J2-第16節 ファジアーノ岡山対愛媛FC 2019.06.01(土)感想

 PRIDE OF 中四国と銘打たれて愛媛FCがのりこむのはファジアーノ岡山。本拠地はキングダム・ハーツにでてきそうなくらいクールなネーミングのシティライトスタジアム。切なさと希望にみちた喜劇王の映画もおもいだす。
 神谷優太選手と長沼洋一選手がトゥーロンで活躍しているので愛媛のスタメンは少々変更されている。野澤英之選手と山瀬功治選手がともに出場で、長沼選手の位置には玉林睦実選手。玉林選手と藤本佳希選手は古巣対戦。前節負傷交代した林堂眞選手の名は残念ながらなかった。
 ということで、J2-第16節、ファジアーノ岡山対愛媛FCの試合をざっくりとふりかえっていく。

・愛媛のボール保持について

 キックオフからイ・ヨンジェ選手対前野貴徳選手のミスマッチを狙ったロングボールを入れる岡山。しかしユトリッチ選手が対応してはねかえす。岡山はこぼれ球をひろって攻撃をつづけ、開始早々シュートをはなった。
 愛媛は自陣でパスをつないでビルドアップしようとしたが、岡山が愛媛陣内に人をおおく進入させていたため抜けだすことができなかった。なので愛媛もロングボールを蹴るようになる。流れのなかでは藤本選手、ゴールキックからは玉林選手をターゲットにすることがおおかった。
 試合序盤の愛媛は陣地回復のロングボールが目立ったが、では自陣でのビルドアップに終始苦戦していたかといえばそうでもない。
 愛媛の3バックに対して岡山は2トップ。なので岡山はサイドハーフがあがることで3対3の状況をつくろうとしていた。ユトリッチ選手がボールをもつとすぐにイ・ヨンジェ選手がアプローチへいき、左センターバックの前野選手へボールをださせるよう誘導する。このときイ・ヨンジェ選手の動きにあわせて右サイドハーフの久保田和音選手も前野選手へアプローチにいっていた。ビルドアップの起点である前野選手のところでつぶしてしまおうという意図がみえた。ただそこは前野選手。相手をかわしたりワンタッチパスをだしたりして回避する。そこで野澤選手にパスがでるとチャンスになっていた。愛媛の攻撃のキーマンは野澤選手だった。
 野澤選手は岡山の1-2列めで自由にプレーすることができていた。先述のとおり岡山は前野選手のところでボールを奪うために右サイドハーフが飛びだす。ゆえに中盤を3人で守らなければならなかった。なので野澤選手にボールがでてからセントラルハーフがでていくことになり、球ぎわをつくることがむずかしくなっていた。

 自由をあたえられればどんなところにだって(きっと)ボールをとどけてしまう野澤選手。前をむけなくたってワンタッチではたけてしまう野澤選手。岡山ペースですすむなか、彼にボールがわたると形勢は一転していた。ということで27分頃から中野誠也選手が野澤選手をマークするようになる。
 中野選手が野澤選手のマークにつくことで、最終ラインでのビルドアップは3対1となり愛媛が圧倒的優位になる。しかし2人もあまってはエコでないので、田中裕人選手がおりてきて4バック(2バック)に変形する。愛媛はユトリッチ選手と田中選手で2対1の数的優位をえつつ、両ストッパーと両ウイングバックがフリーになりやすい状況をつくっていた。
 こんなはずではないと岡山は野澤選手のマークを2トップで受け渡しはじめるが、今度はGK岡本昌弘選手が高い位置でビルドアップに加わることでアプローチを空転させる場面も。
 ということで、愛媛はボール保持のときわりと安定したビルドアップをおこなえていた。

