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肺炎が良くならないときに考えること

“肺炎が良くなる”とは

 なんとなく、熱が下がったとか、CRPが下がったとか、レントゲンの影が良くなったとか、そんなことをイメージしやすいかもしれません。
 ただ、意外に熱は遷延しますし、レントゲンの肺陰影も完全に消失するのには経過が良くても3週間以上かかることが稀ではないです

 細菌感染症は、基本的には1つの臓器を侵します。細菌感染症が良くなったかどうかを判断するためにはその臓器の症状や所見が良くなったかをみることになります。また特に重症感染症(敗血症)の場合は臓器所見とは別に血圧や頻脈が改善することで良好な経過と判断することができます。
 肺炎の場合は、呼吸数やSpO2、痰の量や中身(=グラム染色で菌の減少を確認する)などがまず改善してきます。

通常の経過であれば3日(72時間)以内には改善を認めることが多いですが、改善が乏しい、あるいは悪化しているのであれば何か次の手立てを考える必要があります。

ブログ記事「市中肺炎短期治療」にまとめたように、改善していれば最短5日(以下)で治療を終了します。

Nico and …

どこぞのアパレルメーカーのようですが、肺炎が良くならない時に想起すべき病態をゴロ(Mnemonics)にしたものです。

上から順に確認していく

一つひとつ解説します。

Natural course(自然経過)

 上記で触れたように、肺炎の陰影や発熱といった非特異的症状は改善するのに意外に時間がかかることがあります。そのような場合は臓器所見に注目しましょう。臓器所見が改善しているのであれば、基本的に心配は不要です。特に肺炎球菌やレジオネラでは治療が奏効していても検査所見の改善が乏しいことが良くあります

Intracellular pathogens(細胞内寄生菌など)

 市中肺炎ではいわゆる非定型肺炎(マイコプラズマ、クラミジア)を、どのような肺炎であれ一度は結核を想起すべきです。重症肺炎であれば初めからフルカバー(βラクタム系+マクロライド等)が必要です。結核性肺炎の場合も通常の抗菌薬が当初効いたようにみえることがありますので、完全に除外しないのが大事です。高齢者の肺炎症例では、一度は喀痰抗酸菌検査を提出することを考慮した方が良いです。
 多くのウイルス性肺炎は自然軽快するのでこの時点で鑑別に挙がることは少ないです。(重度の細胞性)免疫不全が背景にある場合、日和見肺炎として重症ウイルス肺炎を呈することがあります。こういう時のmultiplexPCR検査は重要です。

Comobidity(併存症)

 最も重要な項目です。併存症の存在は肺炎の治癒を往々にして妨げます。急性期に介入できる点がないか検討することは極めて大事です(例えばCOPD急性増悪を合併していないか、慢性心不全が増悪していないか、など)。誤嚥性肺炎であれば、抗精神病薬や電解質異常など嚥下障害を助長する因子がないか検討することも重要です。
 また肺炎の治癒を妨げる未知の疾患が背景にあることも検討すべきです。大きく分けると気道のクリアランスの問題(肺疾患、嚥下障害、神経筋疾患など)と、免疫不全に分けられます。特に神経筋疾患(パーキンソン症候群、ALSなど)は肺炎を契機に診断する機会がありますので、注意してみてほしいです。

Obstruction(閉塞)

同じ部位に肺炎を反復する場合や改善しない場合には、画像検査(多くはCT)を追加してみるのも手です。気管支に閉塞や狭窄をきたしている(多くは腫瘍に伴う)こともあります。確定診断のためには気管支鏡検査が必要です。

Abscess(膿)

 肺膿瘍や膿胸といった治療にドレナージを要する感染症である可能性もあります(大抵嫌気性菌カバーも必要)。通常はObstruction同様に画像検査を追加することで診断できます。背景疾患や症状の経過、画像所見から通常の市中肺炎と異なることを見抜けると初診時に診断できることが多いです。稀だけど重要な非典型例はインフルエンザ肺炎後の黄色ブドウ球菌による肺膿瘍でしょうか。

Non-infections(非感染)

 ここに属する疾患は多いのですが、頻度と重要性から

  • 心原性肺水腫

  • ARDS

  • 間質性肺疾患

の最低3つを想起することが重要です。明らかなうっ血所見を除くと、追加検査や胸部CT画像パターンなど、ある程度診断に専門性が必要になることも多いですので、非感染を疑った場合呼吸器内科医へ相談するのが良いと思います。

Drug-resistant bacteria / Dose

 最後に薬剤耐性菌です。肺炎が良くならない時、初めから抗菌薬が不応の病原体を想定することは多くありません(レジオネラ等は除く)。喀痰から検出される病原体すべてが起炎菌というわけでもありません(=培養検査に騙されない)。抗菌薬選択に専門性が必要なこともありますので、これまでの介入を行なっていても改善が乏しく、かつ耐性菌が検出されている症例では遠慮なく専門家にご相談いただければと思います。
 もちろん抗菌薬の量も重要です。よく使用されるβラクタム系抗菌薬が肺炎に対して過小投与になることは多くないと思いますが、特に重症感染症では躊躇せず十分な量の抗菌薬を使用して欲しいです。合わせて投与経路が適切か、薬物相互作用の問題がないかについて、薬剤師とも相談いただきたいです。


 肺炎診療は非常に奥深いです。
今回特殊な病態(重度の免疫不全、真菌感染症など)は話題から除外していますが、背景疾患が複雑あるいは重症である場合には考えなくてはならないことはさらに増えます(…の余韻)。ただし、それでも感染症診療の原則は同じです。注目すべきは臓器所見。検査データや画像検査、培養結果は重要ですが、必要以上に振り回されないように注意しなくてはいけません(だからNico and…。この順番が重要)。

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