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保険会社(損保・損サ)をやめると決めた話

簡単に私の自己紹介をさせていただきます。

・大学卒業後に、国内の保険会社に入社

・入社以来、保険金支払い部門(損害サービスOR損害サポート=通称損サ)に10年以上にわたって勤務

・支払った保険金の件数は1000件は下回らないだろう

・火災、地震、傷害、交通事故、、、事故に遭い、お困りのお客様にいち早く保険金をお支払いして元通りの生活にいち早く戻っていただきたい、そんな思いで仕事を続けてきた

さて、勘の良い人なら気づいたかもしれないが、少し前にバズっていたhatoさんのnote:医療従事者をやめると決めた話 にこのnoteは多分に影響を受けている。hatoさんのnoteを読んでいない人は、先に本家をお読みいただきたい。

私は、保険金を支払うこと、この仕事を通して、多くの人に、会社に、社会に役立ってきたという自負があった。でも、疲れてしまった。何(誰)に対して疲れてしまったのかは後述する。新型コロナウイルス(covid_19)が関係あるのかと聞かれたら、無関係ではない。

少しだけ、保険の難しさ=やりがい=面白さ、について語らせてほしい。

保険は必要なのか?

自動車保険がなければ怖くて、自動車を運転することができないのではないだろうか?火災保険がなければ新築の家を建てたり、マンションに入居したり、できないのではないだろうか?旅行に行くときに最低限の旅行保険は?結婚して家族ができたら、自分に万が一の死や就労不能状態が生じた場合に、最低限の家族に残す保険は入らない?

仕事柄たくさんの困っている人をみてきた。

・東日本大震災ですべてを失った人々

・熊本地震で家が壊れたことに加えて、市民の誇り熊本城が壊れてしまったことを嘆く人々

・隣家からのもらい火で、築1年の新築住宅が全焼して悲しみにくれる家族

・交通事故で最愛の子供を失い、泣き崩れてしまった両親

・交通事故で軽微なわき見運転で小さい子供の命を奪ってしまい、釈放後に仕事も家族も失い、人知れず引っ越していった男性


保険不要論

なるものを、Youtuber達は声高に叫ぶけれども、その人にとって、その人を想って、最適な人生設計をしたときに、保険に入るっていう選択肢が最適解だというケースがあることを忘れてほしくない。当然のことながら、人に言われるがまま、なんとなく、お任せします~って適当に加入した保険が最適解であることは少ない。

保険にはいっていなかったら?

上記で列挙したような、人生でとてつもなくマイナスの事故が起こったり、起こしてしまった場合に保険に頼らずに乗り切れるのだろうか?

保険なんて、保険会社や保険代理店に手数料を払っている(取られている)だけだ、っていう人がいるけれども、上記のような人生でとてつもなくマイナスの事故が起こったら、貯金などの自分の資産を切り崩して乗り切れるのだろうか?

大げさだ!そんなに極端な事故(人生でのマイナスイベント)に自分はあわない、という人もいるだろう。では、やや不謹慎かもしれないが上記にあげた極端な例の半分くらいの不幸な事故に遭遇する可能性は考えないのか?

家が半分壊れた、半焼した、骨折させてしまい後遺障害が残ってしまった、小さい子供を失明させてしまった。

もちろん、上記のようなケースに遭遇して悲しみにくれる人々もみてきた。不思議なもので、保険に入っている人からの連絡もあれば、保険に入っていない人からの「事故」の連絡が保険会社に寄せられるケースもある。

保険に入っていない理由は、ひと任せで保険を決めてもらっていたので自分が入っている保険がわからない、もしくは補償がカバーされていると思い込んでいる、あるいはカバーされていないのを知っていてそれでも大きな事故に遭遇してしまい、なんとかしてほしいと懇願してくる人(圧をかけてくる人)。

