はじめにはじめまして。内科医のジレンマ(https://viceversa888.exblog.jp/)という、主に医療従事者向けのブログを運営している内科医のバンと申します。 診療科としては呼吸器内科医で、専門は感染症診療と研究ですが、 1)初期研修後はしばらく地方で一般内科医として勤務 2)離島で病院診療&訪問診療 3)現在は地方都市のICU/救命センターで勤務 と短期間ずつではありますが、様々な場所で働いています。 そんな経緯もあり、呼吸器や感染症診療だけでなく、内科
B.cereusB.cereus(セレウス菌)とは B(Bacillus).cereusは芽胞をもつグラム陽性桿菌で、大きく直線的(竹の節状と呼ばれる)に連鎖する特徴的な見た目をしています。 広く自然界に分布していますが、芽胞をもつことで高温や乾燥、消毒液に対して抵抗性を有しており、しばしばコンタミネーションが問題となります。 また食中毒の原因微生物としても重要です。 病院で最も問題となるのは医療関連感染症です。 洗濯されたリネン、タオルが汚染され、カテーテル類を介して
以前にXでポストして、それなりに反響があったテーマです。 noteでもまとめておこうと思います。 確かに吸収効率は総じてよくない DU=だいたいう○こ、と呼ばれる所以ですが、確かに経口第3世代セフェムの腸管から血中への吸収(≒いわゆるバイオアベイラビリティ)は低く、最も高いバナン®️(セフポドキシムプロキセチル)でも50%弱程度で、それ以外のフロモックス®️(セフカペンピボキシル)やメイアクト®️(セフジトレンピボキシル)などは14-20%程度しか吸収されません。 そうす
経静脈的な抗菌薬投与の継続が困難な状況在宅、あるいは末梢静脈確保が困難な状況において、経静脈的抗菌薬投与を継続することには様々なジレンマが存在します。 そもそも抗菌薬治療の適応かどうか 以前ブログでも取り上げましたが、疾患終末期あるいは老衰とされうる状況において、感染症に対する抗菌薬投与を続けるべきかどうかは有益か無益かをきちんと考える必要があります。そもそも抗菌薬をどうするか以上にケアのゴールを再設定したり、十分な緩和治療を提供することが重要です。 ガイドラインで示さ
ついに今月(2024年8月)アスペルギルス IgG 抗体(ELISA法)が保険収載されました(390点)! 注意点としては真菌の抗原検査と同時に出すと主たるもののみ算定されます。原則的には慢性(進行性)肺アスペルギルス症とアレルギー性気管支肺アスペルギルス症の診断にのみ用いる検査です。 https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001276022.pdf 簡単に肺アスペルギルス症と抗アスペルギルス抗体について解説してみます。今回治療の話
CQだけ見たって、何も学べない2024年4月に『成人肺炎診療ガイドライン2024』が発刊された。GLsは非専門家に向けて広く共有されるべきものであり、できればダイジェスト版だけでも無料公開されてほしいと思うが、なかなか難しい。 ただ、GLsの推奨文やCQを読むだけでは、日本語で書かれたGLsを読む意味は半減してしまうと思う。CQsの前にSCOPEと題して各肺炎の病態、エビデンスが解説されている。教科書的な意味としても重要であるが、このSCOPEにガイドライン作成の葛藤や「そ
株式会社じほう様より、「もったいないコンサルト」(矢吹拓 編)を献本いただきました。 私もコンサルテーションで困った経験について、webアンケートにお答えさせていただきました(誌面上にも掲載されています)。ということで全くフラットな立場ではありませんが、簡単に感想をまとめてみたいと思います。 おすすめ度:★★★★☆ 対象:初期研修医〜後期研修1-2年目、コメディカル 本書は三部構成になっており、chapter1「喜ばれるコンサルテーションとは」はコンサルテーション
前回からの続きです。 その他の問題についても簡単に掘り下げてみましょう。 結核(118A-55、118B-29)ポイントは1)罹患発症リスク、2)経過が亜急性であること、3)感染対策(空気感染)の3点でしょうか。 1)罹患発症リスク 曝露歴:濃厚接触(同居など) 医療従事者も感染ハイリスク 居住地:低所得者層の多い地区 基礎疾患:HIV、慢性腎不全、コントロール不良な糖尿病といった免疫不全状態はもちろん、胃切除後や珪肺患者でも注意が必要です。加齢に伴う細胞性免疫低下で過去の