・岡山の攻撃の狙い

 ロングボールを蹴ることのおおかった岡山。彼らの狙いはおそらく3パターンあった。
 ひとつめはイ・ヨンジェ選手をターゲットにするパターン。イ・ヨンジェ選手が空中戦でボールをそらして中野選手が裏抜けする狙い。
 ふたつめは中野選手のみの裏抜け。愛媛3バックのあいだを抜けて最後方からのロングボールを受けようとする中野選手の動きは頻繁にみられていた。
 岡山のロングボールはユトリッチ選手がはじきかえしていたが、タッチラインを割って岡山ボールになることもしばしば。こぼれ球を回収されて攻めこまれることもおおく、おそらくこれが岡山の三つめの狙い。
 ロングボール戦法により愛媛はボールを奪ってもカウンターを打てない場面も。中盤突破して一気呵成だとおもったら最終ラインはちゃんと待ちかまえてますよ、なんでやねんといったかんじで。
 ただでさえ効率的なロングボールを供給しているというのに、岡山はビルドアップにも工夫があった。
 岡山はボール保持のときにセントラルハーフの武田将平選手が左センターバックの横におりてくることがおおかった。最後方が3人なので両サイドバックが高い位置をとれるのに加えて、サイドハーフが内側へ絞ることで中盤で数的優位をつくっていた。
 11分。武田将平選手を田中選手がどこまで追っていくのか判然としなかったためピンチに。田中選手は前線近くまで武田選手をみにでていくが、中盤で1対2(野澤選手対関戸健二選手と仲間隼斗選手)の状況をつくられ、もれなく武田将平選手から仲間選手へ縦パスをとおされてしまう。やがて武田将平選手への対応は、1-2列めでパスを受けるときは田中選手がつかまえにいくけれど、最終ライン近くでビルドアップするときは放置するでおちついた。

 自由を手にした武田将平選手。最後方から効果的なパスをいくつも供給して愛媛を汲々とさせた。
 武田将平選手には左サイドバックの廣木雄磨選手と仲間選手へのパスコースが用意されており、それを対峙する藤本選手ひとりでけすことはできないので困った。
 39分の中野選手の先制点は、イ・ヨンジェ選手へのロングボールからこぼれ球を回収し、ディフェンスラインのあいだを抜ける動きにあわせたロブパスと、岡山が狙いつづけた形を集約したものだった。
 愛媛としてはスローインの失敗がきっかけであったうえ、ボールを奪えるチャンスもあっただけにやるせない失点でもあった。

・期待の夢実

 後半頭から愛媛は田中選手がおりた形でのビルドアップを固定する。岡山は前半とかわらず2バックになった愛媛に対して2トップをあてていた。野澤選手については、彼が高い位置にいればセントラルハーフがみるけれど、極力中野選手がマークすることにしていた印象。
 つまり中野選手が常にマークというわけではないため、野澤選手が1-2列めで前をむく機会もおおく、愛媛はわりと岡山陣内深くまで攻めれていた。ただ、しだいに中盤でミスが起こるようになって岡山がショートカウンターをくりだす機会もふえていく。
 岡山のゴール前までボールを運べて、なおかつシュートを打つチャンスもあるのだけれど、決定機までは至らない愛媛。岡山陣内までボールを運んだあと、2ライン間に人がいてほしいのにいないことがおおくてつらい。
 しかし83分に有田光希選手と代わって出場した神田夢実選手は、まさにいてほしい場所に顔をだしてくれていた。85分には2ライン間を出入りすることで関戸選手の意識をひくことに成功。山瀬選手へのパスコースが生まれたほか、彼が前をむく時間もあたえている。なおかつセンターバックとサイドバックのあいだを自ら抜けてチャンスをつくった。
 けがもあって出場機会をえられていなかったが、これまでもそうであったように、出場すれば期待をいだかせるプレーをみせてくれる神田選手を再発見したのち1-0のまま試合終了。岡山は3年ぶりで愛媛に勝利した。

・終わり

 ボールポゼッションでもロングボール戦法でも戦えちゃうぜとフットボールに誠実だったファジアーノ岡山。後半、有田選手の捨て身のプレッシングによってロングボール偏重になったが、だったらショートカウンターだ! とたくましかった。
 連敗してしまった愛媛FC。だがアルビレックス新潟戦後半のように相手陣内でプレーする時間をふやしてチャンスをつくれている。ただ決定機まで至っていないのが切ない。つまりもうちょいなのにということ。
 最後までお読みいただきありがとうございました。

 試合結果
 ファジアーノ岡山 1-0 愛媛FC @シティライトスタジアム

 得点者
  ファジアーノ岡山:中野誠也、39分
  愛媛FC     :