保険は公平公正な商品である。

当然ながら、保険に入るのが先で、事故のあとに保険に入る、なんてできない。どこまで補償(カバー)するかも当然ながら、保険に入る時に決まっているので、事故の時にこっちも、あっちも保険に入っていることにして、なんて当然ながらできない。


保険は目に見えない商品である。
そして、複雑な商品である。

保険契約時に「重要事項」をきちんと説明して、納得していただいたうえで、加入してもらうのだが、概して説明が足りない、聞いていない、錯誤があったなど「保険会社の対応が悪い」ともめてしまう。

保険金の支払もやや複雑である。(損サの仕事)

他人の物を壊してしまい、損害賠償を保険会社がすると言っても、

・示談代行をする保険会社の存在、根拠の説明

・過失割合(責任割合)の説明

・減価償却(時価額)の説明

・保険金を支払った場合の保険料UPの説明

・主契約とは別の特約からの支払いの説明etc

色々ある。


さて、ここまで書いてきて 私が

「仕事が辛い、もう嫌だから、やめる~、逃げ出す~」って思った人もいるだろうが、それは違う。

仕事は面白い、やりがいもあった。保険金を払うことで感謝され、ありがとうと言われることで報われることもあったし、社会生活を支えている実感もあって保険の公共性=社会の役に立つ、一端を担えている満足感を得られていた。

今までに、保険金支払部門の仕事が難しさもありやりがいもあることを、やや冗長的かもしれないが書いてきた。本題に進みたい。

本題:私が何に疲れたのか?

3つある。

1つ目は、保険会社の中の人(同僚)に対して、である。

社会の変化はめまぐるしい。AI、Iot、MaaS、自動運転、ブロックチェーン…

Fintech,Instechの変化に順応できている社員が少なかった。危機感を共有できる社員が少なかった。私の出会った社員というごく限られた社会での話にすぎないので、井の中の蛙が何を言っているんだ、と思われるかもしれないが、私は同僚たちが怖いと思った。氷山が迫ってくるのを知りながら、沈みゆくタイタニックに乗船を続ける乗客、に思えた。

#人生100年時代  を一緒に働いていくビジョンが描けなかった。これが一つ目の理由である。


2つ目の理由は、保険(生保・損保)外を取り巻く環境の変化、だった。

新型コロナウイルスの影響は大きい、多くの死者を出し続けており世の中が一変した。経済へのマイナス影響などのマクロ的な議論はさておき、保険会社の収益性(現在・未来)について考える必要がある。

保険会社が合併を通して、分母を大きくして、規模の経済を獲得して成長を続けてきた。日本は少子高齢化により人口減が続くマーケットで、ドメスティックに執着すればパイの奪い合いで、縮小する日本マーケットだけでは成長戦略を描くのは難しい。

そこで、「海外の会社を合併したり提携をしてグローバル化を進めていこう」というのがその次の戦略であった。このグローバル化こそが今回の #COVID19  で沈む世界市場 や米中の貿易摩擦やGAFA&BATに搾取される日本マーケットを鑑みるに、「希望的観測が持てない」、と思うに至った。

成長戦略が描けない業界や会社で働き続けることは、私が思っている以上に難しいに違いない、と感じている。リストラされるかもしれないし、会社が倒産するかもしれない。安心して働ける環境にない。。

※5年前のビルゲイツの話をみんな真摯に聞き、行動していれば。。

やめる理由の

1つ目が、身内の危機感認識のギャップ

2つ目が、環境変化(成長性)を踏まえての危惧


であった。

3つ目は、 不毛な保険金不正請求者 とのやり取りで疲弊

したことである。

保険の仕事はやりがいがある、とさんざん書いてきて180度方向を変えるような話であるが、人の汚い部分を見過ぎてしまったのかもしれない。疲れてしまった。

同僚の中にも尊敬できる上司、先輩、同期、後輩はいたし、保険代理店にはいろいろと育ててもらったりビジネスパートナーとして競い合い、高めあったりした人との良き出会いに恵まれた。仕事柄、弁護士や医者などの先生と接する機会も多かったのは刺激が多く、会社人生に彩を与えてくれるものだった。


