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「科学」自体の面白さを再実感した『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の紹介と感想

プロジェクト・ヘイル・メアリー』という小説を読んだ。

経緯としては、最近 タテの国 を読んだり factorio をやったりして、何となく自分の中のガチ SF 小説欲求が湧きたてられており、ちょうど知人数名が面白かったと言っていたので腰を上げて読んでみたという感じ。

結果、2晩の睡眠から得られたはずの生活リズムと、1日の労働から得られたはずのアウトプットを犠牲にした。
つまり、めちゃめちゃハマった。
最近の僕は本を読んでいる途中から「早く読み終えたいな」というモードに入ってしまいがちだが、この本はそう感じる暇もないままずっと面白く読め、最後の方は「もう終わってしまう」という寂しさを久々に覚えた。

普段はあんまり感想記事や紹介記事を書かないが、この本はさすがに面白すぎたので書いてみる。
ちなみにこの記事を書くのも睡眠と労働の時間を犠牲にしている。同僚には謝罪する必要がある。

本の入り口の紹介

できれば、何も知らず読んでほしい。
僕は「『何も知らず読んでほしい』と言ってる人がいっぱいいる」ことだけ知った状態で読んだ。あらすじなどすら読まないまま読み始めたので、本の内容すべてがかなり新鮮な情報だった。そのため面白さもひとしおだったものと思われる。
そういう背景から丁度いい感じの紹介を書きづらいため、2つの良さそうな入り口を紹介する。

1つ目は書き出しが無料で読めるやつ。
僕は1章の最後の文にシビレすぎてのめり込んだので、そこまで読める amazon の試し読みをおすすめしたい。

公式の試し読みはその部分までない。残念。

2つ目は以下の記事。

この記事は本の内容それ自体ではなく物語に出てくるモノの紹介をして、本のスゴさを語っている。
できれば出てくるモノの知識も一切入れずに読み始めてほしいところだが、しかし面白さ・スゴさのエッセンスを知るのは興味の入り口として良さそうなので紹介しておく。



もう読み始めてくれただろうか?

この記事では、ここまで読んでもまだ腰が上がらない人、もしくは既に読んでいて新参者の感想を読みたい人向けに、僕がこの本を読んで好きだった点を2つ紹介する。
特に2つ目が僕に刺さった要因として大きいのだが、ネタバレ度が高いので後回しにしている。まだ読んでない人はなるべく早い段階でこの記事から離脱して欲しい。

とはいえ、基本的には上巻の半分程度の内容(あらすじで分かる程度の内容)しかネタバレしないように努める。
とにかく本を読んで欲しい。

科学それ自体の面白さ

まず、広く言われているのと同様、「科学」の SF という感じなのがとても好みだった。

物語の中で主人公は様々な課題に直面するのだが、それらの課題に対して対応していくプロセスがとても「科学」的に感じた。
つまり、「課題に直面する→仮説を立てる→実験で確かめる、あるいは反証する→次の課題が生まれる→……」の繰り返しである。

例えば、最初の章で自分が地球外にいることを知るまでに、以下のように進んでいく。

  1. 自分が誰なのか、どこにいるかわからない(課題

  2.  観察の結果、物が落ちるスピードが早い(観察

  3. 加速度が大きいのではないか?(仮説

  4. ものを落として時間と高さを測り、 $${h = \frac{1}{2}at^2}$$ から加速度を計算し、地球重力 9.8 m/s^2 の1.5倍であることを確認する(実験

  5. 地球上にいる限り重力は不変なので、地球ではない場所にいるのではないか?(新しい仮説

  6. ...

めちゃめちゃ面白くないですか?? 

この物語の中でほとんどの課題解決と新たな課題発見は、このような科学的な実験のプロセスを経て進行していく。
しかも大半は中学~高校で習った内容だし、登場人物が(いろいろな事情から)噛み砕いて説明してくれるので、作中の実験で知識を得るワクワク感をすんなり追体験できる。
(ただ、僕は工学部卒だし、教養時代の授業や実験も思い出していたので、理解できる範囲にアドバンテージがあったかもしれない。むしろその経験が面白さを増していた気がする。ズルかも。)

ところで、僕は最近まで SF 小説というものに興味がありつつもあまり手を出せていなかった。というのも、人気の SF 映画のイメージに引きずられ、スター・ウォーズみたいななんかすごい科学技術で宇宙を飛び回る世界の話とか、逆に2001年宇宙の旅みたいに観念的な話だろう、みたいな先入観があったためだと思う。
今では、そういう SF は「科学的に虚構の世界の話」であり、逆にプロジェクト・ヘイル・メアリーのようなSFは「虚構の世界の科学の話」なんだろうという理解をしている。

