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OpenAIの「Whisper」と「ChatGPT」の合わせ技でライターは駆逐される

私はフリーランスのライターで、さまざまな媒体の記事や、編集協力で本を書いています。その目から見て、衝撃的なことがあったのでお話させてください。

ある方の講演を聞いて、レポート記事をつくるという仕事で大阪に出向いたときのこと。私は話を聞きながらその場でタイピングをしていました。
「自分で書き起こしをしているんですか?」
隣の席にいたカメラマンがそう言って、こういうものがあると見せてくれたのが「Whisper」でした。

Whisperとは「DALL・E2」「GPT-3」などを開発しているOpenAIが開発した汎用的な音声認識モデルです。音声データをアップロードすれば自動で書き起こしてくれます。

Whisper以外にも書き起こしソフトはたくさんあり、これまで有料無料問わずさまざまなソフトを試した結果、ノイズが多すぎて使いものにならないという結論を出していました。

既存のソフトはアナウンサーのように明瞭な発音ではないと正しく認識できないため、一般人のインタビューが多い私は、自分で書き起こすか外注先に依頼していたのです。

ところがWhisperの書き起こしは100%に近いほど高精度(※チューニング済みのものに限る)。しかもその書き起こし原稿を「ChatGPT」にコピペして、「CNNの記者の目線で2000字に要約してください」というプロトコルを打ち込めば編集までできます。記事を読ませてもらいましたが、そのままネットに掲載しても問題ないレベルのクオリティでした。

カメラマンは、その講演会が終わった後に、「WhisperとChatGPTを使った記事がどれだけ素晴らしいか」を参加者全員に説明した上で、それを印刷した紙を配っていました。そのスピード感と正確さは驚異的なレベルです。

ああ、これ私はクビだなと思いました。

これからはわざわざ現地にライターを派遣して取材させる必要がなくなります。誰かがICレコーダーで音声をとっておいて、「Whisper」と「ChatGPT」で記事化すればいいのですから。

この衝撃はかなり大きかったです。「Whisper」を動かすには高度なプログラミングスキルがいるので、容易には使えないことが参入障壁にはなりますが、そのうちハードルは下がるでしょう。

ライターとして生き残ることを考えたら、今すぐ「Whisper」を使えるように環境を整えるしかありません。それによって記事化のスピードを速くし、付加価値をつけなければ廃業一直線です。AIを使いこなす(あるいはAIに使われる)人材にならないと生きていけません。

おそらく一番に淘汰されるのは書き起こしを専門にしている企業・個人でしょう。これまで1時間の書き起こしに1週間を要し、100~300円/60分で受注していたような仕事は成り立たなくなります。

私のように取材やインタビューを専門にしているライターもかなり厳しいですね。インタビューの肝はライティング技術というよりコミュニケーション能力ですから、お話が好きな編集者が相手と対談し、録音データからAIに記事を作らせれば事足りるようになると思います。

本の聞き書き(わかりやすい言い方をするとゴーストライター)も不要になるでしょう。

あと1年は現状維持でもいけるかもしれませんが、そこから先はどんなふうに仕事を受ければいいか真剣に考えなければなりません。

かろうじて生き残れるとすれば、まだ形にないもの(インターネットの世界に情報がないもの)を自ら取材したり創作したりして発信するスタイルでしょうか。つまり一次情報を発信する側ではないと厳しいということです。

ライターとは別の国家資格でも開業登録しているので、そちらに完全にシフトしようかとも考えました。ですがアドバイスがメインの仕事なので、そのうちチャットGPTに食われる予感がします。すべての産業で経験年数の浅い職人の仕事はテクノロジーによって淘汰されていくと思います。
それを覚悟しながら仕事を選ばなければなりません。

■人間はあと7年でデジタルな世界に飲み込まれていく

ここから先は少し余談になります。
Whisperを知って衝撃を受けた翌日、栃木の山奥に取材に向かうと、面白い方と出会いました。彼は本業のかたわら農業をしているのですが、その理由があまりにもユニークでした。

「2030年から始まるムーンショット計画で、すべての人間はデジタルな世界に飲み込まれていく。おそらく9割の人間がリアルな世界からいなくなるだろう。そのときに生き残れるように、自給自足の生活を始めた。井戸水を引き、自分が食べる分の米や野菜を作り、同じ考えを持つ人たちとコミュニティを作っている」

彼の言う「ムーンショット計画」とは内閣府が数年前から推し進めている研究のこと。
https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/sub1.html

内閣府は2030年から2050年にかけて、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現するとしています。つまり、人間がアバターを使ってサイバー空間で生活するようになるということです。

おそらく、今後AIは神のごとく進化し、大半の「普通の人」の仕事を奪うと思います。職を失った人はベーシックインカムで暮らすようになるでしょう。収入を得て豊かな暮らしができるのは、AIが代替できない特殊な技術を持つ人だけになるかもしれません。

その後に政府のムーンショット計画が始まり、すべての人間がデジタルな空間に移り住むようになります。身体的なしがらみやさまざまな抑圧から解放されたデジタル空間はある意味天国だと思います。

しかし彼は言います。

「人間は魂を成長させるために生まれたのに、デジタルな世界に行ってしまったら成長がなくなる。だからあるとき、パソコンの電源が抜かれるようにリセットされる。そしてすべてが消滅する」

まるで映画の「マトリックス」のような世界が少しずつ近づいてきて、現実化するときが、7年後に迫っています。

そんな世界で自分はどう生きればいいのか、まだ答えは出ていません。

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