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やっぱりこの世界には、「知らなくてもいい」ことがある

私の大好きなライターの方がおすすめされてたもんで、速攻図書館に行って借りてきた。

ルポ西成。
日々の日記をほぼ全編関西弁で書いとるのでご存じやと思うけど、私は関西在住の関西人。けど、西成はマジで行ったことが無い。し、行ってはいけないと思う。でもやっぱり、どんな場所なのかは気になる。自分の身近に「日本一危険な街」があったら、やっぱり気になってしまうわな。
とはいえ「じゃあ行ってきます」とは出来ないのが西成。この本は西成で数か月暮らしたライターが書いた本なので、本当の西成が分かるらしい。

感想を一言で言うとすれば、「読んでよかった」。
正直な話、最初は怖いもん見たさみたいな、茶化すような感じで読み始めてしまった。自分の身近な場所にあるアンダーグラウンドな場所を平和な場所から覗いて、「お~怖」って言いたいだけやったのかもしれん。架空の危ない街「神室町」を歩くことができる龍が如くをプレイするみたいなイメージ。
けど、読み進むにつれてそんな簡単に済ませていい話じゃないことがどんどん分かり始める。西成はただの危ない街じゃない。ここにも生活している人がいて、ここでしか生活できない理由があって、それぞれ後悔していたり、これがいいと思っていたり、諦めたり、諦めきれなかったりしてる。
著者が、そんな「西成に住む人たちの心情」みたいなところを丁寧に書いてくれているから、怖くなる。それもホラー映画を観てる時のどこかワクワクした怖さじゃなくて、足の裏から暗闇がゆっくり上がってきて己を全部飲み込んでしまうような怖さ。ただただ何をすることも出来ない陰鬱な時間。「読まなければよかった」とすら思うくらい。

すごく心に残ってしまって離れない一文がある。西成に住む人たちは、みんな「そういう体(てい)で」生きているんだそうだ。
自分は社会勉強のために、職場で長期休暇を貰って西成に働きに来ていると自己紹介する男性が出てくる。その人は著者のことをめちゃくちゃ見下していて、自分は高学歴だし仕事も出来る、だから会社が長期休暇を喜んでくれる、と話す。
でも、みんな気付いとんのよ。「長期休暇が長すぎる」ことに。でも誰もそこをツッコんで聞いたりせんのよ。西成の人たちはみんな、「そういう体で」生きてる人ばっかりやから。
身分も偽り放題、指名手配犯だろうが組の者だろうが前科者だろうがなんでもアリ。そこでは「本当のこと」なんて無いのよ。みんな嘘をついて生きているし、嘘をつかないと生きていけない。誰も人のことを信用していないし、誰も自分のことを信用しない。そんな街だから、今すぐ出て行きたいと思う人がいるのと同時に、一生ここで暮らしたいと思う人もおるわな。

この本の最後で、一気に暗闇に飲み込まれそうなエピソードがある。実録なのに、まるでドラマみたいに伏線を回収して、やりきれない気持ちになってしまうこのエピソードで、私は「読まなきゃよかった」と思った。
でも同時に、「読んどいてよかったな」とも思った。私は最初、ホラー映画を観るような、軽々しい怖いもの見たさからこの本を手に取ってしまった。でも、そんな軽々しく扱っていいものじゃなかった。簡単に感想文を書けるような、そんなものでもなかった。
この世界にはやっぱり、知らなくてもいいことがたくさんある。でもそれを知ることで、見方が変わることもある。何も知らずに、幸せに生きるか。何かを知って、苦しむか。そんな二択を迫られてる人たちが、今この瞬間も「日本一危ない街」に集まってるんかもしれんなと思うと、やりきれない気持ちになるのだ。

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