映画「アザーズ」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第82回
いつでも愛してる
2001年公開「アザーズ(The Others)」
文:〝美根〟(2024年2月25日連載公開)
心震わして、感動したり、興奮したりすることって滅多にないけどすごく大事。いろんな映画を見てきて、いろんな気持ちになってきたけど、恐怖と悲しみに近いけどまた違う高揚感で手が震えて、ぐっと込みあげたのは、後にも先にもこの映画だけ。私が午後ローで出会った「アザーズ」は、ホラーだけどグロいシーンは一切ない、演出で魅せる素晴らしい映画なんです。ここではもちろんネタバレなしで書いていきますが、私の文章だけ読んだら、前情報無しにすぐさま見て欲しい!世の中は恐ろしいことにネタバレトラップが多いのよ!トラップをすり抜けて思い切り堪能してほしいこの名作を今回ご紹介します。
【母と子二人、そしてやってくる三人組】
戦後間もないイギリス、ジャージー島。大きな屋敷にはグレースとその子どもアンとニコラスが暮らしていた。アンとニコラスは光アレルギーを持っており、子供達のいる部屋では必ずカーテンを閉め切って日光を遮っている。15個の鍵でドアの開け閉めを厳重に管理し、暗がりではランプの灯りを頼りに過ごしていた。ある日、ミルズ、タトル、リディアという三人が使用人として雇ってもらいたいと屋敷にやってきた。人手が足りず困っていたグレースは温厚そうな三人を見て雇うことを決める。その頃からか、人がいないはずの部屋から物音がしたり、かけ忘れることはないはずのドアの鍵が空いていたりと、奇妙な出来事が続くようになる。子どもたちを守るため、グレースはこの現象の真相を突き止めようとする・・・という物語。
【厳格で神経質な母】
グレースを演じているニコール・キッドマンの美しさたるや!だがしかし!彼女の魅力とは、凄まじい表現力にもあるのだなと強く思わせる本作、なのだ。
病気を持つ二人の子を守るため、信心深く聡明に育てるために、厳格に細心の注意を払って過ごすグレース。戦地に赴いたまま帰ってこない夫の安否にも心を擦り減らし、子どもたちと家を守らなくてはならない、という大きなプレッシャーにもがんじがらめになっているのだ。今にも不安が溢れ出てしまいそうな繊細さと、時にヒステリックにカッと見開く潤む瞳、真一文字の口元、ひきつる瞼や、凛と伸ばした背すじからも、グレースの頑固さや生真面目さが滲み出ているのだ。彼女の一挙一動が美しく、正しく、目が離せない。それだけで、もうお腹いっぱい、ってくらいに。・・・なんだけど、さらに病みつきにさせてくるのがこの物語の展開と、音楽、なんです。
【静寂と暗闇、光】
光と闇の存在感は、本作においてかなり大きい。子どもたちの”陽の光を浴びれない”という設定が、光を追いやり視覚的に閉塞感をもたらし、余計に恐怖を感じさせるし、逆に光に照らされてあらわになる部屋の寂しい質感もまた良い!ほぼ家の中で物語が進んでいくのに、この光と闇によって、同じ場所でも全く違う映像になるから、全く飽きがこない。
「この家では、何よりも静寂を重んじる」とグレースが使用人たちに説明するように、静寂のシーンが多いのだが、それによって物音が際立ったり、恐怖で惹きつける効果を得ている。静寂があるからまた活きてくるのが音楽!なんと監督・脚本のアレハンドロ・アメナーバルが音楽まで務めているとのこと・・・。スッゲェ。だからぴったりなのね。不気味さの増長、安堵感を印象づけていて、かつ、繊細で、美しいんだ…。バロック〜古典を思わせるチェンバロの音から始まって、荘厳さと慈愛に満ちたストリングスになっていくエンドロールも大好き。
そしてある場面でグレースが唄を口ずさむのだが、これをカバーしよう!と調べてみるも、曲名がわからないトラブル発生!私のギリギリのリスニング力で歌詞を聞き取って、検索をかけたところ「I Only Have Eyes Fou You」という曲がヒットしました。あれ、でも一番に検索ヒットしたザ・フラミンゴスのリリースは1959年で、時代背景とあわないぞ…とさらに調べたところ「DAMES(泥酔夢)」という1934年公開の映画の挿入歌でした!グレースはこの映画を見たのかな。今回のカバーも1934年版の原曲の方に寄せているので、映像も見てみてね。
【どこへ行こうか】
プロットと演出で魅せてくる上質なホラー映画は何度も見たくなる。きっとみんなもすぐにまた見たくなるはず。
今回の指輪は、グレースが持ち歩く15個の鍵を大きなモチーフに、ドアとランプも作りました。鍵が揺れるのとランプのガラス部分がお気に入りポイント。この映画の指輪としてデザインしたんだけど、完成してみて、何となくこの指輪は、次の扉へ光と共に開けているようにも見えて、自分にとっても、意味のあるものになった気がしてます。
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モチーフ:15個の鍵の束、ドア、ランプ
音楽:「I Only Have Eyes Fou You」
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