親と日本語で話せない

日本に住んでいたら『日本語に加えて英語を勉強させたい』と言う形のバイリンガル教育をされているご家庭がほとんどだと思う。

しかし、アメリカに住んでいる国際結婚家庭(日本人とアメリカ人夫婦)の場合、『英語に加えて親の母国語でもある日本語を勉強させたい』という形のバイリンガル(育児)教育になる。

私も昔は「母親が日本人だったら世界のどこに住んでいてもその子供は日本語は出来る子になるでしょ。」って思ってた。

しかし今から約30年前、私が大学生の時に、キャンパスで知り合った帰国子女の男の子(両親は日本人だけど父親の仕事の関係で10年以上外国暮らし。)と話をした時、彼が「今日のclassはskipしちゃダメ?OK?」とか「ん?ろうにゃくなんにょ?意味なに?」とか言うので、今までそんな調子での会話を友達としたことなかったから、本当にびっくりして「ああ、こんな状況の日本人もいるんだなぁ。」と感じたのを切っ掛けに語学やバイリンガル教育について深く自分なりに考える様になった。(因みに件の彼は大学を卒業したら外資系の企業に就職した。もしかしたら今頃外国暮らしをしているかも知れない。)

そしてその後アメリカに自分が住むことになり、私自身が子供を産むまでの間に色々な国際結婚家庭をみる機会があったのだけど、本当に子供の語学力は家庭によって様々で、熱心にバイリンガル教育を行っている家庭の子供とは私も日本語で問題なく話が出来るが、そうでない場合、本当に片言、もしくは私の話があまり通じていない感じで、返事も英語だったりした。

今から約25年前の話である。アメリカの片田舎に住んでいた時、ふとした機会に親しくしてもらっていたご家庭のお嬢さんはお母さんが日本人だったが、お母さんはアメリカ人のご主人とお嬢さんとは英語で話をしていて、お子さんには「面倒だから」日本語を教えたことがない、と仰っていた。しかしお母さんの英語はネイティブレベルではなかった。そしてそのお母さんは日本語がしゃべりたくなったら大勢の邦人を週末になると自宅に呼んでパーティをされたので、私もたまに誘ってもらっていた。お母さんはその頃50代位だったので、私にしたらお母さんよりはそのハーフのお嬢さんとの方が年も近かったし、自分の英会話の相手にもなってくれたのでお嬢さんと話をよくしてた。

私も若かったし、お嬢さんもティーンエイジャーだったので私は「あなたはお母さんと英語で話をしてるけど、お母さんの英語も完璧じゃないと思うし、もしかしたら深い話とか通じない時があると思うんだけど、そういう時どうしてるの?」って聞いたことがある。その時のお嬢さんの答えが私には衝撃的だったから今でも覚えているのだが、彼女は「うちのお母さんの英語は小学生並みだから私は難しい話はお母さんとはしない。だから大丈夫。」というものだったのである。

そして彼女はこうも言った。「私のお母さんは私に日本語を教えてくれなかったけど、毎週の様に日本人がうちに来て、皆が日本語を話して来たから、簡単な日本語は何となく聞き取れる。でも自分から話せないし、もうわかんないふりしてきた。お母さんに教えてもらいたかったけど。。。」

確認しておくが、このご家庭はだからと言って不幸せに暮らしている訳ではなかったし、とても大らかなお母さんを慕っている邦人は周りにいっぱいいた。ご家族はご家族の幸せを掴んで仲良く暮らしていらっしゃったので、私はその家族の生き方に何の異論もない。その生き方を尊重する。

しかし、私がこの親子の状況にびっくりしたことは確かだ。そしてこの時に感じた色々な思いや考えが後の私が自分の家庭を作り上げていく上でのバイリンガル教育のやり方に対しての強い原動力になった事も確かである。

それぞれの家庭にそれぞれの環境や状況があり、それぞれの家庭にそれぞれの信条ややり方がある。

だから私は「絶対にやる!自分が出来る限りのバイリンガル教育をやる!なぜやるのか?と言うと、私がやりたいからだ。私が自分の子供と何でも日本語で話して、ずっと深くつながっていたい、そして私の両親とも日本語できちんと会話してほしい、だから私はバイリンガル教育をやる!」と決めた。そしてそれを20年粛々と遂行してきただけである。

長くなったので今回はここまで。