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うそをついた日に読む本: 手塚治虫の『罪と罰』

「書く習慣」1ヶ月チャレンジ/30個のテーマに沿って書きます。

今日はここまで読みました。

第3章 ネタを見つけられると止まらなくなる
 情報を集めることだけが「インプット」だけじゃない
第4章 ちゃんと伝わると嬉しくなる
 その文章、「中学生」にも伝わるレベルですか?

書く習慣 〜自分と人生が変わるいちばん大切な文章力〜

インプットを楽しむこと、難しい言葉は伝える力が低くなりやすいこと、人に伝わるように、言葉を噛み砕くひと手間をかけること。
痛いところを突かれた!という気持ちと、必要なアドバイスがズバリもらえた!という気持ちが半々でした。読んでて心が動きます。

Day 15:誰かにオススメしたい本・映画・アニメ・ドラマ

手塚治虫が1953年に発表したマンガ『罪と罰』をオススメしたいです。
原作は、ロシアの作家ドストエフスキーが19世紀に発表した長編小説
骨太な内容がわずか130ページ程度にまとめられたマンガですが、原作のエッセンスをうまく抜き出し、太く短く重い仕上がりになっています。

私の夫(30代スコットランド人男性、気のいいナード)に何度も勧めては「そのうち読むね!」と流されているので、今回はなぜ夫が手塚治虫の『罪と罰』を読むしかないのかを整理してプレゼンしてみます。

手塚治虫『罪と罰』を読もうよ

私がロシア文学を読み、手塚治虫を読むきっかけになったマンガです。
8歳の時に父が買ったものを勝手に読んで以来、何十回と読み返しました。上京時から現在まで手元に置いている、数少ない本です。

角川文庫「手塚治虫 初期傑作集」。レトロな装丁と手乗りサイズがいとしい

この本に出会わなければ、ゴーゴリの『タラス・ブーリバ』を読むことも、「手塚治虫漫画全集」でグロ耐性をつけることもなかったことでしょう。
ロシアって一体どんな国?アメリカと違うの?に始まり、
どんな国があってどんな歴史があり、何と何がどう関係しているのか、
そういったことに興味を持つすべての始まりだったと思います。

以下、あなたが手塚治虫の『罪と罰』を読むしかない理由を挙げます。
聞いてくれ!

①50年代の日本マンガに興味がある

「手塚治虫」『月刊漫画ガロ』『劇画漂流
この辺のワードに目がないあなた、手塚治虫の『罪と罰』を読もうよ

最初の1ページを読むだけで、ロシア革命前夜、夏のサンクトペテルブルクに引きずり込まれます。静止画なのに、映画のようなカメラワークで場面が動いて見える!
映画監督オーソン・ウェルズの40年代白黒映画を思わせるコマ割りに、古めかしいドタバタ劇がちょいちょい挟まれるのは演劇っぽさも感じます。

何より、主人公ラスコルニコフの犯行前後のシーンがすごい!
錯乱しながらも冷静を保とうとする思考、それを裏切り制御の効かない体、犯行後に焦り狂ってひとりで大騒ぎするシーン、混雑している通りで周りが全く見えなくなる様子……ああ、人を手にかけるとこうなるだろうな、という嫌なリアリティがあります。

登場人物の「これはこういうキャラ」なデザイン、演出がわかりやすい。
ラスコルニコフには聡明な妹ドーニャがおり、その求婚者ルージンは「貧乏人を自然に見下してしまう性質」がにじみ出る描かれ方。
主人公一家とカフェで待ち合わせるシーンが非常にいけすかないのよ。

ラスコルニコフと対決する予審判事ポリフィーリイの事務所は裁判所にあり、この場面の無機質さと威圧感も強烈です。官憲はみな大柄で同じ顔。

ポリフィーリイが火と蛾の関係を犯罪者に例えた話をする場面は、死とエロスにまみれたディズニーアニメのような暗い躍動感を感じます。

犯人というものは ともしびに集まるガのようなものでして
ほっといても火のほうへ とびこんでいきますよ
それが 自分をほろぼすものと知っていながらね

手塚治虫『罪と罰』(角川文庫、1995年、110頁)

