J2-第35節 愛媛FC 対 ザスパクサツ群馬 2020.11.21(土)感想

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 視聴期限は飛ぶ。
 5連戦第6ラウンド初戦の相手はザスパクサツ群馬だった。34節のヴァンフォーレ甲府戦は、愛媛FCの選手に新型コロナウイルス感染者がでたことで延期となった。そのため試合の間隔が1週間空くこととなった。罹患した選手は発熱と倦怠感があって入院することになったが、さいわいなことに後日無事チームにもどってきている。チーム内でひろまらなかったのもよかった。ということで、間隔は空いたけれど心理的にやすまらない1週間を経ての試合となった。
 群馬との前回対戦はアウェーにて0―1で敗戦している。このあいだ感想を書いたばかりのような気もする。愛媛としては5連戦第5ラウンドで復調した姿をホームで披露したい試合でもある。
 J2第35節、愛媛FC対ザスパクサツ群馬の試合をざっくりとふりかえっていく。

 キックオフ後間もなく群馬がチャンスをつくる。青木翔大選手がサイドへ流れることで山﨑浩介選手を中央から引きずりだすと、空いたニアゾーンに後方から内田達也選手が進入。田中稔也選手からのロブパスを受けてゴールラインぎわまで運んでからマイナスのパス。青木選手が中央で放ったシュートはゴール右下隅に飛んだが、GK岡本昌弘選手がはじきだしてコーナーキックとなった。
 群馬はサイドハーフが2ライン間へはいり、サイドバック(主に右の舩津徹也選手)が高い位置へでていく。愛媛はサイドバックをとめるためにサイドハーフがでていくことになる。群馬はその背後を突こうとしていた。青木選手やライン間にはいったサイドハーフの選手が斜めに走りこむことで、センターバックやサイドバックをサイドへ引きだして、ニアゾーンへの進入路を開けようとしていた。

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 愛媛はこの試合、ボールをもっていないときのフォーメーションは[4―4―2]だった。2トップは有田光希選手と山瀬功治選手だった。山瀬選手のトップ起用はあまりなかった気がする。山瀬選手はボールホルダーへアプローチをかけつつ、ボランチへのパスコースもけす守り方をみせていた。
[4―4―2]にしたのは、群馬と同じフォーメーションにすることで高い位置でのプレッシングをかけやすくしたかったからかもしれない。噛みあうことになるので、相手サイドバックをタッチラインぎわに追いこんでボールを奪い切ろうとする場面もみられた。
 攻撃になると愛媛は3バックに変化した。馴れ親しんだ[3―4―2―1]である。4バックから3バックへの変化は右サイドの選手たちによっておこなわれた。サイドハーフの吉田眞紀人選手がシャドーの位置に上がり、サイドバックの西岡大志選手がウイングバックの位置へあがっていく。なので最終ラインは右から茂木力也選手、山﨑選手、前野貴徳選手になる。見方によれば、アルビレックス新潟がおこなっていたサイドバックの片方上げともいえる。
 この試合、愛媛のボランチ森谷賢太郎選手と川村拓夢選手は相手2トップの背後でプレーすることがおおかった。そうすることで相手のボランチと距離をとり、フリーになりやすいようにしていた。また、群馬の1―2列めのあいだがひらくようにもなる。シャドーの選手がボランチの脇から下がってきて縦パスを受けたとき、このスペースへ落とすか、もしくはサイドへはたくことで前向きにプレーする選手を生みだそうとしていた。これは右サイドでおこなわれることがおおかった。

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 左サイドはすこし違う。山瀬選手は上下に移動するのではなく、タッチラインぎわへひらくようにしていた。
 左ウイングバックの長沼洋一選手はかなり高い位置へ張る。そのため対面する舩津選手は最終ラインに釘づけになる。一方、同サイドハーフの田中稔也選手は、前野選手がボールをもつとかならずアプローチをかけにいくことになっていた。つまり、群馬右サイドのコンビであるふたりの距離はひらくことがおおかった。山瀬選手はそこへ移動してパスを受けようとしていた。
 シャドーの選手がサイドバックの手前かつサイドハーフの背後のスペースへ移動するプレーは、昨季引退した河原和寿さんがよくおこなっていた。同ポジションで活躍した神谷優太選手もしだいにおこなうようになっていたので、愛媛にとってお馴染みともいえるビルドアップ方法だ。
 このプレーは相手のどの選手がマークしにくるかで効用がかわる。この試合ではボランチの岩上祐三選手が山瀬選手についていくようにしていた。岩上選手が動けば、中央を空けないために内田選手と加藤潤也選手もスライドすることになる。すると群馬のブロックは片方に圧縮されることになる。愛媛はこうして群馬の2列めを片寄らせることで逆側を空けさせて、茂木選手や西岡大志選手をフリーにさせることができていた。つまり、愛媛左サイドに生まれるスペースをつかう→相手に埋めさせる→逆サイドの味方がフリーになるという仕組みでビルドアップをおこなっていた。左サイドのスペースを右サイドに移転させていたともいえるか。

