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ビジネススクールの学び4:成長から分配

 ケイト・ラワース先生の『ドーナッツ経済』は、経済学という学問が、成長を支える学問体系から、分配や社会的公正・地球環境保全を企図する学問体系への転換を求めている、と理解しています。経済的な不平等を解決(たとえば貧困)するためには、分配のパイを増やすという意味で、まず成長が必要であるという考え方は、これまで公共政策の領域でも、比較的支持された考え方であったと愚考します。
 他方で、なかなか、私たちの給料が上がらない中で、企業業績が悪いにもかかわらず多額の株式配当を継続するファミリー・ビジネスや、いわゆる買収的な投資等で、驚くような金額の損失を計上する企業も散見されます。ここでは、企業ガバナンスが有効に機能していない可能性があります(企業は誰のものなのでしょうか。株主のものという理解でいいのでしょうか)。会社への帰属意識を高めたり、市井での生活の満足感を向上することは、企業や社会にとって、安定的で持続可能な発展を実現する重要な手立てです。『ドーナッツ経済』は、この課題に対して、分配の理論をより精緻に構築することの必要性を提唱しています。ここでは、地球環境のようなこれまで無料で使用することのできた自然資本を、特定の企業や利権者が、汚染し・独占することに大きな警鐘が鳴らされています。
 ビジネススクールでは、こうした諸問題をたとえば、企業倫理の問題として取り上げます。パーパス経営やESG投資の議論は、代表的な論点です。会計学の授業では統合報告(Integrated Reporting)の視点で、自社に都合の良いだけのIRではなく、バランスの取れた企業情報の開示を促す流れが強くなってきました。ここでは、企業が自然環境に対してどれほどの負荷をかけ、その回復を実践したかの説明が求められています。公共経営の授業では、博愛資本主義(Phiranthrocapitalism)という思考が紹介されて、変わり行く資本主義(貯蓄から投資)を冷静に分析するための視点(貯蓄の前提としての分配、社会的な公平、民による公、そして他者への思いやり etc)が説明されます。
(2022.06.05)

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