てろめあさんの音楽談義#2
相変わらず試験勉強なんて間に合っていません。
来月「留年ファクター」となる大きな試験が2つあって、それに備えて勉強しているのですが、どうも1日5時間できればいい方ですね。受験期は10時間くらいやっていたのに、どうしちゃったんでしょう。笑
そんなてろめあさんですが、この間グランドピアノを久々に触る機会がありましたので、ショパン作曲、ゴドフスキー編曲の「革命のエチュード」を弾いてきました。彼はショパンの数多のエチュードを元に、より高度な技術を要求される練習曲として一連の編曲群を出版しています。今回はこの曲を軸にゴドフスキーの左手のための編曲手法についてみていきましょう。
ここで私の演奏を晒すのはやめておくこととして、プロの演奏をお聴きください。
指が回らない系人間にはただでさえ難しい革命を、片手で弾いてしまおうと言うのですから、ゆっくり弾いただけでも指が絡まりそうになります。
ここでは彼が左手のための編曲において用いている(ほぼシロウトに近い私の分析でわかる範囲では)手法のうちこれはと思ったものを紹介します。
左手一本で曲を奏でようとすると当たり前のことになりますが、左手で伴奏とメロディーを同時に奏でようとした場合、ベースとメロディーのタイミングを原曲のままにして演奏することが難しいことが多いです。多くの場合はクラシックだと小節の頭やコードの区切り目なんかに置くことが多く、コードを規定する材料ともなるベースの音。しかしながら、片手でメロディーを奏で続けながらとなると、どうしてもベースを規定の場所に持ってくることができないこともしばしばあります。そうした時、メロディーを違和感なく削れない場合はベースを削る、あるいはずらすしかありません。時として、逆も然りです。原曲の世界観を残しつつ、片手で演奏するには如何様にするのか。そうした時の処理が彼は非常に達者なのです。
例えば原曲のこの部分(楽譜はimslpより/最後にリンクつけておきました)。
上段では、簡単に言えばスラーの起始部がベースの音なのですが、これをこのまま左手で再現するとなると、メロディーをものすごく低音に持ってこなければならず、革命らしい展開への導入が失われます。彼はどうしたかというと...(またもやimslpより引用)
なんと、メロディーもベースのタイミングも若干ずらす、と言う荒技で突破しています。革命を普段から聴く人なら「おや?」と思うところだと思います。言葉で説明するのは難しいですが、メロディーの高さを確保し、かつ上行する形を維持しながら16分音符を並べてコードを示し、さらに遅れてベースも上行する形で盛り上がりを見せる、という形式を取ることで、原曲の盛り上がりを維持しています。さらに言うと両譜例の4小節目の4拍目に着目すると、原曲では当該小節の下行フレーズの一部になっていますが、アレンジでは次の小節のコードを示す役割を果たしています。これもまた妙技。というのも、原曲でも当該小節の4拍目の頭の音と、次の小節のコードの「根音」は一致しているのです。彼はここに目をつけた、ということでしょう。
さて、革命の世界観を崩さずに、という話をしましたが、やはり革命といえば第一主題のこの特徴的な左手の動きが挙げられますよね〜(譜例は再現部)
しかしこれもそのままメロディーと同時に弾くとなると困難を極めます。さて、彼はここでどうしたかというと......
はい!なんと上行下行を部分的に逆にすることでその雰囲気を見事に保存しています。
再現部でも......
こうした見事な工夫によって革命の世界観は左手一本で再現されるというものなのです。恐ろしい。
さて、我々こうした手法を学ぶことでどういういいことがあるのでしょうか?
ズバリこれは「作編曲をした時の幅が広がる」ということでしょう。
弾くのに両手を要していたものを片手で扱えるようになれば、もう片方の手で他のフレーズを奏でられるようになります。その分難易度は上昇するかもしれませんが、頭に浮かんだものを「そのままに書く」ことが叶いやすくなるかもしれません。
あるいは、昨今はさまざまなポップミュージックが世の中に溢れていますが、その中でも、音の入り混じりが複雑な音楽をピアノで演奏したいと思った時、あなたにある程度の演奏技術が備わっているのなら、ゴドフスキーの手法を使ってみない手はないでしょう。
最近、ポップス系では唯一「ずっと真夜中でいいのに」さんの曲を聴いています。ものすごく音の成分が多くて、クラシック上がりの私からするととても新鮮です。私の友人にも「ずとまよ」を愛し、弾いてみようとする人は多いのですが、どうしても切り捨てざるを得ない重要な音がある、という悩みは多々耳にします。
この曲は「お勉強しといてよ」という曲です。ずとまよの全てを知ったような口を叩けば自分以上にずとまよを愛する皆さんに怒られそうですが、これはずとまよの曲の中でも屈指の複雑さ、演奏する場合の難しさを伴うものだと思われます。
いわゆる、ピアノでの「弾いてみた」系動画も少ないようです(伝聞情報)。しかしこの曲であっても、左手編曲の手法と両手での演奏を組み合わせれば、ある程度原曲の世界観を保ったピアノアレンジができそうなものです。実際に作ってもみました。自分で弾ける技術があれば、ここで発表したいのですが、そうもいきません笑
ちなみに左手編曲の練習の題材に選んだのも、ショパンのバラード一番と、ずとまよの「暗く黒く」という曲でした。
長くなりましたが、ゴドフスキーの巧妙な編曲手法の凄さのうち0.1%くらいは伝わったかなと思います。
そして、意外にも、現代の大衆音楽のピアノでの演奏に、クラシック世界で生きた作編曲家の、珍しい手法が生きることもある、ということも合わせてお伝えしたいところでありました。
ではまた、私の気が向いた時にお会いしましょうね。
てろめあさん
楽譜引用元: https://imslp.org/wiki/Main_Page
ゴドフスキーについてもっと知りたい方: https://enc.piano.or.jp/persons/96 (PTNAピアノ曲辞典)
「ずっと真夜中でいいのに」公式youtubeチャンネル : https://www.youtube.com/channel/UCv6P5nsS9rP4tDtFlqLU_QQ
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