限界線に達したひとと、どう向き合うか~NHKスペシャル 看護師たちの限界線 を見て~
ずっと見たかったNHKスペシャルの録画を見る。
https://www.youtube.com/watch?v=OYPaKfumOj0
「看護師たちの限界線~密着新型コロナ集中治療室~」
思うことは1000ある。生々しい光景がうつしだされ、最前線で働く人たちの悲痛な叫び、心の声、もがき、無力感。
でもきっとその999は多くの人がすでに思うことを発信してくれているから、
私はそのあまり光があたらない1のところに触れてみようと思う
私はコロナ病棟で働いていないから、消して偉そうなことは言えないし、言う資格がもちろんないのは前提として。
そして、これは理論にも、どんなモデルにもあてはまらない、ただ私個人が感じた違和感として受け取ってもらえたら。
看護師3年目Nsが限界線に到達したとき
密着されていた看護師3年目のナースが、COVID-ICU病棟での勤務をつづけて、張り詰めていた糸がぷつんって切れてしまった時、悩んだ末に退職を決意した。
看護師長にその旨を伝える。
その後、定年退職をした後に、コロナの状況をみて臨時で復帰した元看護師長の方との2人のシーンに場面は変わる。
その元看護師長は、3年目ナースを新人時代から見守り、指導していた一番の理解者だそうだ。
個室に元看護師長と3年目Nsの2人がいる。
元看護師長「なんで辞めるの?」
3年目Ns「誰から聞いたんですか?」
元看護師長「なんで?原点は何?なんで?」
3年目Ns「何でって言われても…。辞めたくないですよ、辞めたくないけど、今一回辞めた方がいいだろうなと思って」
元看護師長「もったいないなぁ…」
途中で3年目Nsが退職を決意したきっかけを振り返るシーンが入る。
3年目Ns「今辞めないと、この先働けなくなると思ったから。」
元看護師長「そんなに追い込まれてたんだね」
元看護師長 涙を拭う。
元看護師長「自分の子を失うようで悲しいよ」
2人は涙を流しながら抱き合う。
たったこの短いやり取りが、私の脳裏から離れないのだ。
何が、こんなにもひっかかるのか
私は一視聴者として、この元看護師長と3年目Nsのこれまでの深い繋がりや信頼関係はわからない。
番組で切り取られた、たった一瞬のこの場面だけにフォーカスしてこんな記事を書くこと自体も間違っているかもしれない。
でも、どうしても病院を2回辞めた身として、このやり取りが気になってしまうのだ。
このもやもやはおそらく3つの理由から。
① 退職の旨が本人の意向なく広まっている
これはどこの職場でもあるあるかもしれないけど、自分が「まだ内密にしてください」と伝えていたことが、翌日には全部署に広まっていたりする。
「誰から聞いたんですか?」と3年目Nsが驚いている時点で、本人の意向とは別に退職の旨が広まってしまっている
どのような理由があるにせよ、番組のナレーションで「退職のことはすぐに元看護師長の耳にも入った」ってさらっと言っていたけど、そこ大問題だと思うのよ
私が留学を決意して退職の意向を伝えたとき、看護部長と看護師長はまじのまじで私が退職する2週間前まで秘密を貫いてくれたのには感動した(逆に多少ばれるか・・・と思ってある程度覚悟はしていたのに、本当に他のスタッフは「辞めるのてらもっちゃん!!!!」とびっくら仰天で、ここまでばれないことがあるのかと感動したくらい)
でも本来「明日からもう出勤できません」みたいな緊急フェードアウト(1回目の退職がそうだった)以外、本人の同意が得られるまで退職は隠し通すべきなんじゃないのかなと個人的に疑問に思う。
コロナの状況はそこも仕方ないのだろうか。もしご意見ある方はディスカッションしたい…
②「もったいない」は禁句
もし私がこの先、わからないけど管理職になる日がくるのなら、もしくは管理職じゃなくても同僚や後輩から辞めると伝えられたら、「もったいない」だけは絶対に言わないでおこうって決めてる。
もったいない、って、こちらがその人の能力の限界を定めているように感じる。
そのひとが看護師を辞めて直木賞受賞作家になったら?宇宙飛行士になったら?
あるいは、看護師を辞めることなく別の機関でいきいきと働くことができるようになったら?
わたしたちは何を持って「もったいない」と言い切れるのだろうか。
番組の最後には、看護師3年目Nsの方は退職をして、別の病院で働くとナレーターが言った。
心から良かったと思った。
こころの休息が必要で、もしこのまま働き続けてあるとき突然バッテリーが完全に切れてしまっていたなら。
この世から1人、看護師を失うところだった。最悪の場合、命までも失う可能性があった。
大げさにきこえるけど、それくらい「立て直せる状態で退くこと」って重要だと思う。
その絶妙なタイミングを、「もったいない」の一言で誰かが止めてしまうのは、あまりにも罪深い。怖いくらいに。
元看護師長が嘆くようにつぶやいた「もったいないなぁ」は、
限界線を越えようとしている彼女に、適している言葉なのか。
私にはわからない。
③ 何に対しての悲しみか
一番の理解者である元師長から、「自分の子を失うようで悲しいよ」と言われたら、
私は心がぎゅうっと、雑巾絞りでもされたかのように痛むと思う。
その人がどんな気持ちだったかは推測でしかない。
最前線から退いたら、その関係は絶たれてしまうのだろうか。
自分の子を失うようで、じゃなくて、「自分の子がこんなにも追い詰められてしまって悲しい」だったら、ちがっていたかもしれないのに。
誰かが退職するとき、何に対して悲しみを感じることができるか。
そのひとがいなくなって、私の仕事が大変になる→悲しい
そのひとが打ち明けられずにここまで耐えていたこと→悲しい
そのひとを支えられなかった自分→悲しい
いろんな悲しさがあるなかで、それをどう、意味づけるか。
この場面を切り取っただけで、勝手に看護師3年目Nsに自分を重ね合わせると、私は最後のひとことがとにかく悲しかった。
さいごに
何度も書いているけれど、これは映像の編集で切り取られたたった1場面のシーンについて、私が個人的にああでもないこうでもないと思い巡らせた記事。
編集されているとわかっておきながらこんな思いになってしまう自分は情報リテラシーが低いこともわかっている。
きっと、裏側では別のドラマがあるはず。
決して元看護師長を批判しているわけではなく、こんな関わり方もあるんじゃないかなとこれからの人生のヒントを探していきたい。
自分も含め、これからも多くのひとが限界線に到達したとき(プラスな退職も含めて)自分がどのように関われるか。どんな言葉をかけられるか。ずっと追究していきたい。
特にこのコロナ禍では、深刻な人材不足で、こんな細かいことも言ってられんのかもしれないのが現実。
それでも、そういう状況だからこそ、限界線まで頑張ってきたナースたちが「ちょっと、もう、厳しい」と伝えたとき、それまでの努力と迷いと意思を尊重できるような人でありたいなと思う。
そして、番組に登場していた看護師3年目Nsの方が、これから元気いっぱいに美味しいご飯をたべて、ぐっすり眠って、あったかいお風呂にはいって、家族と過ごせる日常を取り戻せることを切に願います。
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