潰れた焼肉屋、青春の苦みと暗黒時代

超絶インドア派なもんで、基本的に一週間外に出なくても全然平気なタイプなんやけどさ。やっぱたまには外出てみんとあかんな。
私の唯一の『青春』の思い出である焼き肉屋、潰れとったわ。

高校時代、ド陰キャブスデブ図書館入り浸りヲタクやった。孤立こそしてなかったけど、属してるグループは所詮「どこのグループにも入れなかった奴らの寄せ集め」みたいなグループ。そんなグループやから、修学旅行とかのイベントごとの時くらいしか結束が生まれん。

そんな「青春」とかいう言葉と全く無縁の高校時代、一回だけ「打ち上げ」ってやつに行ったことがある。おそらく「打ち上げ」に行ったのは、生涯でそれが最初で最後になりそう。
安い焼き肉屋でよ。食べ放題の薄い肉を、みんなわーきゃー言いながら食うのよ。私は別に話に入っていくことも出来んから、隅の席で肉焼きマシーンと化してさ。一応同じテーブルについてる人たちのタレ皿に肉を順番に配る係になっとったわけ。そんなもん思春期真っただ中、心の未熟な高校生にやらすなよ。Pepperくんでも出来るわ。最近製造中止になったか知らんけど。
まあ、その焼き肉屋のクソ打ち上げの話はええのよ。最後の記念写真撮る時、ギャルが「じゃあ今度全員変顔して撮るべwww」って言いだして、どうしても嫌やったから写真に入ってるふりして陽キャの背中に隠れたけど一切気付かれずに終わった話は別にもうええのよ。もうええ。

私がしたいのは、その前。打ち上げに行く、前の話。

その日、打ち上げに遅れて参加した。と、いうのも。
なんか授業で研究発表みたいなんせなあかんっていう時間があってさ。その資料がまだできてなかったのよ。ほんで学校で居残って、資料を作り続けてたのよ。
その時一緒に残ってくれたのが、あんまり喋ったことないクラスの女の子でさ。けどすげえ楽しかったのよ、なんか。
学校大嫌い人間の私、基本学校に居残りしたことなんかない。キーンコーンカーンコーン、さようなら、はいさようなら、回れ右、競歩の速度でチャリ置き場到着、チャリ乗る、はいさいなら! 校門通過ビューン! の人間やから。そんな人間が初めて学校に居残ったのよ。まあ、必要に迫られてではあったけど。
けど、学校に居残りするっていう文化の無かった私、その日初めて居残った。徐々に窓の外は暗くなって、校舎から人気が無くなって、そんなに喋ったこともない女の子と、「今日打ち上げやのにこんなことせなあかんのマジ最悪やな」なんて、ほんまはまんざらでもないくせに言い合ってよ。ほんまはもうここで時間食い潰して打ち上げ行きたくもねえのによ。打ち上げ行きたいふりして喋んの。

結局暗くなってから資料作り終わって、教室の鍵をその子と一緒に職員室に返しに行ってさ。ほんだら、陽気なおじさん先生がさ、「おう、お疲れさん」とか言うわけよ。「ほんまによ、先生~マジうちら疲れた~これから打ち上げやのに~」みたいなことをぐちぐち言うわけ。
ほんだらその先生がさ、「ちょっと待ってろ」って言うてさ。自分の机から、明治ザ・チョコレートを取り出してさ。前にネットで流行った、ちょっとお洒落でビターなあのチョコをさ。「ほい、お疲れ」っつってさ。私とその子に一個ずつくれたわけ。

私とその子はそれ食いながら打ち上げの焼き肉屋行くわけ。「ラッキーやったな」とか言いながら。ほんで、先に着いてる陽キャ達に、「ちょっと~遅刻やで!」って絡まれる中、その子と二人で何となく目配せするわけ。「チョコのことは言わんとこうや」って。

あ~! 唯一の『青春』の思い出が! 「カップル」でもなく「親友」でもなく「あんま喋ったことない友達」との思い出! 陰キャ~!

でも確かにあの日が一番私にとっての『青春』であったことは間違いないのよ、どう考えても。だってもう何年も経ってるのにこんなに鮮明に思い出せとんのやもん。もう方程式の解き方も忘れたのに。

閉まった焼き肉屋見て、なんか悲しくなってしもたわな。あ~、こうやって少しづつ「思い出」っちゅうもんは思い出されんようになって、いつか忘れてまうねやろなって。あの焼き肉屋が閉まってたからこの記憶は蘇ったけど、あの焼き肉屋がもしもう潰されてたら、おそらく私は気付かず通り過ぎて、この記憶も引きずり出されることはなかったやろうしな。

たまに思い出してもいいのかもしれんよな。私が勝手に「暗黒時代」やと思い込んでるだけで、まあまあいい思い出もあるかもしれんし。
文化祭、一緒に回るはずやった友達が彼氏と回ることになってしまって送り出したり。部活、誰も来ん静かで暗い部室で1人、ひたすら校内用ポスター描いたり。修学旅行、同じ部屋の友達の痴話げんかに何故か思いっきり巻き込まれて男子の階と女子の階を行ったり来たりせんとあかん羽目になったり。

……うん、ごめん。やっぱ暗黒時代であることに間違いはないみたい。

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