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小さい話27 なり損ない

私は幼少期から金平糖が好きだ。きらきらしてて、小さくて、食感が何よりいい。口の中で少し遊んでから、シャリシャリと音を立てて食べるのが楽しい。飴だとそうはいかない。彼らはいつまでもガリガリと噛み砕くしかない。

通学用のカバンの中にはいつも金平糖の瓶が入っている。今週は葡萄味のものを買ってみた。一番好きなのはシンプルな白いやつだけど、週替わりで色々楽しめるのもいいところだから。

電車に乗る前にひとつ、講義が始まる前にひとつ、部活に行く前にひとつ。

エネルギー補給みたいな形でひとつひとつを砕いていく。
シャリシャリという音がある意味、スイッチになるのかもしれない。

今日は朝から天気が良くなかった。そんな日もある。
雨は好きではない。正確には雨が降りそうな日が嫌いだ。
偏頭痛持ちにとっては決して喜ばれない日だろう。頭部の左側がズキズキと訴えるように泣いている。慰める方法もないから受け入れるしかない。鎮痛剤は強力な助っ人だが上限がある。1ヶ月に呼ぶことができるのは10回ほど。生理痛も合わせれば、偏頭痛ごときで呼ぶわけにはいかない日もあるのだ。

今日は朝から嫌なものを見た。テレビで奥さんのことを上から目線で語る芸人。
女性をいじるネタがそこまで好きではない。正確には「俺についてくればいいんだよ」ていう過剰なリーダーシップを家庭内で発揮する男性が嫌いだ。
本来、夫婦やカップルは平等であるべきだというのが私の信条だ。互いをリスペクトするのは難しいが、リスペクトをしたからこそ愛情が生まれるのだと思っている。一般的な恋愛観とは異なるかもしれないが、別にこれでいい。このよくわからないこだわりを受け入れてくれる人と関係を築いていければいいと思うから。

今日は朝からがっかりすることがあった。買ったばかりのマフラーにコーヒーを溢したのだ。
コーヒーは好きだが染みとなると話は別だ。なんだこの黒い液体は。
寒い冬の朝にはコーヒーなのだ。誰がなんと言おうと熱いコーヒーとクロワッサンで始まるべきなのだ。トーストされて少しさっくり、ふっくら、カリッとしたあの歯応え。表面の砂糖と中のバターの香りをコーヒーで調和させて胃の中へ落とす。この作業こそが日々の幸せをつくるのだ。染みになった黒い部分とクリーム色を見比べながらマフラーを鞄にしまう。首元が寒い。風が強いこの地域では耐え難い日だ。

こうした如何にも残念な日には金平糖の瓶の底にある歪なやつらを噛み砕く。綺麗な星になれなかった可哀想な粒たちと喧嘩をするのだ。お前のせいだと言わんばかりに力を入れて噛み砕く。抗議の声をあげる暇など与えない、許さない。それがなり損ないの仕事だ。

そうして私は今日もバイト先であるコールセンターで無意味なクレームを殺すのだ。

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