②ロシア文学に興味がある

「名作文学とか、なんかとにかく読んどいた方がいい気がする」
「ドストエフスキー、面白いのはわかるけど長いマジで」
「登場人物がひたすら心の内を語るのを読まされるのがつらい」
そんなあなたにぴったり、手塚治虫の『罪と罰』を読もうよ

長編小説を一晩でサクッと読める長さにまとめてあるので、すっごい思い切った改変もされています。『罪と罰』をおもしろい物語にしているエッセンスだけを抜き取って、130ページの中で十分地獄を見ることができるエンタメ作品にするのはすごい!

ネームドの登場人物数をギリギリまで絞った結果、それぞれのキャラクターがめちゃくちゃ立っているのも印象的です。

この作品の「ロシア文学感」は、実は丁寧に描写された「名もなきモブ」たちから、最も深く嗅ぎ取ることができると思います。
底辺酒場「バー・ゴミバコ」で昼から歌い騒ぐ人々、
金貸しの世話になる身なりのいい紳士たち、
どんな身分の人間も生活に不安を抱えている様子が描かれます。絵柄がかわいらしいと、なんだか不穏さも増す気がします。

そしてラスコルニコフが書いた論文の恐ろしさ。
当時の時代背景、彼の経済状況やさまざまな挫折、そして精神不安定、
その中で「こじらせてはいけないものをこじらせてしまった」狂気と悲しさは、マンガ表現でもまったく薄められることなく胸を突き刺してきます。
邪悪な中二病みたいな絵がまた怖いのよ。

原作『罪と罰』も時々読み返しますが、今でも登場人物のビジュアルは手塚治虫版で再生されます。

③短編でサクッと心をえぐられたい

「読書に飽きないうちに、さっと手軽に脳みそを破壊されたい」
こんな夜のストレス解消に、手塚治虫の『罪と罰』を読もうよ

主人公ラスコルニコフ登場から、問題の「事件」まで、一気に話が進みます。原作だと、事件の前にラスコルニコフの独白をしこたま読まされます。

「なぜ金貸しの老婆を排除することにしたのか」も深いテーマなのですが、ラスコルニコフがいよいよ苦しむのは「排除してしまった後」なので、冒頭がテンポよく進むと、よりスムーズに物語に入っていけます。

「人間であるあなたに、そんなことを決める権利などない」と言い切る売春婦ソーニャの恐るべき正論。 
自分で作り出した泥沼にはまっていくラスコルニコフに、犯人はあなただ、と鮮やかに告げる判事ポリフィーリイの度胸と良心。
登場人物たちは愛を持って、ラスコルニコフと読者のハートにためらいもなく鋭いナイフを差し込みます。ほんとあっという間に踏み込んでくるのでびっくりします。みんな誰にでもなんでもはっきり言う〜!

ラストシーン、見開き2ページの暴動が圧巻!
崩れゆくサンクトペテルブルクに逃げまどう人々、混乱のセンナヤ広場で物語は終わりを迎えます。
原作はこの後も続き、流刑地での労働と祈りの日々を通して愛を見つけたりするのですが(この箇所もすごく読みごたえがあるんですけど)、
きっとあなたはこの終わり方のほうが気にいるんじゃないかと思います。

最後のセリフは、手塚治虫が『罪と罰』の物語から汲み取ったエッセンスの粋で、私がこの先も永遠に覚えているセリフです。
どん底も救済もあまりに強烈すぎて、胸がつぶれそう。

ドストエフスキー『罪と罰』もいいよ

原作はもちろん素晴らしいです。
手塚治虫の『罪と罰』では大幅に変えられているところもたくさんありますし、原作の長い長い語りなくしては語れないことも非常に多い。
しかし私の『罪と罰』は、やはり初めて読んだマンガ版なのです。

ということで、手塚治虫の『罪と罰』をぜひ読もうね!
いつでも貸すよ。









カバー裏には狂気


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