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香港国家安全法で浸食される学問の自由:現役高校教員インタビュー

2020年6月30日夜遅くに香港国家安全維持法が成立して2か月が経過した。

翌7月1日には2019年以来のデモ隊のスローガン「光復香港 時代革命(香港を取り戻せ、革命の時だ)」の横断幕を掲げた者が逮捕されたり、元デモシストの周庭(アグネス・チョウ)や民主派寄りメディアであるアップルデイリーの創業者である黎 智英(ジミー・ライ)が逮捕されるなど暴政が続いている。

香港を脱出する動きもあり、アメリカ下院外交委公聴会において香港の状況を映像で証言した羅冠聰(ネイサン・ロー)がイギリスに亡命、民主派グループ香港故事メンバーで国家安全維持法違反で逮捕され保釈中だった李宇軒が仲間と台湾への密航を企て中国海警局の監視船に拿捕される事態も起こった。

民主化運動の締め付けやメディアなどの統制による表現の自由の喪失が実際に起こっている現状を認めつつ、学校現場で起こっている学問の自由の侵害も深刻である。

中国では共産党にとって都合の悪い事実は書物から削除または捏造され、学校で学生は歪曲された歴史や社会を学んでいる。

香港のデモが活発化した2019年、中国教育省は、翌2020年3月末までに共産党の方針に反する書物を学校の図書館から処分するよう指示、内陸部・甘粛省では図書館職員が対象の書物を焼却処分する様子が見られた。

同省政府の公式ウェブサイトによれば、「社会主義主流イデオロギーを発揚するため」に65冊の本を図書館正門前で焼却処分したという。

秦の始皇帝が行った「焚書(ふんしょ)」になぞらえる向きもあった。

一方、香港ではどうだろうか。

国家安全維持法には見逃せない条文がある。

第10条
香港政府は学校、社会団体、メディア、インターネットなどを通じて国家安全保障のための教育を実施し、香港市民の国家安全の意識と順法意識を高める。

これは教育の場において香港政府が国家(=中国)の安全を確保する義務を負っていることを示す。

この結果何が起こったか。

8月中旬、香港紙などは改訂版の中高生向けの教科書で民主化運動に関する記述が削除されたと報じた。

香港の高校では2009年から「通識教育科(リベラル・スタディーズ)」として学生自身が考える力を養う必修科目が設けられている。

中学校でも3割ほどが導入し、また、大学入試科目ともなっている。

中国ではタブー視されている天安門事件や香港での大規模民主化デモの記述もこれまでの香港の通識教育の教科書には見られた。

しかし2019年のデモ参加者の多くが10代の若者であったことから、中国共産党はこの通識教育に問題の根源があるとし強く非難し改変を要求。

香港政府は関与を否定するものの、香港の教育団体は改訂版の教科書に対して政治的な審査があったと声明を発表している。

また、香港には一国二制度のもとで中国には無い三権分立があるが、今回の教科書改訂で三権分立の記述も削除された。

国家安全維持法では行政、立法、司法が協力して国家に反対する者を取り締まるように義務付ける記述が見られるため、相いれない記述を削除したものと見られる。

これらの報道が出始めるまさに直前、香港で現役の高校教員を務めるジェイに話を聞いた。

ジェイは教員生活6年目、これから中堅に差し掛かっていこうという世代だ。

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