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 さて、4バックと3バックとに変化する愛媛だが、攻から守へ切り替わるときには、群馬にその変化の途中を狙われることもあった。
 群馬は茂木選手と西岡大志選手とのあいだを狙うことがおおかった。先述のとおり4バックではサイドバック、3バックではウイングバックになる西岡大志選手の移動距離はながい。それゆえ攻撃から守備になると、茂木選手のとなりへもどるのに時間がかかる。群馬はそこを突くことでチャンスをつくることもあった。とくに岩上選手の精確なロングパスが脅威となっていた。
 群馬はビルドアップの際に岩上選手がセンターバックのあいだに下がって3バックに変化した。岩上選手にディフェンスラインの背後を狙われたり、クリアーしたこぼれ球を2ライン間で回収されたりと手を焼いた。

 29分ごろに興味深い場面があった。愛媛は自陣深くからつないでいき、田中稔也選手の背後にできるスペースをつかって前進しようとした。ところがそこでパスを受けようとした山瀬選手がボールを奪われてしまう。ボール奪取に成功したのは、なんと岩上選手ではなく舩津選手だった。つまりこのとき、舩津選手は長沼選手のマークをはずして山瀬選手へプレッシングにいっていることになる。では長沼選手はフリーだったのかといえば、中継映像には映っていないのではっきりとはわからないが、おそらくセンターバックの岡村大八選手が代わりにマークについているのだろう。高い位置でのプレッシングでなら、そうしたマークの受け渡しができるはずだ。
 舩津選手がでていけるなら、岩上選手は中央から動かされずにすむ。ならば2列めがスライドする必要もなくなる。こうして群馬はサイドに生まれるスペースを活用されないようにした。
 では愛媛は八方塞がりになったかといえばそうでもなかった。すぐに対応する。
 それまでタッチラインぎわにひらく動きを繰り返していた山瀬選手だったが、これ以降ライン間を上下する動きをおおくするようになった。その代わり、森谷選手が田中稔也選手の近くや背後でプレーするようになる。そうなると田中稔也選手は前野選手にアプローチをかけにいきにくくなる。森谷選手の存在がストップをかけるからだ。ゆえに前野選手はドリブルで運べるようになった。また、森谷選手が田中稔也選手の背後に位置どるときは、それまで山瀬選手がおこなっていたように、スペースでパスを受けることもできていた。
 愛媛は森谷選手と山瀬選手がポジションを入れ替えることで群馬の対応に応じ返したのだ。ちなみに中央でのプレーがおおくなった山瀬選手は、裏への飛びだしでチームの攻撃を活性化させていた。

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 前半は0―0で終了。決定機の数は群馬のほうがおおかった印象だったが、後半は愛媛もチャンスをつくるようになる。
 愛媛は右サイドでのビルドアップがおおくなった。森谷選手と川村選手が左右をかえたらしい。右サイドでボールを動かすことで、こんどは長沼選手が左サイドでフリーになる場面がふえる。彼のところまで展開できれば、長沼選手に1対1の状況をつくってあげられる。シーズンが過ぎていくにつれ、長沼選手の1対2でも抜いていく場面がちらほらみられるようになってきた(とんでもねー)。その彼にどれだけ1対1の勝負をしかけさせてあげられるかがカギといえる。
 かたや右サイドを前進してチャンスをつくることもある。相手のセンターバックの片方をサイドへひきずりだして、中央にスペースをつくろうとしていた。つまり、群馬と同じ狙い。
 ただ、群馬でサイドバックの裏を狙っていたのはサイドハーフやフォワードの選手だったが、愛媛では森谷選手の場合もあった。ボランチの森谷選手が裏へ走ることで、中央に有田光希選手と吉田眞紀人選手を残しておくことができるほか、森谷選手にだれがついていくのかとなったとき、相手サイドハーフの加藤選手を最終ライン近くまで引っ張りこむこともできた。加藤選手が下がることで、群馬2列めの手前にスペースができ、茂木選手が高い地位へでていくことができるようにもなる。そして茂木選手、西岡大志選手、森谷選手にときどき吉田眞紀人選手をくわえたグループで右サイドを前進。相手選手たちを同サイドに引きこむことで、ゴール前では数的同数の場面を生みだすことができていた。

