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2022.1.8

使えない香水がある。
この前のクリスマスイブに、友人から香水が届いた。箱を開ける前の「中身はなんだろう」というドキドキ感はなかった。1カ月ほど前に「オリジナル(オーダーメイド)香水を贈りたいから、アンケートに答えて」というメールがあったのだ。友人の同僚が、オリジナル香水の店を始めたらしい。
アンケートの内容は、好きな香り、苦手な香り、体調、持病、どんなシーンで使いたいか、憧れる人物像など、繊細な項目がかなりあった。これまで市販の香水を買った経験はあるものの、自分だけの香りを調合してもらえるのは初めてだったので、ひとつひとつの質問に真面目に答えた。そして、あまり期待せずに待っていた。
というのも、香りの世界には、お香、香水、オーラソーマ、アロマオイルなど種類が豊富にあり、実際にいくつか試したが、使い切らないうちに飽きたり、香りがキツかったり、しつこかったり、何らかの効果を得るために我 慢するような香りだったりなど、いまひとつ肌に合わなかったから。
だからアンケートの返信をしてからも、あまり意識せずに、というかほぼ香水のことなんて忘れてしまっていた。それから約一か月後のイブの日。シンプルなペールブルーの箱に入った香水は、なんと予想以上の上物だった。
水彩画のような透き通った爽やかさと、優しい風に運ばれてきたような軽やかさは、初めての体験だった。たしかに、アンケートに自分の好みの香りを書いたが、それ以外に調合された数種類の香りとのバランスが絶妙だった。
子供のころ、茶の間のテレビでフランスの調香師についての番組を見たことがある。セレブであろう夫人が、香水瓶が整然と並んだ店に入り、調香師に細かい注文をして自分専用の香水を作らせるという、田舎の少女からみれば「なんという夢の世界でしょう!」というもの。あれから数十年を経て、夢が叶ったのだ。
アンケートの気分転換に使いたいという要望を上手く取り入れてくれたらしく、鬱々としたときには、この香水を手に取り、キャップをとる。そしてプッシュせずにわずかに漏れ出る香りを吸う。この奇怪な行動は、この香水を使い始めて三日目あたりから始まった。この香りに心地よさを覚えて、気軽にシュッシュと使っていたところ、当たり前だが、いくら小瓶に目一杯入っていた香水でもみるみる減っていくのに気づいたのだ。
その瞬間、ケチになった。だから使えない。

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