my cute bag~神戸まで行って手にしたかったもの~

私が20歳のとき、姉と2人でよく有楽町をふらついていた。そのころ特に用もなく山手線の右側に行っていた。もともと渋谷や新宿には苦手意識があり、フラフラするにはルミネやマルイのような商業施設があって、可愛らしいブティックもあって、大きな公園もある有楽町がちょうどよかったし背伸びしたい年頃には打ってつけだった。

いつも通り軽くランチを食べ、ウィンドウショッピングをして運動不足を解消していた。
ものすごく可愛い!と思ったお店があって二人の意見が一致したので店内に入ってみた。
中には可愛いバッグや財布、小物類があって商品を手に取って眺めていた。

店員さんが喋りかけてきて、「これすっごい可愛いですね」と言っていたと思う。
店員さんは、ブランド名が「ロベルタディカメリーノ」だと教えてくれた。イタリアのブランドで、そのときはデザイナーが変わったとかで以前より少し値段を抑えたものを販売している、と言ってた記憶がある。

私がそこで一番衝撃を受けた商品は「チェルシー ベージュ×ロイヤルブルー」というバッグだった。ものすごく可愛かった。本当に一目ぼれ。ただただ何も考えず、欲しい、その感情だけだった。すぐに自分がこれを持って歩いている姿が想像できたし、馬鹿みたいな映画の言葉だけど、「このバッグが、私を呼んでいる」とか「この子が『私を買って〜』って叫んでいる」と本気で思った。

しかし、そんなメルヘンな想像はすぐにどっかへ消えていく。
だって値段が40,000円だったから。

20歳の学生がアルバイトをしているからと言って、40,000円以上もするバッグを買う意味がわからない。いや、買えない。
なんていうかとにかく買う、という選択肢はなかった。

それでもそのお店には30分以上はいた。下手すると1時間は経過していたかもしれない。
とにかく「ただ可愛い」それだけだった。他の商品もさっと見たけどやっぱりあのバッグ、あのチェルシーという名の形、素材、色全てが自分が今まで見てきたバッグの中でダントツに魅力的だった。

店員さんにも何度も何度も「いやー可愛い」って連呼していた気がする。
少し年配の方だった覚えがあるけれど、ずっとニコニコしながら「可愛いですよね〜」「今人気ですよ〜」って言っていた。
何分もチェルシーを眺めていたけど、こうしていてもしょうがないと思い泣く泣くお店を後にした。
店員さんは最後まで優しかった。絶対買わないであろう20歳の客に嫌な顔せず付き合ってくれたし、バッグを持たせて鏡の前にも立たせてくれた。最後は「また見るだけでも来てください」って言ってくれたのを今でも覚えている。

この日から私はとにかくしつこかったしうるさかった。
姉も可愛いねと言ってはいたが、とりあえず帰りの電車でも家に帰ってからも翌日になってからも「は〜あのバッグ可愛かった」って言っている人間がいるから、うざかったに違いない。近くにそういう人がいたら、そのバッグに対してもなぜか冷めるあのパターンだ。

その日はとりあえず寝る前にスマホで「ロベルタディカメリーノ」について調べ、あのバッグを検索し、いつか、いつの日か、必ず手に入れる、と姉にも言っていたし自分にも言い聞かせてから眠った。

それからあっという間に日が過ぎていった。
3か月が経過し、半年、1年、3年とあっという間に時は過ぎた。
私はそれでも3か月に1回くらいはインスタをチェックし、はー可愛い。。。と思って、
でもすぐに今の自分の現状でバッグに40000円を払うなんてありえない、と否定することで自分を安定させていた。
だって買う余裕がなかったから。皆無だったから。ニートだった時期もあったから。

そんなこんなで、バイトをして生計を立てながらなんだかんだであれ以来1度もお店には行っていなかった。
だって行ったって買えないから。そんな虚しいことはしたくなかったから。そしてもうこのときはそんなバッグより重要なことがたくさんあったから。

現在、25歳になった私は正社員として働いている。
あれから5年が経ち、12月にボーナスも入るし、何か買っちゃおっかな〜と浮かれていた。
そのときちょうどロベルタのバッグを思い出した。いや正確に言えば10月ごろから、次のボーナスでロベルタいっちゃう?って頭の中でずっと考えていた。
ちょくちょく今でもインスタは見ていたし、ネットショップがあることも周知していた。
だからとりあえず有楽町のあのお店に行こうと思った。実際にバッグを再度手に取って、もう一度今の自分の目で見て、ときめくかときめかないか確かめようと。東京駅に用があったので運動もかねて歩いていくことにした。

でも歩いても歩いても見つけられなかった。
それらしき外観はあるのに中に入っているショップはあきらかにロベルタじゃない。可愛らしいマスコットがおいてあるお店だった。

そしてようやく閉店したんだ、と気づいた。まあ5年もの間一度も来なかったもんな、と思いつつそういえば昔姉が「あのお店なかったわ」ってさらっと言っていたのを思い出す。
なんで大事な記憶って自分の目で見て確認してから後付けのように思い出すのだろうか。

ものすごく、ものすごく悔しかった。だってようやく本物を手に入れられる自分になったのに。それなのに時すでに遅しで、その手に入れたいもの、それよりも前段階の店舗自体が存在してないなんて。
それでもその店舗がない、という現実を私は案外すんなり受け入れられた。そんなことでは私は諦めなかったから。なんなら逆に面白くなってきたから。

だからお目当てのバッグが売っているオンラインストアを早速帰りの電車の中で検索してみた。しかしオンラインストアでは私がほしい色は全部在庫なしだった!!!!!!!
どうしてあのとき買わなかったんだ、とも考えたしそれでもやはり買えなかったという現実を自分がいちばん理解していた。