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 愛媛のペースですすむ後半だったが、66分に青木選手に代わって林陵平選手が出場すると、群馬はふたたび高い位置でのプレッシングの強度をつよめ、愛媛陣内でのプレー時間をふやしていった。
 特徴的だったのが、岩上選手や内田選手が高い位置まででていって川村選手をみるようになったこと。さらに、そうすることで中盤にスペースが生まれることになるが、そこでパスを受けようとするシャドーの選手には、センターバック(主に岡村選手)が最終ラインから飛びだしていってボール奪取を狙うようになった。
 岡村選手が飛びだしていけるのは最終ラインで数的優位が確保できているからである。もともとボールサイドとは逆側のウイングバックはみないことになっているので、サイドバックが中央に絞ってプラス1をつくることができていた。
 さらに、大前元紀選手が山﨑選手をみつつ、茂木選手へのパスコースをけすようにもなる。これによって加藤選手が吉田眞紀人選手をみられるようになり、中盤でも数的優位をつくることができていた。なのでボランチのどちらかがスペースを埋めたり味方のフォローに動くことができていた。
 あと見逃せないのが田中稔也選手。試合も終盤にはいっていくというのに、二度追いどころか三度追いすらしかけてチームのプレッシングを助けていた。

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 ただ愛媛も相手陣内までボールを運べればチャンスをつくっていた。ただゴール前に迫る場面はあったものの決定機まではいたらず、そうこうするうちに83分、コーナーキックの流れから平尾壮選手がクロスをあげると、白石智之選手がニアに飛びこんで先制点を奪った。両者とも82分に交代出場したばかりだった。
 群馬はこの試合、クロスを上げるときはファーサイドにふたり飛びこむようにしていた。大前選手プラスひとりのところに、右サイドからクロスをあげてチャンスをつくっていた。得点の場面では一転してニアを突いている。愛媛はコーナーキックの流れでディフェンスラインを整えるのに手間取ったのもあるが、過度にファー狙いを警戒させられていたのもあるのかもしれない。どうなんでしょう。
 残念ながら愛媛は無得点のまま、前回対戦同様に0―1で試合を終えることになってしまった。

 復調した姿をニンジニアスタジアムでもみせてくれた愛媛FC。しかしホームでの勝利は遠かった。とはいえ、この試合は見返しているとおおくの発見があっておもしろかった(もちろん僕が気づけなかっただけで、つねに/すでにピッチ上にあったものに違いない)。とくに、前半途中でビルドアップのやり方を相手の出方に応じてかえていたのはしびれた。敗戦はくやしすぎるが、それは選手たちがこれほどやれていると感じるからでもある。
 連敗を3でとめたザスパクサツ群馬。印象に残ったのは岡村選手。精度の高いパスでチャンスをつくったり、ぎりぎりの状況でのボールコントロールが巧みだったりとおどろかされた。球ぎわのつよさも際立っているとおもったら、タックル数がチームトップの123回(※41節終了時点。以下同様。Jリーグ公式サイトによる)と、2位の舩津選手(58回)の2倍以上もあるファイターだった(ちなみに愛媛のタックル数トップ3は茂木選手(65回)、川村選手(64回)、山﨑選手(60回)でなるほど愛媛のファイターたちといった顔ぶれだった)。球ぎわがつよく、パスもだせて足もとの技術もある――なるほどミシャが好きそうなセンターバックである。
 最後までお読みいただき誠にありがとうございました。たぶん、あと1試合ぐらいは書くかもしれません。フットボールタクティクスで図もつくりたいし。では、またね。

 試合結果
 愛媛FC 0―1 ザスパクサツ群馬 @ニンジニアスタジアム

 得点者
  愛媛:
  群馬:白石智之、83分