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酒番 多田正樹@めでたし 日本酒ペアリングレポート(2024年2月開催)

2024 年 2 月 23 日(土)、酒番 多田正樹さんをお招きした特別な日本酒ペアリングイベントを開催しました。
まだ時折寒くなる日があるものの、少しずつ春の足音が聞こえてくる晩冬の候。
鮮やかな季節の到来を五感で味わう、料理と日本酒が織りなす 9 皿・8 酒のペアリングコースをレポートします。


1. 春らしい料理と搾りたて日本酒の、繊細でフレッシュなペアリング

料理:赤貝 帆立 グリーンピース 

日本酒:やまいし 純米吟醸 限定直汲 無濾過生原酒 うすにごり 2023BY(三重県四日市)


暖かくなると続々と発芽し、新しい生命が生まれ育っていくーその源たる「種」でもある、ピカピカ若々しいお豆さんの料理が 1 皿目です。フレッシュなグリーンピースをこめ油で乳化させたソースは、その甘みや香りを味わっていただけるよう、塩だけで味付けしました。そこに瑞々しい食感が楽しいスナップエンドウと、ホクホクとしたそら豆を加え、3 種類の豆が登場します。しっとり弾力のある帆立と、コリコリっとした赤貝のそれぞれの食感、甘さや味わいと、豆たちの青い甘さとが軽やかに混ざり合います。

日本酒は、三重県四日市の石川酒造さんの「やまいし 純米吟醸 限定直汲 無濾過生原酒 うすにごり」2023BY。搾りたてをそのまま瓶詰めした「直汲み」のピチピチとしたフレッシュさと、うすにごりの爽やかさ、心地よい吟醸香のバランスが素晴らしく、そのままでもとても美味しいお酒です。そこを、ガラス製のフラスコで丁寧に 40 度ほどまで温めることによって、このお酒に潜んでいたお米の味わいを引き出します。

素材の繊細さを損なうことなく、程よく温めることによって豆や貝の味わいを優しく広げる、フレッシュな料理とフレッシュなお酒の息のあったペアリングで、コースの幕が開けます。

2. 堂々たる気品と濃醇さのペアリング

料理:夏越しの「玉川」漬け ボタン海老  

日本酒:不老泉 亀ノ尾 山廃純米吟醸 無濾過生原酒 2023BY(滋賀県高島市)

爽やかな幕開けの次は、インパクトのあるものを。

大ぶりの新鮮なボタン海老を、京都の「玉川」2017 BY の山廃純米無濾過生原酒を、2018 年の夏に常温(=灼熱?)で夏越しさせたお酒と、八角などのスパイスとで作った漬け液で数日漬け込みました。あまりにも魅惑的な香りとその姿に、店内のあちこちからため息が聞こえました。
食しているのは自分なのに、まるで自分が飲み込まれてしまっているかのような、極上のねっとりとした複雑な濃醇さが口中を騒がせます。

優しいお酒では太刀打ちできません。旨口芳醇の代表的な造り手である滋賀県 上原酒造さんの「不老泉 亀ノ尾 山廃純米吟醸 無濾過生原酒 2023 BY」。経年による熟成感のない、澄んだ厚みのある旨みと絶妙な酸味、どっしりボディの頼もしい存在感のあるお酒です。錫のちろりで60度くらいまで温度を上げてしっかりと香味を引き出し、冷まして落ち着かせてから平盃でお出しします。

堂々たる気品を纏った濃醇でパワフルな食と酒とが自らの口中で一体化していく、背徳的な愉悦のひととき。

3. 賑やかな味わいを上手く落ち着かせるペアリング

料理:鮑のコンテチーズリゾット 亀の尾 

日本酒:神雷 青ラベル 千本錦 特別純米 2022BY(広島県神石郡)

うっとりと静かに、ボタン海老と不老泉による濃密な余韻に浸る皆さまを次なる魅惑へお連れする 3 皿目は、大騒ぎしたくなるような濃厚チーズリゾットです。

お米は、長野県の momoG Farm さんが丹精込めて育て上げる無農薬無施肥の「亀の尾」米。滋味深い日本酒の原料米として認知されることが多いですが、そもそもは食べるためのお米として人気を博した米種です。1983年(明治時代)に発見・生育、その美味しさは賞賛されて主に東北・北陸地方の様々なブランド米の祖となりました。米粒一つ一つがしっかりとし深い味わいを持つこのお米を、魚介のブイヨンと、フランスのコンテチーズでリゾットにします。そこに、ふんわり柔らかに蒸し上げた鮑と、鮑の肝ソースが輝きます。その見た目から想像できないほど、エレガントで華やかな香味を纏う鮑。亀の尾も、コンテチーズも、鮑も、みんなそれぞれの旨味を臆面もなく器の上で繰り広げてくるのです。