良い出会いの方が多かった、これは事実であるけれども。

悪い出会いもあった。

言葉を選ばずに言うならば、保険を食い物にしている連中がいた。

※ここから一部の業者を名指しで批判するのだが、当然ながら善良で、自身の職務を全うしている業者が多いこと先に述べる

・保険契約者を唆して、事故を偽装して保険請求をしてくる修理工場

・軽微な事故で痛みがないにも関わらず病院、接骨院に通院を続ける被害者

・信号無視を目撃者がどんなにいても、ドラレコがあってすらも自分の非を認めない高齢者(保険を食い物にしてはいないが老害)

・実際には通院をしていないのに通院したとして水増し請求をしてくる柔道整復師

・明らかに老朽化で壊れた家を台風の被害だとして請求してくる修理業者


そしてそして
・事案担当者を実名でSNSで誹謗中傷してくる人(損保ジャパンがネット炎上してましたね、保険を食い物にはしていないが倫理観疑問)

少し話は戻るが、顧客の払う保険料は、事故をおこした人の保険金にあてられる。保険料の一部は、保険会社の社員の給料や保険代理店の手数料にあてられるのだが、保険金を払えるのかどうかの「調査費用」にもあてられる。


はっきり言って、一部の悪徳契約者、悪徳業者などへの調査費用はかなりの額になる。今後は、AI診断やスコアリングの導入でコストは極小化できると思うけれども、汚い人間をたくさん見てきた、つかれてしまった。

あと、保険会社は高い保険料をふんだくる悪、みたいに思っている人も中にはいて、不正請求をおこす業者を擁護する論調があった時には絶望した。保険会社を儲けさせるくらいなら、保険金で払わせてやれ、みたいな。そういう人がいるから、保険金支払いが高止まりして、保険料が上昇し続けて、皆が困っていることを知ってほしいし、猛省してもらいたい。

身内、環境、顧客

に疲れてしまった。

冒頭に紹介した hato さんのようなたくさんの患者を救い~みたいな美談ではないんだけれども、保険金支払いの社員だってたくさんの事故の被害者へ保険金を届けて喜んで貰っている。ひとたび大型台風や大地震がきたら、損保の社員は全国から被災地へ駆けつけて、土日返上で支払業務を必死にやっている。それこそ、狭い会議室でぎゅうぎゅう詰めで朝から晩まで電話を受けたり、被害宅をまわったりすることもある。

当然だろ、仕事だろ。

って思った人は、今回の新型コロナ対応で奮闘する医療従事者と保険会社の仕事って何が違うのかなって思う。私のやってきた仕事と、医療従事者の仕事って、違うんだろうか?違うのでしょうか?

ちなみに、コロナで緊急事態宣言の最中であるが、保険会社も金融機関の端くれなので、店舗を閉めるわけにはいかない。我々は働いている。銀行、証券と同じく金融業務を閉めると社会への影響が大きいためである。

テレワークで出勤者が少ない中で、分担をして、お客様対応が遅れないように工夫をして、事故対応を続けて保険金を支払っている。保険会社の社員が払う保険金はすべて、他人の事故(請求、クレーム)に対してである。他人の命を救うべく働く医療従事者や死体を片付ける仕事の方々、感染者のシーツをクリーニングする業者の皆様、との危険度は違うかもしれない。でも社会的貢献は同じようにしているはずだが世間の目は。。


色々と考えているうちに、疲れてしまった。我慢をし続けて働くのはつらいし、何も考えずに日々過ごす同僚や、保険金詐欺の輩と距離を置きたいし、何よりも保険のミライは決して明るいとは思えない。

covid-19は、地球規模での災害。私は離脱をするが、緊急事態宣言の中でも必死に働く保険関係者の健康を願いたい。そして、大変な仕事だと思うし、これから激動の時代へと突入するけれども、保険をとおして社会を支えていってほしい。

元損保マンより