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流体力学 ダランベールのパラドックス

 皆様おはこんばんちは。
 
 最近,流体力学を再度学び直してみようと思い,記事にしています。
 今回は,第61回目として「ダランベールのパラドックス」について紹介したいと思います。今回は,以前に投稿した「ブラジウスの第1公式」を使いますので,まだ知らない方はご確認ください。


(1)ダランベールって誰?

 今日の流体力学をはじめ,機械工学の進化はニュートンが発表した「プリンキピア(古典力学)」とダランベールが発表した「動力学論」が大きく支配していると筆者は思っています。ここで取り上げられるほど,ダランベールはよっぽどすごい人(暇人)だったのでしょう。「動力学論」をはじめ,今回紹介する「ダランベールのパラドックス」を発見した暇人こそ,フランスのジャン・ル・ロン・ダランベール(Jean Le Rond d'Alembert,1717~1783)です。

ジャン・ル・ロン・ダランベール(Jean Le Rond d'Alembert,1717~1783)
(参考:Wikipdia)

彼は,パリ大学で文学学士を取得後,哲学者、数学者、物理学者と多岐にわたり多分野で学者として活躍していました。特に,物理学の領域ではニュートンの提唱した「古典力学」を更に発展させたことで「ダランベールの原理」を明らかにすることや「ダランベールのパラドックス」という流体運動に関する研究も彼の功績として有名です。今回は,このダランベールのパラドックスをブラジウスの第1公式を用いて確認してみようと思います。
 

(2)ダランベールのパラドックス

 では,ダランベールのパラドックスをブラジウスの第1公式を用いて確認します。具体的な設問は以下の通りです。

x軸方向に速度u0の一様な流れの中に半径aの円柱が置かれ,円柱周りの循環Γ=0の場合,円柱に作用する力を求めよ。

工業流体力学,原田幸夫,槇書店
図1 一様流れ(速度u0)の半径aの円柱

円柱周りの循環Γ=0の場合,円周上の流速や静圧は過去の記事で取り上げています。この場合の複素ポテンシャルw,複素速度dw/dzは式(1)のようになります。

ここで,ブラジウスの第1公式(式(2))を取り上げます。式(1)を式(2)に代入すると,式(3)のように表せます。

式(3)を積分する前に使えるものがあるのです。それが,コーシーの積分定理(「単一閉曲線内部に半径rとなる円Kを境界とする2重連結領域」が該当)です。

式(4)にコーシーの積分定理を示します。

式(4)を式(3)に適用すると,x,y方向の圧力Px,Pyは式(5)のようになります。

すなわち,速度u0の一様な流れの中に置かれた半径aの円柱は何も力を受けないことを示しています。

しかし,式(5)に異論を提唱したのがダランベールです。後に円柱には「抗力」が発生するにも関わらず,式(5)には反映されていないという「ダランベールのパラドックス」と呼ばれるものです。
結論から言うと,ダランベールのパラドックスが生じる原因は以下のようになります。

①        流体を理想流体と仮定しているため、粘性を考慮していないため。
②        流体は1種類で考えているため。
③        流体が無限遠方まで広がっていることを想定しているため。
④        流体の原子・分子の質量や体積に比例する力(体積力)はかかっていないため。
⑤        流れは定常流れ(時間的変化をしない状態)であるため。
⑥        物体は単独で存在して、周りに別物体が存在しないため。

現在は,「ダランベールのパラドックス」により「抗力」が発生しないため,その抗力を評価するには,以下のように考えることで解消できるとされています。

①        ナビエ-ストークス方程式(N-S方程式)を使って,粘性項を考慮すること。
②        流体の原子・分子の質量と加速度により慣性力を考慮すること。
③        流体の原子・分子の重力とそれによって生じる浮力を考慮すること。

実際の流体実験でも円柱の圧力Pが生じるため,実験からも理論式からも粘性を考慮していないことが分かるのです。過去の記事でも解説しています。(「(3)円柱周りの流速と静圧について」参照)


(3)まとめ

今回の記事のまとめを以下に示します。

①     ダランベールのパラドックスは,円柱に作用する力が「ゼロ」になる現象である。本来は,流体の持つ粘性の影響により円柱に作用する力は「ゼロ」にならない。

以上です。最後まで閲覧頂きありがとうございました。
次回は,「クッタ・ジューコフスキーの定理」について取り上げます。


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