そんな大騒ぎのお料理を、出しゃばりすぎずに纏めてくれるのは「神雷」の青ラベル、広島県産「千本錦」を使用した純米酒です。穏やかで素朴な熟成感が心地よい純米酒を、じっくり57度くらいまで温めることによって、お米の味わいと赤葡萄のようなエレガント&リッチな香味を引き出します。冷酒でも燗酒でも「神雷」のお酒には独特な清涼感を感じます。大騒ぎ系の料理も妙に落ち着くのはそのせいかもしれません。

4. 個性派同士が妙にハマるペアリング

料理:ヤリイカ ピータン 山菜 
日本酒:風の森 未来予想図Ⅱ~高温醗酵の世界 無濾過加水生酒純米 2023BY(奈良県御所市)

雪解けの野山にひょっこりを顔を出す山菜は、春の到来を知らせてくれるメッセンジャー。

4 皿目では、山菜と旬のヤリイカを、台湾産ピータンのソースでお召し上がりいただきました。ピータンを細かく刻むとあのツンとした香りは飛んでいき、美味しいところだけを楽しめます。アヒルの卵を発酵させたピータンと塩麹の発酵同士のコンビネーションは、まるで「蟹味噌+マヨネーズ」のような濃厚ディップソースとなります。ほろ苦い山菜ーコゴミとタラの芽ーと、甘くコリコリっとした食感のヤリイカと一緒にすることで、病みつき度合いもアップ。

変化球のような一皿には、変化球のような日本酒を。

「風の森 未来予想図Ⅱ~高温醗酵の世界 無濾過加水生酒純米 2023BY」は、奈良県産の「秋津穂」精米歩合 90%を使用して、一般的な日本酒造りのスタイルである「冬季の低温発酵」とは真逆の、「高温醗酵」で醸したお酒です。江戸時代より前は、夏の 30°C 近い温度帯でも日本酒は作られていたというそのスタイルが、もしかしたらこれからまた、新しい形として蘇るやもしれぬ、ということでの「未来予想図」。「風の森」の特徴でもある爽やかな果実香や自然な発泡感、奥行きを感じるお米の旨みに複雑性が増されたこのお酒の個性を存分に感じ取っていただくべく、デキャンタージュしてお出ししました。

5. 滋味豊かな世界がじんわり広がるペアリング

料理:ニホンジカ、原木椎茸、自家製 XO 醬 
日本酒:玉川 雄町 純米吟醸 2018BY(京都府京丹後市)

5 皿目では、広島県安芸高田市のニホンジカと東京都青梅市の原木椎茸のローストに、オリジナルの XO 醬を絡めました。

美しい山々に囲まれ緑豊かな安芸高田市は、市域の約 8 割を森林が占め、多彩な植物が生育しています。森林のスギやヒノキなどの枝や皮、木の芽、若草、どんぐりや栗、キノコなど天然の植物を食べてすくすくと育ったシカを、経験豊富な熟練のハンターが仕留めて素早く適切に処理することによって、臭みがなく旨みはしっかりとある美味しい食肉とした「Premium Deer 安芸高田鹿」を柔らかくローストしました。肉厚な春の原木椎茸をジューシーに焼き上げると、ふくよかな香味がたちのぼります。香港での経験をもつシェフは、今回この料理のために、生牡蠣からオイスターソースを、スパイスを炒めてラー油を、葱からは葱オイルを作り、帆立、桜エビ、生ハムなどを用いて XO 醬を手作りしました。

重心が低めで滋味あふれるこの料理に合わせたのは、2 皿目のボタンエビの漬け液としても使用した「玉川」の、雄町米を使用した純米吟醸酒です。2018BY と熟成感も感じられるこちらのお酒に 5% ほどの水を加え、少し柔めた上で、チタン製のチロリできゅきゅっと 50℃ まで温め上げました。緩急をつけて温められることで心地よい上立ち香と複雑な味わいが膨んだ日本酒と、様々な旨みが凝縮された XO 醬とが共に、鹿と椎茸という山の豊かな香味を口の中いっぱいに広げていきます。

6. 上質なシンプルを体現するペアリング 

料理:蛍烏賊、筍 
日本酒:秋鹿 自営田雄町 純米無濾過生原酒 2022BY(大阪府豊能郡)

6 皿目は、海と山から届きたての春の美味のシンプルなコンビネーション。

春の海からは富山県産のホタルイカ。ホタルイカのそれぞれの部位がきちんと美味しくなるように仕立てて、愛媛県梶田商店さんの天然麦味噌「たつみ味噌」と、和歌山県湯浅醤油さんの「CACAO JANG / カカオ醬」とで、「カカオ香るホタルイカ味噌」を作りました。
春の山からは北九州市合馬の、出たての筍。まだまだ小さく、とても柔らかく、みずみずしく、美しい香りと甘みを湛えています。多めのこめ油で揚げるようにささっと焼き上げて、より一段と香ばしく甘くしました。

