対ストレス 特殊スキル:ナルシストバリアを習得せよ!


ナルシストバリアは私のストレス耐性の生命線のひとつだ。奥義:絶対防御というところか。読者諸氏にその理屈を伝授するよう努力したい。

「こんな苦しい状況でもあきらめてない俺ってかっこいい」
原点は「格上との将棋」だった。
父(現在アマ5段) 母(現在アマ4段で元女流育成会一期生候補)
長兄(段位こそ持たないが父母よりもさらにワンランク強い)という
3名がいた。

我が家では「将棋で強いと一目置かれる」という環境だった。
現在でやっとアマ2段程度の私は父に攻めを切らされ、母に横殴りにぶん殴られ、兄にすっぱりと斬って落とされる、という具合に着実に敗北の歴史を積みあげていた。

それでも「どんなせこい手でもいいから勝ちたい!」ということで、対戦経験から相手の傾向値を積み上げ、主に序盤研究の成果でどうにか父母には勝ち越せるようになった。
「ディフェンスに定評がある父」は防御的
「我が家1男らしい棋風の母」は攻撃的
それぞれに偏りがあるゆえに手が読みやすく、付け入るスキがあったのだ。

…じゃあ私に5段相当の棋力があるのかと言えば「ない」と断言できる。いまだに「あのバランスの良い長兄」にはまるで通じない。あくまでも父母対策に特化したものであり、事前データの少ない他流試合になると私はかなり弱い。(真逆で、大人数に注目される他流試合で滅法強いのは母だ。)

私より格上の3強と対局すると「とりあえず不利な時間帯」が圧倒的に長くなる。「最後は気合だ!」じゃなくて「最初から気合だ!」である。不利になるだびに心が折れていては格上には勝てない。中盤まで「自分なりの最善」を重ねて被害の最小化を図りガードを固めながら、ガードの下から虎視眈々と一瞬のゆるみや隙を伺う。逆転不可能な差がつくまでにどこかで一発入れようとあきらめない自分に陶酔していく。
「ふつうあきらめるような大ピンチでもあきらめてない俺ってかっこよくね?」
こうして「あきらめない自分を好きになる」というナルシストバリアが形成された。

ナルシストバリアを身に着けると表面上は「ピンチでもあきらめないヒーロー」と同じになれる。実は内面を見ると世間一般の悲壮感すら漂うHERO像とは大幅にズレてるんだけど。このスキルを身に着けると人生が楽しくなる。

なお、格上相手にあきらめずに奇跡を信じて頑張り続けるとどうなるか?
次に見える光景は「真なる絶望」だ(笑)。
格上はとっくにこちらの即詰みを読み切っている。一方で格下の私は自分の即詰みが見えていないからこそあきらめずに頑張れている。そして、ついに自身の即詰みに気づいてしまう瞬間が必ず来る(笑)。
「え、私の王将、詰み過ぎなんじゃね?」と気づいた瞬間、私の場合は
空間に放り出されて落下していくような感覚に襲われる。「環境の領域的にはどうあがいても絶望」な状況になるので「相手の領域的に間違える確率が少しでも高くなるように」という努力をする。・・・まあ負けるんですけどね(笑)。
「奇跡はめったに起きないから奇跡なのだよ」と言いながら散っていく。将棋の場合は命を落とすわけじゃないので、敗北もまた「学びの機会」であり、成長できるので楽しいんです。

このスキルを用いることの要注意点は「ある種の狂信者と何ら変わらないこと」だ。逆境になればなるほど「自分の魂が試されている!」という妙な情熱が燃え上がるようになるので。また「まあ逃げないでも平気だな」と痛みに鈍感になりすぎる傾向がある。皆さまには用法容量に注意して用いられるように。

CIA(内部監査人)や行政書士資格から「ルールについて」、将棋の趣味から「格上との戦い方」に特化して思考を掘り下げている人間です。