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【国語辞典】逆に「それ以外説明しようがないだろ」っていう言葉の説明文を比較してみる【再】

Amebaブログにて書いた過去の記事で気に入っているものをnoteに移植する、再放送企画の第一弾です。
文章はそのままコピペし、noteの引用で追記をしていきます。

ふとした時に話題になる、
「右」という言葉を使わずに右を定義するには?
という問い。

数ある国語辞典を引いてみると、
「南を向いたとき、西にあたる方」(広辞苑)とか、
「この辞書を開いて読むとき、偶数のページにある側」(岩波国語辞典)とか、
「アナログ時計の文字盤に向かった時に、一時から五時までの表示の有る側」(新明解国語辞典)とか、説明の仕方が様々です。

また、新明解国語辞典の「恋愛」の説明文がリリカルであると話題になったこともあります。
このように、いざ説明しようとすると当たり前すぎて難しい概念、故に表現にバラつきが出てくるような言葉が存在するのです。

なんかあれですね、改行多いですね。

そこで僕は思いました。
逆に、説明しやすいものって表現に違いはあるのか?
ということで行ってきました。

北区立中央図書館です。
別に家が近いとかいうわけではないのですが、赤レンガがいい感じだったので来ました。
今回はこの北区立中央図書館で国語辞典ごとの表現を比較してみました。
比較対象である国語辞典は、

☆広辞苑 第七版(岩波書店)
☆大辞林 第四版(三省堂)
☆新明解国語辞典 第七版(三省堂)
☆集英社 国語辞典 第3版
☆明鏡 国語辞典 第二版 大型版
☆学研 現代新国語辞典 改訂第六版

の6つ。基準とした単語は、

☆扇風機
☆ひじ
☆毛むくじゃら

の3つとしました。それでは早速、調査結果の報告と行きましょう。

この調査をしたのは約3年前ですが、我ながら面白いことしてるなと思います。
このためにわざわざそんなに近くない図書館に行くのも自分らしいです。

まずは…

せんぷうき【扇風機】
小型電動機の軸に数枚の羽根をつけ、その回転によって風を起こす装置。
(広辞苑 第七版)

夏になると部屋やリビングに登場する扇風機。広辞苑ではそのしくみをしっかりと説明しています。他の国語辞典では…

小型のモーターで数枚の羽根を回して風を起こし、涼をとる電気器具。(大辞林 第四版)

モーターによる羽根車の回転によって風を吹き送る装置。[かぞえ方]一台 (新明解国語辞典 第七版)

モーターで数枚の羽根を回転させて風を起こす電気器具。ファン。(集英社 国語辞典 第3版)

小型のモーターで数枚の羽根を回転させて風を起こす電気器具。(明鏡 国語辞典 第二版 大型版)

小型のモーターで羽根車を回して風をふき送る機械。(学研 現代新国語辞典 改訂第六版)

となりました。
広辞苑が「小型電動機」と日本語で表現している部分を、他の国語辞典では「モーター」とカタカナで表しています。
広辞苑からは、母国語である日本語をより大事にするという信念のようなものが感じられます。
また、「装置」派と「電気器具」派と「機械」派にも分かれています。
さらに、大辞林では「涼をとる」という目的が説明されていたり、新明解ではかぞえ方も確認することができたり、集英社では「ファン」と言い換え表現も記されていたりと、微妙〜な違いが見受けられます。
こういうとこでちょっとした個性が現れてるのはとても興味深いです。
さて、次に参りましょう。

なかなかマニアックなことをしています。
実際、こういう動きをする機械ですよ、という説明をされても、何を目的で使うのか疑問に思う場合も多いので、大辞林のように使用目的にも触れられているのはかなり親切だと思います。

ひじ【肘・肱・臂】
①上腕と前腕とをつなぐ関節。また、その折れ曲がる外側の部分。こひじ。②1の形に曲がり出ているもの。
(広辞苑 第七版)

続いては体の部位であるピザ。じゃなくてひじです。

これはつまらない。

広辞苑では丁寧に解説されているうえ、比喩的に使い方に関しても触れています。「こひじ」の字面がかわいいですね。
他の国語辞典では…

①上腕と前腕とをつなぐ関節。また、その折り曲げたときの外側の部分。
②1の形に曲がって突き出ているもの。
③「肘鉄砲」に同じ。
(大辞林 第四版)

腕の中間にあって、関節で折れ曲がる部分の、外側の称。(新明解国語辞典 第七版)

①上腕部と前腕部を連結する関節の外側の部分。
②曲がって1の形に似ているもの。
(集英社 国語辞典 第3版)

①上腕と前腕をつなぐ関節の、折り曲げたときに外側になる部分。
②1のような形に折れ曲がって突き出ているもの。
(明鏡 国語辞典 第二版 大型版)

①腕の関節の、折り曲げたとき外側になる部分。
②肘1の形に、曲がって突き出ているもの。
(学研 現代新国語辞典 改訂第六版)

大辞林では「肘鉄砲」の記述が追加されています。
「肘鉄砲」とは、要するに肘で人を小突くことですね。確かに「肘を食らわす」と言うこともあります。
対して、新明解では比喩的表現の説明が省かれており、体の部位の説明のみに。
上腕と前腕という表記もなく、比較的簡潔になっています。
でも、これくらい簡単な方がわかりやすいかもですね。「上腕と前腕」でちょっと考えちゃうし。
学研でも上腕と前腕は省かれています。ここの表現に違いが生まれるんですねえ…面白い。

今思うと新明解の説明、わかりやすすぎますね。
辞書を読みながら、自分や他人の肘を直接確認することを誘導するような、メタ的な視点が入っています。

さて、それでは3つめです。

毛むくじゃら
毛がむくむくと生えたさま。
(広辞苑 第七版)

ラストは状態を表す言葉の一つ、毛むくじゃら。「むくむく」という擬態語がかわいいですね。
他の国語辞典では…

濃い毛が密に生えていること。毛深いこと。また、そのさま。(大辞林 第四版)

濃い毛が密生していて、気味が悪く感じられる様子。(新明解国語辞典 第七版)

濃い毛が密生していること。(集英社 国語辞典 第3版)

濃い毛がたくさん生えていること。(明鏡 国語辞典 第二版 大型版)

体に濃い毛がたくさん生えていること。(学研 現代新国語辞典 改訂第六版)

広辞苑以外では“濃い”毛で統一されています。
今まで広辞苑を代表例のような文章の作り方をしてますが、どちらかというと異質な側に分類されるかも。
「小型電動機」とか「こひじ」とか「むくむく」とか…比較している中では唯一の表現です。

閑話休題。

閑話休題の使い方、変じゃない?
響きと字面がかっこいいから言いたいだけでしょ。

「たくさん生えている」派と「密生」派に分かれている中、ちょっと異色に感じられるのは新明解。
「気味が悪く感じられる」という表現には悪意すら感じます。
が、それが新明解のいいところ。ちょっと尖ってるの好きです。

中立の立場で書く必要のある辞書の中で、「気味が悪い」っていうちょっと筆者の心情が入っちゃってるのがすごい好き。

というわけで、以上3つご紹介しました。
皆さんも是非、国語辞典を読み比べてみてください。

どうでしたでしょうか。あまり自分の文章を、年単位の時間を経て読むことはあまり無いので新鮮で、楽しむことができました。
英英辞典とかでもやってみると面白そうですね。
読んでいただきありがとうございました。ちょくちょく再放送やっていきます。


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