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「トゥルーマン・ショー」を観たら、文明の利器も敵わない感情を抱いた

「名作」と呼ばれるものには、やっぱりちゃんと理由があるんやなっていう話。

Netflixってさ、観てる作品の傾向をAIが分析して「あなたへのおすすめ」みたいなのを出してくれるのよ。そんで、作品の「おすすめ度」みたいなのも出してくれる。「マッチ度」っていう名前になってたかな、確か。こいつの性能が非常に良い。非常に、異常に良い。おすすめ度が90%を超えているものは、基本的にハズレない。だから基本的には90%を超えてるやつしか見てなかった。

ずっと見たかった「トゥルーマン・ショー」。かなり有名な作品やから絶対観とかんとあかんな~ってNetflixを開いたらさ。
おすすめ度が84%。
微妙~。

これまでの実績があるから、AIを完全に信頼している私、ちょっと迷う。これ、観て「イマイチやな」って思いたくねえな~。なにせ超名作やんか。それを「イマイチ」と思ってしまったら悲しい。「名作」と呼ばれているものに自分がハマらんかった時、得も言われぬ疎外感を感じる羽目になりそうやし。
とはいえ、とはいえよ。やっぱ名作は観ておかんと、これから先の人生に関わってくるやんか。有名な映画は、観ておいて損はないわけよ。

てことで、観た。
結論。全人類観ろ。

あらすじにさらっと触れておく。何の変哲もない日常を過ごす男性、トゥルーマン。でも実は彼の人生全ては、無数の隠しカメラによって全世界に24時間生配信されていた! っていう話。
これの何がすごいってさ、制作されたのが1998年なのよ。今から20年ほど前。
今でこそ、YouTubeとかツイキャスとかLINEライブとか、「生配信」が簡単にできるサービスがあって、誰でも日常生活を配信できる時代になってるけどさ。20年ほど前にもう既にそんな未来が来るって想像されてたのすごくない? これ、今だからこそ見るべきな映画やんけ。

トゥルーマンは、お茶目で快活なサラリーマン。毎日仕事をそれなりにこなして、家に帰れば超絶綺麗な奥さんがいる。ちょっと水恐怖症があって仕事に支障きたすこともあるけど、それ以外はマジで順風満帆な生活を送ってる。超、順風満帆なのよ。

それもそのはず、全部テレビプロデューサーがトゥルーマンの人生を操ってるから。家族も、結婚も、全部トゥルーマンの意思じゃなくて、テレビプロデューサーが上手いこと仕組んでる。
でも、ある出来事をきっかけにトゥルーマンは今の人生に疑問を持ち始める。

この映画の何が面白いって、無意識のうちに自分も「トゥルーマン・ショー」に釘付けになる、ってとこ。
最初は、「映画としてのトゥルーマン・ショー」を見ているつもりやったのよ。それがどうだい、ある地点から完全に「映画の中のテレビ番組であるトゥルーマン・ショー」を見ていた。
映画の中に、「トゥルーマン・ショーの視聴者」という登場人物が出てくるんやけどさ。ある時から、私自身の感情をその登場人物が完璧に表現してくれるようになる。つまり、「映画の中の登場人物と自分が完全にリンクする瞬間」がある。これってすごいことじゃない? 映画の中の登場人物の気持ちと自分の気持ちが完全にリンクしたとき、急に映画にぐっと引き込まれるのよ。で、いつの間にか「映画をただ観ている人間」から、自分が「映画の登場人物」になった気がしてくんの。これはめちゃくちゃ新鮮で面白い体験。
……言ってる意味が多分分からんと思うから、観た方が早い。

▼▼▼以下ネタバレ&観た人にしか分からん話をするので注意▼▼▼








個人的に「すげー!」って感動したのは、「広告の使い方」。そうよね、普通はテレビ番組ってスポンサーからお金をもらって、その代わりにCMを挟むんやもんね。テレビ番組に必須な「広告」を、「24時間ノンストップ生配信」でどうやって挟むか。全部スポンサー企業の商品を使用して撮影する、っていうの、よく20年前に思いついたな。
しかも、「使用している小道具全てスポンサー企業の物ですよ」っていうシーンが出てくる前から、上手いこと匂わされてたのほんまにすげーなって思った。具体的に言うと、あれなんやっけ、野菜の皮むき器? やっけ。あれが出てきた時点で、「あ、これ広告や」ってすぐ分かったもんね。だって不自然やもん、あんな何の変哲もないやつを急にカメラの方に向けて紹介し始めたら。そっからはもう、出て来るもの出て来るもの全部「商品」なんやなって思って、すごい探してしまった。自販機に入れてたチョコとかも、多分スポンサー企業のやつなんやろうな。

シルヴィアに出会った時の、「この先の運命は?」っていう問いかけの缶バッヂ、あれも超よかったな。
トゥルーマンの運命はさ、決まってないようで多分決まってたんよね、あの時点で。細かくは決まって無かったろうけど、これから先○○っていう女優と結婚したことにして、子供が生まれて、その子供も大きくなって結婚して孫を生んで、だんだんおじいさんになっていく。そういうシナリオはあったはずなんよ。でも、シルヴィアに会ったことで「運命」の選択肢が一個増えた。シナリオ通り生きるか、自分で道を探すか。
「この先の運命は?」っていう問いかけのシーンが、そのまま運命の分かれ道になるなんてくそお洒落すぎん?

そんで極めつけはやっぱり、ラストシーンの「挨拶」よね。そこで私マジでにっこり笑ってガッツポーズしちゃったもの。視聴者とリンクしたのはそこが最高潮。基本映画の最高潮って本編の4分の3のとこで来るものやと思っててんけど、あんな最後の最後で最高潮を迎える映画もあんのね。エンドロール見ながら「多幸感」っていう言葉が頭を埋め尽くしたもん。
「おはよう、念のため『こんにちは』と『こんばんは』を」。ラストシーンのこれを聞いたとき、プロデューサーが直前に言った「君はスターだ」っていう言葉がよぎった。
トゥルーマンはさ、あそこでプロデューサーにバチギレして出てってもよかったのよ。無言で怒りを表して出ていくことも出来た。逆に泣きながら島に戻るっていう選択肢もあった。でも、全部違くて、彼は最後まであくまでスターである姿勢を崩さなかった。決め台詞を言った後、丁寧にカメラに向かってお辞儀までして、それでゆっくり出口から出た。
視聴者に向かって、これから会えなくなるかもしれないけどその時のために挨拶しておくね、っていうその台詞。もしかしたらトゥルーマンの最初で最後の演技やったのかなって思ったりする。

いや~、何が84%よ。バチボコに良かったわ。
AIからしたらこの作品は私自身へのおすすめ度が低めやったんかもしれんけど、やっぱりAIは人の感情まで読み取ることは出来へんな、言うて。名作ってのはね、有無を言わさず心臓揺さぶってくるもんなのよ。
「人は行ったことないところに行きたい」っていうトゥルーマンの台詞が妙に心に残ってる。そうなんよ。人間はいつだって冒険したいもんなんよ。たとえあまりおすすめされてなくてもな。

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