版元日誌「「たくさん売る」以外の在りかた」を読んで
はじめに
版元ドットコムで「「たくさん売る」以外の在りかた」という記事が出ていました。これを読んでみると個人的に「あ、ここ興味深いな」と思ったところを見つけたので、以下、書いてみます。今回書く内容を一言で表すならば、「近世出版の制度に似ている」です。これ以降は説明です。
noteにも記事があるので貼っておきます。
※過去の制度と見比べて「あ、これ、〇〇(任意の制度名)と似てる!」とやるのは雑だ、と思う方が結構いるかもしれないですが、ご容赦ください。正確性とかきちんとした文章、というのをここでは目指してません。
ざっくりと読んでみて
この文章を書いた荒木健太氏は、高円寺で「えほんやるすばんばんするかいしゃ」という本屋を営みながら出版活動を行い、出版部門を「果林社」として独立させた方です。「えほんやるすばんばんするかいしゃ」、いつか伺ってみたいと思った本屋の1軒です。高円寺なので比較的近いのですが、どうも杉並、武蔵野辺りは最近あまり行くことがないため、少し足が遠のいてしまってます。
脱線したので軌道修正すると、この「果林社」、出版社ではあるものの、発売元という立場で、本を発行するのは各書店という「共同発行」というスタイルを取っている。この「共同発行」がどのようなものなのか、という紹介が今回の文章で興味深いなと感じたところです。以降、個人的に興味深いと思った点をつらつら書いていきます。
「共同発行」と相板(相合板)
この「共同発行」について自分が思ったことが、相板(相合板)に似てるということです。
まず、「相板(相合板)」について。下のような意味です。
※出板許可については省略します。
近世(江戸時代)において、単独で出版(開板)するのにかなり費用がかかる場合があります。その費用を分散させるため、共同で出版する書肆(本屋)を集め、集まった書肆が出版をするという流れでした。このとき集まった書肆には板株(版権)が与えられ、手放さない限りは出版が可能(版権の保護)でした。このような本は、刊記(奥付)には連名で書肆名が載っています。必ずしも連名の本がすべて相板であるとは限らないのが注意事項ですが……
果林社の取り組みについて引用してみると、以下のように書かれています。
相板に近いことをやっているように見えます。また、重版(※ここでは現代的な意味での「重版」です)した場合の還元も、板賃に近いところがあるように感じました。板賃の場合は持ってる板株に応じての配当です。
相板は板株の売買によって版権の移動ができたのですが、「共同発行」では「重版時に降りる」ことのみ可能な点は相違点として挙げられるでしょう。
「本屋誌」の観点から「共同発行」を見てみると……
自分がやっている「本屋誌」(と勝手に名付けている)に引き付けると、この「共同発行」という制度は「この年代にはXXXという(「XXX」は任意の名称)本屋があった」という調査ができる可能性を秘めているものであると言えます。
この調査方法は近世出版物の刊記や明治期の書籍にある「売捌書肆一覧」などを用いて、「ある年代のある場所にはXXXという本屋が存在した」ということを確認していくものです。これは本屋の「〇〇時代にはあった」という話を裏付けるために使用しています。1冊だけでは不十分なので同年代の本を複数冊活用していくことで網羅性を上げていきます。必ずしも目的の本屋が見つかるわけではないことは言わなければならないことですが……
現代の本屋を調べる場合、ネット記事やSNSなどの電子情報を用いる場合が多いです。しかし、突然その情報がなくなることがあります。この調査方法を現代の本屋を調べるために使えるということは、記載された電子情報(SNSなりネット記事なり)がなくなった時の代替手段として有用ではないか、と考えています。というより、奥付の記載が確たる証拠になるので、本屋の活動としても書くことができると思っています。
おわりに
雑でしたが、現代の出版社が行っている内容がかつての出版制度に似ていたという話でした。個人的に、ここになにかを調べる面白さの1つがある気がする、とか思っていたりします。
個人的にはこの制度が長く続いて現代の出版物でも近世・近代初期の本屋を調べる方法が使えるようになってほしい、と勝手に思っていたりします。
元記事はこちら
えほんやるすばんばんするかいしゃ URLは↓
近世出版史に関して、よさそうなPDFが2つあったのでシェア
版本について 刊記・奥付の読み方を中心に
新版・ゆっくり学ぶ江戸の古文書 パート2 和本の世界2 江戸・世界に冠たる出版王国
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