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周術期における内科の関わり

「この患者さん、手術(全身麻酔)できますか?」「耐術能はいかがでしょう?」
 総合病院に勤務している内科医であれば、このようなコンサルトを受けたことがあるのではないでしょうか。
 しかしながら、日本における旧来の内科トレーニングの一環として、周術期について体系的に教わる機会はあまりない(なかった)のではないかと思います。一部を除き、周術期ではどちらかというと臓器専門的な評価・介入よりも臓器横断的なマネジメントの方が必要です。また患者の高齢化、多疾患併存により、その重要性はさらに高まっていると考えます。
 海外や、本邦でも一部の病院では、総合内科・総合診療医が周術期マネジメントを担っており、正直に言って(ほとんどの場合)教育を受けている彼らの方が上手なのではないかと思っています。

 とはいえ、ほとんどの総合病院では(臓器別)内科医が上記のような相談を受けることが多いと思います。ただし実際のところ耐術能を評価してほしいということは稀です。よほどのことがなければ手術を検討している様な患者さんは、少なくとも技術的には「手術ができて」「全身麻酔も可能」です。
(稀に、本当に全身麻酔しない方がよいという患者さんもいますが…)
 周術期のコンサルテーションで求められているのは
1)併存症のコントロール(術前検査で初めて明らかになった疾患も含む)
2)周術期合併症のリスクと予防、発生時の介入

であろうと思います。

 こうした周術期の内科的マネジメントについてまとめた参考書といえば、
「Decision Making inPerioperative Medicine: Clinical Pearls」
www.amazon.com/dp/1260468100
であり、
「周術期内科管理のディシジョンメイキング」
https://www.amazon.co.jp/dp/4815730776
として、邦訳版も読むことができます。
内科医としてトレーニングを受けている先生方は、まずこの書籍を手に取っていただければ役立つのではないかと思います。

せっかくなので本書や類書から学んだ要点をごく簡単に示します。
(勉強会用に作成したスライドの一部抜粋です)


ASA-PS分類

 この分類が役立つと言うよりも、特に麻酔科医との共通言語として知っておいて損はないかなと思います。PS Ⅲのような患者さんをどのように術前から介入するかが重要ですね。(あるいは必要なら手術を遅らせてでも)

術前検査

 いわゆる“Choosing wisely キャンペーン”の一環として、術前検査は全例(ルーチン)には不要であるとされています。ただ、高齢患者や一つ一つの疾患は軽度でも多疾患併存だったり、そもそも治療を受けているはずなのに十分にコントロールされていない、健診を全く受けていないなど、術前のベースラインが予測よりも悪い場合も往々にしてあるので、難しいところです。

 実際のところ、術前に肺機能検査を受けていても適切な診断・治療に結びついていないケースや未診断の重度の心臓弁膜症のために術後に心不全が悪化するというケースも存在します。基本的なことですが、きちんと聴診すること、行った検査についてはきちんと評価することが重要ですね。

循環器リスク

 リスクカリキュレーターは色々ありますが、どれも一長一短です。ACC/AHAステップワイズアプローチはシンプルでわかりやすいです。
2024 AHA/ACC/ACS/ASNC/HRS/SCA/SCCT/SCMR/SVM Guideline for Perioperative Cardiovascular Management for Noncardiac Surgery: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIR.0000000000001285
 運動耐容能は「4METs」をカットオフとして確認します。4METs≒ゆっくりと階段を登れる、程度なので、2階で生活できている人ならとりあえず大丈夫そうです。7METs≒ジョギングくらいあれば尚良いですね。
日本循環器学会 循環器病ガイドラインシリーズ
2022年改訂版 非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/

まず聴診!

呼吸機能、術後肺合併症リスク

 入院期間と死亡率に関連する稀ではない合併症ですが、
手術リスク>患者リスクであり、術前検査は注意深い臨床評価によって得られるリスク予測以上の評価にほとんど寄与しない(=未診断のCOPDを確定診断する程度)とされています。
 とはいえ先に述べた通り、術前に未診断の呼吸器疾患が存在することも稀ではなく、きちんと評価・治療すること、禁煙、そして可能な範囲で予防に努めること(必要に応じて術前からのリハビリ、肺保護、オピオイド・鎮静薬の最小化、術後の早期リハビリ・離床)が重要です。

CKD、透析患者

 こちらも基本的には一つひとつ可能な範囲でリスクを減らしていくのみです。

KDIGO ガイドライン for AKI(2012)のバンドルを守ったら予防できるかと言うと難しい

肝疾患

 これも原因精査が十分行われているかがまず大事です。出血、血栓症、感染症、薬の副作用・効果遅延などのリスクがありますが、程度を予測するのは難しいです。Child(-Turcotte)-Pugh スコアやMELDスコアは予後予測に有用とされています。Child-Pugh CやMELD>15では、非手術治療や緩和ケアも考慮すべきです。

高齢者:手術はACPのきっかけの一つ

 内科医が関わることで、高齢者診療をより円滑に行うことができたら良いですね。またそれほどリスクの高くない手術だとしても、人生の中ではそうあるイベントではありませんから、価値観や死生観、家族の在り方などを考える一つのきっかけになるのではないかと思います。

内科コンサルテーションだけでここまですべてに関わることは難しいです。個人的には周術期から外来までサポートするようなHospitalistが国内でも文化として、システムとして醸成されていくことを願っています。

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