
誰に見られているわけでもないのに。今まで通りなんてないはずなのに。

「そっち(東京)は人出てきたか」(※コロナの影響はどうか、の意味)
「そうやなぁ。それこそ池袋駅とかすごいよ。めっちゃおる。それでたまにすごい美人とすれ違うで」
「ふーん」

10年近く乗り続けている軽の運転席から、父はふと聞いてきた。

「・・・なぁ、プチ整形ってどう思う? バイト先の女の子がしてるらしいんやけど、同世代的にはどうなんかなって」
「・・・いいんじゃない? 私自身は必要性を感じないけど、別にいいんちゃうの。むしろその見た目を求める世間の在り方の方が気になるけど」
「そうか。今はそんな感じなんやな」
「個人の感想です」

申し訳ないが、結構緊張していて会話のつながりが思い出せない。それでもポツポツと会話は続く。

「大学やとどんな勉強しとんの」
「著作権の授業とか、あとセルフマーケティングの授業とか。企業様に企画提案もしたりしとるよ」
「えぇ、具体的には?」

* * *

そうこうしているうちに百貨店に到着。

私の目当ては催事場。バレンタインチョコを買うことが目的であった。
本当は東京で買ってから帰ればよかったのだが、こっちで買いでもしないと間が持たないという苦肉の策である。

到着し、父へのバレンタインチョコを探す。
これいいな、と思うような小さくて華やかなものは軒並み売り切れていた。G⚫️DIVAの大きなボックスを買うかまで考えたのだが、偶然KARMELLOというチョコレートが残っていたのでそれを買ったのだ。

1700円〜1800円くらい

買おうとする折、父が「買うたるよ」と言って財布を出すので必死に止めた。流石に父親へのプレゼントを父親の財布から出させるわけにはいかない。

今回の目的はあくまで和解であって親父狩りではないのだ。まあこれで今までの7年間を勝手にチャラにしようとしている時点でどっこいどっこいかもしれない。

後になって考えてみると、バレンタインなのに、父が自分がもらうと思っていない、というのが今までの距離を表していて少ししんみりした
でもさらに思い出してみれば今まではずっと作っていたものをあげていたから、普通に誰かにあげる用だと思っていたのかもしれない。
なんなら冷戦中に一回自分用に作ったチョコを食われて死ぬほどむかついたことも思い出した。

でもまあ、ちょっと嬉しそうに受け取る姿を見るのは悪くない気分だった。

昼にスガキヤラーメンを食べ、本屋に寄って本を買ってもらうと父の仕事の時間が迫っていた。
(意外と話せたな)(思ったより精神的にザワザワしなかったな)なんて思いながら帰りの車の中で口を開く。

「ね、LINEだけ交換しとこ」
「ん、わかった」

正直一番緊張したのはここだ。
夕飯の話をしながら、どう切り出すか一番迷っていた。

特に抵抗されることもなくすんなり交換し、(こんなもんか)と(やり遂げた)という思いを抱え帰宅。
その後の滞在も特にケンカすることも無視することもなく、私なりの反抗期は一旦区切りがついたと思う。

正直、好きになったかと言われると別に。人間そんなに可愛くできていない。

父との関係に区切りがついて、清々しい気分で東京のアパートに戻ったその日の21時44分。

嘔吐感に見舞われ、私はそれこそ数年ぶりに風邪をひいたのである。


書いた人:はも
アート&エンターテインメントワークコース 3年

自己紹介:編集さんたちのおかげで見れる文章になって、魔法かと思った。
へんしゅうさんのちからってすげー!

編集した人:ナガオカ
街文化プランニングコース 4年
父と焼酎を飲みながら2時まで語りあったことがある。それはそれでどうなんだ。

SpecialThanks:つよいねこ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?