うーん、、、どうしよう、、、と考えた末、どこかの百貨店のポップアップストアにないか、とも考えたが5年以上前に発売されたものはおそらくないだろうと思い、ロベルタの旗艦店はどこかと検索し神戸にあることがわかった。
神戸か、、、と思いながらも一応、念のため、と訳もなく自分に言い訳をし、すぐにその店舗に電話をした。
「チェルシーというバッグで、大部分がベージュで持ち手がグリーンのバッグはありますか」
店員さんは「在庫確認します」と言い待つこと数分、「お待たせしました」と言って続けて
「ベージュはあるのですが持ち手がグリーンはもう在庫がなくて、あるのはネイビーだけですね。」と言われた。

もうそのときの私はある意味ハイな状態だったし、持ち手がネイビーでもブラックでも可愛いことは知っていたので「ああそうなんですねえ」なんてとぼけた風を装って返事をした。
ついでに「それって在庫結構あるんですか」と聞いたらなんと「残り一点なんです」と言われた!!!

!!!!!!日本で一点だと!!!!!!
それを聞いて、とりあえずよくある言葉だけど
即決はしない、迷ったら買わない、一旦冷静になって今一度熟考する大切さを思い出した。だからここでは、店員さんにお礼だけを言い電話を切った。

横浜から神戸まで行って、バッグを手に入れるか、どうか。
そしてそこに付加価値「日本で一点」というパワーワード。。。
また自分が5年間も気になっていた商品。。。

買うしかなかった。買う以外選択肢はなかった。
だから、一旦サウナで頭を冷やし?本当に買うのかどうか、購入することによりそのバッグはどのような影響を私に与えるのか、あらゆることを考え最終的に購入するという方向で決断した。
色んな言い訳を考えた。
「ここで買わなければ私はまた長くネチネチとした後悔をするから」とか
「ここで買わなければ、次はイタリアまで行く羽目になる、それに比べれば神戸までの新幹線代なんて安いもん」とか。誰も聞いていないのに。そんなことばかりが頭をぐるぐると駆け巡っていた。

ジムの帰り道、家までの5分の距離さえも待てなくて、路上の自販機の近くで
再度ロベルタの神戸のお店に電話した。今考えると1回目と2回目の電話の間が4時間くらいあるのに、決断後の5分は待てない、というのは面白い。

「お昼ごろ電話した者ですけど、まだ商品はありますか。また商品の取り置きは可能ですか」と聞き、店員さんは商品はまだある旨、また取り置きは可能だが1週間以内に取りに来ること、そしてキャンセルはできないことを私に伝えた。

私はそれらに対し、了承し電話を切った。99%はポジティブな感情が混ざりあい幸福だったが、残りの1%は正直どこか不安だった。
だって5年間も実物を見ていないのだから。5年前の自分がいい!と思ったものが今の自分が見ても確実にいい!と100%言い切れなかったから。
それでも可愛いに違いないと思っていたし、何か感情が高鳴る予定があるときは私に力を与えてくれることも知っていた。
その日は休日で、明日から3日間仕事があった。だから3日目の仕事が終わった後すぐに新幹線に乗ることにした。そうと決まれば話は早い。
3日目の仕事に向け、前日の2日間はできる限りやるべき仕事を先に終わらせた。
そして、当日、朝からウキウキしながら絶対に残業はしないよう細心の注意を払った。そのおかげで無事いつも通り6ピタで退勤し新横浜駅に向かった。

新神戸駅まではすぐだった。前日はウキウキしすぎてまったく眠れなかったため新幹線の中でぐっすり眠ったから。
新神戸駅は思った以上に閑散としていたし、三ノ宮駅に着いたときは意外と治安が悪そうだと感じた。ちょうどハロウィンの時期だったからかもしれないけれど。

予約していたホテルに着き、いよいよ明日あのバッグに会える!とドキドキしながら、
でも前日の興奮状態からの睡眠不足によりあっという間に寝落ちしすぐに朝がやってた。
朝は近くの神社に寄りお参りをし、カフェに寄って朝食を食べ、10時開店のその商業施設に向かった。

開店したその商業施設を歩いていくとすぐにロベルタの商品が販売されているコーナーに辿り着いた。入ってすぐには店員さんには声をかけず一通り商品を見て回ろうとしたけど、ロベルタの商品の目の前にきたとき、すぐに店員さんに声をかけられたから、思わず「取り置きした者ですけど…」と言った。

とにかく私のチェルシーを5年ぶりに見た感想は、可愛い、それ以外でもそれ以上でもなにもなかった。
お目当ての鞄を手に入れ、ついでに小さめのお財布も買い、ものすごくハイになっていたと思う。その証拠にお店を出た後、ハーブ園に行くつもりがその間のタクシーの中でスマホを忘れる、という失態も犯したくらい。

ものを買うまでの出来事、買った直後のハプニング、使い続けながらできていくストーリー、ここまで濃く記憶に残ることはなかなかないだろう。
これぞまさにいい買い物だと思うし、本当にいい買い物は2年、3年経ってようやく答えがわかるのだと思う。

最近はものを持ちすぎることはあまり良しとされない。私はそれに大賛成。だからこそ、良いものを長く大事に使いたい。
これが私の2022年に買ってよかったもの。いや、もっと大げさにいうと人生で一番いい買い物をしたと思う。
楽しみなことがあるとき、私はよく「今、絶対死にたくない」って思う。それは楽しみがないときは死んでもいい、とかそういうことではなく「死にたくない」=「生きる力がめちゃくちゃみなぎっている」って感じ。

次の「今、絶対死にたくない」の瞬間に備え私は今後も生きていく。


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あちゃちゃちゃちゃ〜。