今年も2/3-4に第118回医師国家試験が行われました。傾向をつかんでおいて、学生教育に活かそうと毎年ざっとみています。また実臨床に役立つかたちに昇華できればと思い、感染症分野について少し解説を加えてみようと思います。 梅毒(118A-10、118B-37など)梅毒とは梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)による多彩な症状を呈する感染症です。 元々出題傾向のある感染症ですが、昨今の梅毒感染者増加は当然影響しているものと考えます(その他婦人科領域や泌尿器科領
少し前に話題になっていたこともあり、今一度簡単にまとめてみることにしました(なるべく難しいことは抜きに)。 脂肪製剤とは? 三大栄養素といえば、炭水化物、タンパク質、そして脂肪ですね。脂肪乳剤とはこのうち脂肪の補充を目的とした点滴製剤です。現在本邦で使用可能なのはイントラリポス®️(10%、20%、大塚製薬)のみです。大豆油を主成分としており、これに乳化剤としてレンチンが含まれています。脂肪酸の多くはリノール酸というn-6系多価不飽和脂肪酸です。リノール酸の代謝物が炎症を
「薬剤師の処方権」が話題です。超えるべきハードルはいくつもあるように思いますが、基本的な方向性としては賛成です。ただ、SNS等でかなり稚拙な議論が行われていることにはやや辟易しているところです。一部で「対症療法」が軽く扱われているのも気になりました。 対症療法とは「病気による症状を和らげる、あるいは消す治療」「原因療法、根本治療の対照にあるもの」と定義されることが多いです。 かぜを引いた時に、原因であるウイルスを直接排除できないけれど、咳や鼻汁といった症状を和らげる治療もそ
もうAIなしで仕事は成り立たないChat GPTが一つのきっかけとして、「AIサービスの大衆化」が驚くべきスピードで進んでいます。勿論万能ではなくそれぞれに限界がありますし、しばしば誤りも認めますので、僕ら専門職はより一層気をつけて利用しないといけないです。しかしながら、特に「比較的気を使わなくても良い仕事」については圧倒的にAIに任せたほうが効率が良いですし、下絵を描いてもらうだけでも作業は楽に時短になるのは間違いないです。 もはやAIなしではやっていけないほどに。 まず
今回のブログ記事:黄色ブドウ球菌菌血症のマネジメント に関連して、ブドウ球菌(GPC cluster)が血液培養から検出された時のフローをつくってみました。 一部私見も入っていますし、すべては網羅できていませんので、また改訂するかもしれません。 ブドウ球菌(GPC cluster)が血液培養から検出されたら基本的にブドウ球菌が検出された場合には、コンタミネーションではなく真なる菌血症として初期対応をします。 感染源となる人工物、カテーテルがないか、感染性心内膜炎を疑うような
前回に引き続いて国家試験問題に関連した内容を(なるべくさらっと)まとめます。 117B-18 治療薬物モニタリング治療薬物モニタリング(TDM)が必要な抗微生物薬を答えさせる問題が出題されました。 TDMの対象となっている抗微生物薬は グリコペプチド系:バンコマイシン、テイコプラニン アミノグリコシド系:アルベカシン、アミカシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン トリアゾール系抗真菌薬:ボリコナゾール があります。 ただし、特定薬剤治療管理料が算定可能なのは入院のみ
さて、先日(2月4、5日)に今年の医師国家試験が行われました。学生教育への応用や、その年のトレンドが見えるので、毎年ざっと解いています。 今年の問題は例年と大きな傾向の違いはなく、そのまで悪問・奇問はなかったかなと思います。感染症分野も(多少異論のあるところはありますが)、正答に辿り着けない難しい問題は少なかったと思います。そんな中でも比較的回答が割れた問題について、できれば今後の臨床に活かせる形に昇華したいと思い、ご紹介します。 117A-63 輸入感染症の基本をおさえよ