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伸び切った焼きそばでピクニック

はじまり

ある土曜日の朝、隣の市に住む祖母から電話がかかってきた。

「おじいちゃんの畑で里芋がとれたから取りにおいで」

内心少々面倒なことになったと思ったのは伏せておこう。
この「おじいちゃんの畑」という場所は祖父母が住む家から車でさらに20分ほど山を進んだ場所にある。

そこへ祖父は電動付き自転車に乗って通う。
ちなみに今年88歳になった。

約束の時間に祖父母の家へ行き、祖母を車に乗せ、山道を進む。
ここで一つ良かった点は山道と言えど、
某山奥に住む一軒家を特集する番組とは違い、
ちゃんと舗装された道を進むということだ。

しばらく走ると朝から畑に来ている祖父の自転車があった。
畑の手前で母と祖母を降ろし、車を停めに行く。
ルームミラーで後ろを見ると祖母と母が側溝に何か水を流している。

「何やってんだ?」と不審に思ったが、とりあえず車から降りた。

歩いて祖母、母の元へ行くと、
なんと焼きそばの湯切りをしているではないか。

少々混乱しながらも車内でのことを思い出した。
ほのかに香る、謎のインスタント臭。

謎のピクニック

畑の隅にシートを敷き、祖母が作ってきた普通の2倍くらいある麺の焼きそばにソースやマヨネーズを入れ、かき混ぜる。

畑で作業をしている祖父を呼び、謎のピクニックが始まった。

混ぜている段階で麺が「これ以上お湯を吸えません」と
言い出しそうなほどのやわやわなのは容易に想像できる。

そして、焼きそばの他に爆弾級に大きい鮭のおにぎり。
これは祖母お手製の爆弾だ。
不思議なのだが、祖母の作るおにぎりは食べているとほろほろと崩れていく。
それがまた美味しかったりする。

新型コロナウイルスの影響で、家の中に籠ることが多くなった。
そんな中、久しぶりに外で、自然豊かな山の中で、広い秋の空を見ながら食べる食事はなんだか格別なものだと思った。

きっと家の中で食べていたら一口目でぶん投げていただろう
伸び切った焼きそばも、
この広い空の下で食べているだけで何故か許せてしまい、美味しさも感じてしまう。

「空見てご飯食べるの久しぶり」

思わず空を見上げてポツリと言った。


コロナコロナと大騒ぎをしている世の中にも、
こんなにゆっくりと時間が流れている場所があったのかと
この騒ぎで人は何か忘れていることがあるんじゃないかと

空を見上げて思った。

食べ始めた頃にあった薄く広がった雲は風が強かったせいか、
食べ終わる頃には空に散っていた。

追記として


祖父は食後に椎茸狩りや大根掘りをさせてもらった。

椎茸は自分の顔くらいあるのではないかと思うほどのお化け椎茸。

大根はスーパーで買うよりもひと回り、いや、
ふた回りほど大きい立派なものだった。

畑は宝の山だった。

もちろんお土産に拳より大きい里芋やさつまいもをいただいた。

実らせるには相当の勉強と世話がかかるに違いないが、
祖父はこれを一人でやっている。
小さい頃から見てきたから当たり前だと思っていたが、
高齢の祖父としては重労働に違いない。

しかし、とても人生を充実させているんだぞ。
という表情はそこにあった。

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