将棋やTRPGにおけるカバーリングの意味

「攻撃に対するカバーリング」の持つ意味を例によって私なりに多様な観点から論じてみる。大きくは戦術(タクティカル)な意味合いと劇的(ドラマティック)な意味合いの2つがある。

その1「タクティカル編」

まず、戦闘についてある程度語らねばカバーリングの戦術的意義は図れない。戦闘行為の目的とは相手の無力化である。戦闘にならないに越したことはないが、いざ戦闘になったからには相手を物理的か精神的か社会的か、何らかの形で追い詰め、抵抗行動をできない状態に追い込む必要がある。

一足飛びでそこまで至らない場合なら、少なくとも相手のリソースを削り、相手を転倒させるなど、何らかの機能不全に向かわせ、相手の上体を悪化させることが「攻撃」の意図になる。

その状態悪化の度合いを確実化するのが攻撃の集中、いわゆる「各個撃破」の狙いとなる。その場面の先頭と言う意味では各個撃破と言う選択肢を忘れないだけで90点くらいは取れるイメージがある。将棋に換算するなら「数の攻め」だろう。

 攻撃への対立概念に「防御」があるわけだが、「攻撃」と反対の狙いを持つと考えればよい。つまり、「相手の攻撃による悪影響を減らし、自分や見方が機能不全に陥らないようにする」「リソースの減少を少しでも防ぐ」と言うのが防御の目的となる。

カバーリングは防御が苦手な味方に変わって防御が得意な味方が攻撃を受けることで攻撃側の意図をそぐ効果がある。また、相手が各個撃破を狙い攻撃を一転集中させている時にその損害を分散させることで機能不全を遅らせるという効果もある。

将棋の場合は遠距離からの王手に対する「合い駒」がカバーリングに相当する。特に王手に対しては他のすべての駒が身を呈して王をカバーリングする必要がある。ただし、金銀などの直接打撃の王手には合い駒は効かない。こ
こはTRPGルールとは異なる点だ)

企業のリスクコントロールの場合は「貸倒引当金」「保険」等が近いイメージである。ダメージのタイミングが一時に集中するのを防いでいる。正確には「ダメージタイミングのズラし受け」である。「時差によるダメージの平均化」というべきか。

カバーリングがないルールでは位置取りなどで工夫しない限り、攻撃側の攻撃目標に対する意図はほぼ通ってしまう。カバーリングが存在することで防御側には「誰で受けるか?」と言う選択肢が発生し、パーティ全体で見たときのダメージコントロール能力が飛躍的に上昇するわけだ。


その2 「ドラマティック編」
カバーリングと言う行為自体がドラマ性を感じさせることは多い。ある種、「おいしい」演出になっている。ドラマや漫画のそういうシーン。タクティカルに機能だけを考えるなら「かばうんじゃなくて突き飛ばせばいいじゃないか」と思うこともあった。だが、「代わりに攻撃の損害を受ける」ということにドラマ性を持たせられるという意味がある。「貸し借り」を作り出せるわけだ。つきとばして両者とも損害を被らない場合に比べて、その後の展開、深みが明らかに異なるものとなる。代償を背負うことでかばわれたものが借りを感じるのは事実だろう。

タクティカルと両立できると言う意味でカバーリングの概念を考えた方は素晴らしいと思う。リアリティで考えればそんなに毎回かばえるわけがないんだが、そこはアビリティ(遊びやすさ、受けの良さ)を重視した一種の「許されるご都合主義」だと理解している。

で、カバーリングをするためには、かばう相手のそばに固まっていることが基本になる(リアリティで考える場合)。タクティカル編で述べたとおり、戦力の集中に類似した状態であり、理にかなっている。だが、常に絶対の正解とはならない。

「範囲攻撃」の存在がある。かばうことに意味がないような範囲攻撃の場合かたまっていると相手の攻撃効率が良くなってしまうというデメリットがある。また、かたまっているがゆえに全体としての機動性が落ちる。味方が邪魔して回避の余地がないという面をつかれると脆い。カバーリングをするために密集する場合は気にかけるべき要素である。

三国志において戦力を集中させて決めにきた司馬懿に対して孔明は狭隘な地に誘い込み火を放っている。効率よく、機動で逃げることも回避することもできない状態でまとめて攻撃をしている。「単純な戦力の集中のみではきまらない」のはこういう時だ。

将棋でいえば穴熊は最も密集陣形でもっとも堅い囲いだが、その分、歩や香車、桂馬と言った小ごまの攻撃も回避できず喰らってしまうという弱点がある。美濃囲いや矢倉であれば「かわす」と言う選択肢がある。重厚な金属鎧と軽快な革鎧の違いのようなものだろう。

誰の攻撃から誰をかばうのか? どんなセリフや演出で損害を肩代わりするのか? ドラマティックなカバーリンガー(こんな単語はないw)はそんなところに気配りをしているように見える。(私自身がそこまでのロール重視ではないのであくまで観察、推測の域を出ないが。興味を持ち、自分がカバーリングを実践することはなくても、それを楽しみながら劇的にやっている人には興味を持っている)。

CIA(内部監査人)や行政書士資格から「ルールについて」、将棋の趣味から「格上との戦い方」に特化して思考を掘り下げている人間です。