「秋鹿 自営田雄町 純米無濾過生原酒 2022BY」は温めると美しいカカオのニュアンスが顔をだすお酒です。錫のちろりで 55 度くらいまで温めて甘く香ばしい風味を出し、急冷させてからお出ししました。
シンプルなものこそ上質であるべきだと、美味しく諭されているようなペアリングです。

7. 春の草原のように瑞々しいペアリング

料理:太刀魚、菜花、みかん 
日本酒:花垣 純米大吟醸 2022BY(福井県大野市)

7 皿目には、目にも鮮やかな色彩が登場。まるで春の野原のようなソースは、ほろ苦い菜の花と蜜柑で作りました。蜜柑の爽やかな甘味と酸味が、野原を爽やかに吹き抜ける風のようです。油を纏って焼かれた菜の花は香ばしくほっくり、3.5 キロサイズの立派な脂の乗った太刀魚はしっとり上品で柔らか。
香ばしくて甘いものたちを、ほろ苦く爽やかなソースが包み込みます。

上品で爽やかな料理に合わせたのは、低温長期発酵でじっくり醸した精米歩合 45% の純米大吟醸「花垣 純米大吟醸 2022BY」。瑞々しい芳香と酸を持ち、清々しい優しさを感じられるこのお酒を、ガラス製のフラスコで42度くらいまで温めて、爽やかな甘味を引き出してお出ししました。

8. 王道の凄みが溶け合う 千穐楽ペアリング

料理:岩中豚、蕗の薹 
日本酒:神亀 千穐楽 純米 2002BY(埼玉県蓮田市)

とうとう 8 皿目、ラストペアリングです。

徹底した衛生管理、リラックスできる飼育環境、栄養価の高い肥料によって、きめ細やかな肉質、美しい脂肪をもつ岩中豚を、水は使用せず、純米酒と醤油と八角と蜂蜜だけでとろっとろの角煮にしました。上質な脂の甘味と旨みが塊に、蕗の薹のコンフィを添えました。コンフィとなることで角が取れた蕗の薹の香りと甘い苦みが、たっぷりとした豚角煮の甘味を引き立てます。

力強いのに優しい、脂たっぷりなのにくどくない、シンプルなのに単純ではない。捉えどころのない凄みがあるこの料理に、多田さんが選んだのは「神亀 千穐楽 純米 2002BY」。
前杜氏の原昭二杜氏が、その最終醸造年度(2002BY)に仕込んだ集大成の純米酒をタンク貯蔵した原酒で、16 年の歳月を経て 2019 年に発売された大変貴重なお酒です。あまりにも透明度が高くて覗き込んでも距離が掴めない湖の深淵を探っているような感覚を覚えます。悩ましいほど美しい香り、何層も重なっているのに濁りのない味わいの数々。どの温度帯であっても、それぞれの美味しさがあるこのお酒を、チタンのちろりで 48℃ まで温めました。

奇を衒うことなく、それぞれの王道を貫いたものたちが解けあうことで生み出される唯一無二の香り、味わい、食感、余韻を、ただただ素直に吸収するー。そういう幸せがあることを教えてもらいました。

9. クールダウン

ミルクアイス、スキクイーン、林檎

コースの最後は、ミルクアイスと、ノルウェーのブラウンチーズ「スキクイーン」とすりおろし林檎の香ばしく爽やかな甘さソースで締めくくりました。

今回は少し中華料理のニュアンスを取り入れ、春の到来間近の晩冬の味わいを楽しむコース構成としました。次回は夏真っ盛りの、7 月 20 日と 21 日に開催します。

次回は7月開催

7 月のテーマはハーブ。
レモンタイム、シナモンバジル、スイートバジル、ローズマリーレックス、フェンネル、様々なミントたち、サラダバーネット、レモングラス、アニスヒソップ、カレープラント、ステビアなど、酷暑に負けず元気いっぱいのハーブのエネルギーを盛り込んだメニューが登場します。

イタリアン、フレンチ、アジアン、様々な料理ジャンルのアイディアにハーブを活用することで、夏の食材たちに新しい美味しさが生まれました。幅広い可能性を持つ日本酒によって、さらにドラマティックな展開となることでしょう。
初めての美味に出逢いに、ぜひお越しください!

日時 2024年7月20日(土) 18時、21日(日) 17時30分
会費 25,000円(お食事・日本酒・税サ込)
定員 各部上限 11席(カウンター7席、テーブル4席)
申込 めでたしの予約フォームから「2024年7月20日」あるいは「2024年7月21日」を指定し、メニュー「7/20・21 酒番 多田正樹@めでたし」を選択の上、必要項目をご入力ください。7月18日24時までご予約をお受けします。
*ご予約の際には、「お店からのお知らせ」「利用条件」をご確認ください。

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