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「浜辺の歌 ~ 歌の周辺について語る」

 日本歌曲という分野に特別の思い入れはないが、何曲か好きな歌もある。すぐに思い浮かぶものとして「ふるさと」「赤とんぼ」「小さい秋見つけた」、それから、これはジャンル的には歌謡曲ということになるようだが「遠くへ行きたい」などがある。そんな中で、現時点で最も好きな歌が「浜辺の歌」。なぜか、特別な1曲になっている。

 しかし、この歌にまつわる何か特別な想い出があるというわけではない。いつどんな状況で、この歌のことを知ったのかも全く覚えていないが、この歌の大らかなメロディーと、「風の音よ」という歌詞の部分で聞かれる半音階進行は妙に心をくすぐる。

 この歌に惹かれるのは、僕だけの個人的な現象ではないようで、今、手元にこの歌が録音されたものが5種類ある。演奏者は、チェリストのミーシャ・マイスキー、クリーヴランド管弦楽団シンフォニエッタ、歌手のスーザン・オズボーン、ジャズ・シンガーの鈴木重子さん、オカリナ奏者の宗次朗。国境を越えた人気曲となっている。

 作曲者の成田為三には、東北人特有の引っ込み思案なところがあったようで、残された顔写真からもそれが伝わってくる。

 性格的に自己宣伝を好まないところがあって、「浜辺の歌」は作曲してからしばらくそのままになっていたという。日の目を見たのは大正7年(1919) 竹久夢二の装丁による楽譜が出版されてからである。さらに一般に知られるようになったのは、文部省著作中等音楽教科書に採用されてから後のことになる。
 世界的なチェリストやヴォーカリストがこの曲を取り上げるようになる遥か未来の出来事など、作曲者自身、想像すらしていなかっただろう。

 為三の出身地秋田県北秋田市米内沢(旧森吉町)には、彼を記念した「浜辺の歌音楽館」というのがあって、彼のロボットがピアノを弾いてくれるのだそうだ。引っ込み思案だったという当の本人、天国でそのことを一体どう思っているだろう。

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※この歌の出だしが、「峠の我が家」に似ていると感じている方もいらっしゃると思います。スーザン・オズボーンもそんな中の1人らしく、1回だけ間違って、「峠の我が家」と同じ出だしで歌っています。

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