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『銭湯にみる高齢化の現場』

HR Essay-2020-007

『銭湯にみる高齢化の現場』

私の住む長野県の松本市周辺は温泉も沢山あり、温泉巡りも楽しく、かけがえのない環境である。温泉とは異なり、銭湯もまた楽しみ多き場所でもある。時々近隣の銭湯に行くことがある。歩いて100メートル以内なので、気軽な服装でこっそり行くことができる距離。折角の近隣の銭湯なので、夕方の早い時間帯に行くこともある。

銭湯の入浴料は400円。自宅からは500円硬貨をもって出て、番台で支払う。浴槽はさまざまなタイプがあり、大きな浴槽と、泡の出る浴槽、寝た状態で入れるもの、また薬草湯などいくつかあり楽しみも多い。もちろん、壁一面には、期待を裏切らず、駿河湾から眺めた富士山のタイル細工が堂々とその雄姿を現している。

「旅ゆけば~駿河の国の茶のかおり・・」というフレーズが頭の中を駆け巡る。幾日か通う中で、脱衣場で異なる感覚に気づく。すべてがゆっくりした時間になっているのだ。それは、リラックスしてということではなく、脱衣、着衣の動作が、明らかにスローモーションをみているかのような風景に映る。夕方の時間ということもあり年配の方がほとんどで、日本の高齢化の現場に居合わせたという実感をもつ。

内閣府の高齢社会白書では、65歳以上の高齢化率は、既に25%を超えている。つまり4人に1人の割合である。2060年には、1人の高齢者に1.3人の現役世代という比率になる試算である。ほぼ半分は65歳以上という比率である。

一方で、転職市場を通じて痛感するのは、求人の年齢目途が40歳を超えると極端に厳しくなるという現実である。企業の人事担当者が抱く、年齢が高い方を雇用する従来型のリスクは、私も長年人事を担当してきたので痛いほど理解できる。そのいくつかの理由の中に、管理職年齢との重複により、新卒一括採用で内部昇進に基軸を置いた組織管理により、中年層からの管理職ポストに対しての過剰感という要員構造上の問題と、濃密な内部労働市場での人間関係を構築するための許される時間の絶対量が少なくなるというリスクである。

長年積み上げてきた豊富な経験を年齢でなく、仕事や職務遂行能力を基軸に機会配分ができる雇用・人事システムの工夫が、高齢化が進展する環境に下においての重要な人事課題になってくる。

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