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手足の長さ1.5倍のプロたちが教えてくれたこと

今回渡英した一番の理由はバレエだった。今から遡ること4ヶ月、舞台でひどい踊りをした。発表会のメインプログラムであったコッペリアでグランパドドゥを躍らせていただくというこの上なく光栄かつ貴重な機会を頂いたにもかかわらず、最後の最後まで安定感ゼロかつ納得のいかない仕上がりだった。芝居と表情でごまかしたものの、わかる人が見れば一目でわかる未熟っぷりが露呈した。18年もやってて、なんでこんなに下手くそなんだろうと、沢山思い悩み、悩めば悩むほど負のサイクルの沼に落ちていった。うまく踊れない自分を存在しない敵と比べて焦っていたのだと思う。舞台が終わってから、これではダメだと自分自身を奮い立たせ、少しでも時間があれば通ってるお教室とは別の都内のスタジオにオープンクラスを受けに行くようになった。そんな時に思いついたのが、ロンドンで武者修行をする事だった。ロンドンは芸術の街。世界でもトップレベルのバレエ団が多数存在し、ダンサー人口も多い。その為、プロレベルのダンサーを対象としたオープンクラスが毎日様々なスタジオで開講されている。私はプロではないけれど、飛び込んで行こうと思った。手足は短いし下手くそだけど、がむしゃらに何かを吸収しようと思った。気がついたら、航空券を予約していた。

私が滞在中毎朝通ったのが、Mayfair にあるDanceworksというバレエスタジオだった。このスタジオはロンドンのど真ん中に位置し、レベル別のバレエクラスはもちろんジャズやヒップホップなど様々なクラスが毎日びっしりあり、常にダンサーたちで溢れかえっていた。プロのクラスは大体朝の時間帯で、バケーションの期間に入っていた為、普段インスタで見る現地のダンサーたちも多数受講しに来ていた。バレエ団がお休みでも休んでいる訳にはいかないのがプロなのだ。正直、とんでもないところに来てしまったと思った。プロフェッショナルではなく、せめてアドバンスクラスにしておけばよかったとも思った。しかしそれも後の祭り。既に受講料も支払ってしまったので開き直って先生が来るのをストレッチをしながら待つ。初日、ピアニストと一緒に時間きっかりに入ってきた先生は、腕と足にびっしりタトゥーのあるブロンドで長髪の男性だった。自分の体を使いながら、説明するその姿はバレエダンサーそのものだけれど、私の知ってるバレエ界の常識からすると明らかに見た目とマッチしない。ヒップホップのダンサーと言われた方がしっくりくる。この時点で、既に日本では想像もできない光景だった。私はなにもタトゥーに反対なわけでも、長髪が嫌いなわけでもない。ただ、私が知ってるバレエの世界では見かけないタイプだったので驚いた。さらにびっくりしたのが、どうやら驚いているのは私だけだという雰囲気だった。他のダンサーたちは全く動じない。いかに”日本のバレエ界”が閉塞的であるかを異国の地でのレッスン開始5分くらいで身にしみて感じた。その時、ふと鏡に映った自分を見て思った。なんて小さなことにとらわれてたのだろう。うまく踊るとか、来てくださったお客様のためにとか、言い訳して自分の向き合うことを避けていたのが恥ずかしくなった。そもそもバレエは昨日の自分より良くなるための小さな積み重ねでできていて、人と比べてどうかなんてなんの意味もない。タトゥーがあったって、見た目がヒップホップダンサーみたいだって、そんな事はどうでもいいのだ。大切なのは自分を丁寧に”操る”こと。これに気がつけただけで、満足だった。

さらにレッスンに通ううちに、面白いことに気がついた。同じプロでも日本でレッスンを一緒に受けている人たちとは全く雰囲気が違う。都内のスタジオでは、知り合いどおしは和気藹々としていても、違うバレエ団の人たちとの間にはどこか壁があるのがアマチュアの私から見ても明らかだけれども、ロンドンではそれがなかった。みんな隣でストレッチしてる人にHiと挨拶をし、あっという間に仲良くなる。見た目も踊りも明らかにプロではない私にすら、”ステキなウェアだね”とか”君は誰よりも背が低いのに、誰よりもジャンプしているね、羽が生えてるの?”など親しみを込めて歩み寄ってきてくれる。とても、居心地が良かったし、そもそもバレエは競い合うものではないという根本がそこにはあった。手足が短いとか、背が低いとか、下手くそとか、もはやどうでも良かった。手足が短いなら長く見せればいいし、背が低いなら飛べばいい。コンプレックスや足りない部分はいくらでも補える。そんなバレエは楽しい。とてつもなく辛い時もあるけど、それでも楽しい。バレエが好き。それだけ。

ロンドンにいた1週間、毎日違う先生のレッスンを受けた。長髪タトゥーの先生だけでなく、少林寺拳法の師範みたいな先生も、ザロイヤルな先生もいた。どのレッスンもどのダンサーも多様性にあふれていて、学ぶことが盛りだくさんだった。バレエは昨日の自分からの反省を今日の自分に反映させること。そのプロセスに他人と比べることはいらない。共にレッスンを受けるダンサーからはポジティブな刺激をもらうべきで、人と比べて焦りを育むべきではない。4月の舞台から迷走していた私の悩みを全て洗い流してくれた先生とダンサー達、ありがとう。

#旅行記 #ロンドン #1人旅 #バレエ

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