つまり、面白さの根源が「科学」それ自体にあるのがこの本である。

僕が SF 小説を読み始めたのはこの1年くらいの話なのだが、その中でも最初に読んだ本が柞刈湯葉さんの『人間たちの話』であり、この本の 『No Reaction』 という話の解説が SF を好きになるきっかけになった。
この話のあとがきの中で柞刈さんは、

これは文字通りの意味でサイエンス・フィクションといえる珍しい作品ではないかと思っている。世の中のほとんどのSFは Science Fiction というよりも Technology Fiction である。

 『人間たちの話』あとがき 柞刈湯葉

と述べている。
僕の理解が正しいかわからないが、多分僕がかつてイメージしていたよくある SF は多分 Technology Fiction であり、プロジェクト・ヘイル・メアリーはおそらく Science Fiction 要素が強い。

そして、科学(Science)はそれ自体面白い。
古くから「農業のために時間のものさしが欲しい」などのニーズに答えてきた科学は、課題への直面と試行錯誤の結晶だろう。
通常、その面白さを味わうためには何らかの課題意識を自分で持つか、歴史などに学ぶ必要がある。
しかし、SFの世界では作者が用意してくれた課題とそれを科学の力で解決していく登場人物の営みを追体験できる。
あらためて、SFというのはこの体験がめっちゃ面白いんだなと実感した。

(ところで、そもそも SF が好きでないという人はまずは『人間たちの話』から入るのも良いのかもしれない。僕はそれでハマりました。)

というわけで、科学それ自体の面白さを味わえるのがこの本の1つめの好きだったところ。

「大きな物語」の面白さ

2つめの好きだったところ、といってもこっちのほうがより個人的には刺さったところ、は「大きな物語」の存在である。
世の紹介や感想を見てもあまり言及されていない気がするので、この記事ではこっちの方を強く主張したい。

この物語の中で主人公は、自分の置かれた状況を理解するにつれ次第に過去の記憶を取り戻していく。
それに伴い、主人公が地球外に来る羽目になった原因がわかっていく。

ざっくり言うと、地球外から来た微小生物の影響で太陽が弱まっており、地球寒冷化がやばくて人類がヤバい、もっというと地球上の生物全員がヤバい、という状況になっている。その状況を解決する糸口が主人公の今いる場所にあるので、主人公はそこにいるのである。

つまりこの本のなかで語られるのは、

  1. 何らかの理由で太陽が弱まっていることがわかった人類が、地球規模のプロジェクトで人類の知恵を総動員しながら解決を試みる、主人公が記憶を取り戻す中で語られる大きな物語

  2. 記憶喪失になっていた主人公が、実験による仮説検証を繰り返しながら地球を救う手段を手に入れる、主人公が今を過ごす中で語られる比較的小さな物語

という二重構造になっている。

この本の紹介や感想は後者に重点が当てられがちに感じるのだが、前者の大きなプロジェクトもめちゃめちゃ面白い。

なんせスケールがデカイ。
何を言ってもネタバレになるので詳しくはいえないが、「その土地でその規模でそんなことするのリスクとりすぎじゃない??!?!?!?!」「気象学者にその規模でそんなことさせるの人の心なさすぎない??!!!!?!?!?」みたいな大変な話が頻繁に出てくる。

しかもその営みの数々がかなり科学的にそれっぽいシンプルなアイディアで解決されていく。
これもネタバレになるのであんまいえないのだが、例えば「確かにこれを使うとこうするだけで恒星間航行できる加速度得られるロケット作れるなあ〜」みたいな、本来ありえないはずの本来ありえないはずの結論が、少しの嘘と現代の初歩的科学知識でもわかる理屈で得られてしまう。
しかもそんなアイディアがいっぱい出てくる。

上記2点が相まってめちゃめちゃ気持ちがいい。

ところで、僕は怪獣映画が好きである。とりわけシン・ゴジラや GODZILLA 怪獣黙示録のような、一見どうしようもない絶望的な脅威に対して人類が協力して立ち向かう作品が好きだ。プロジェクト・ヘイル・メアリーの大きな物語は、そういう風味をかなりの規模とかなりの科学的それっぽさで見せつけてくれるので、感情的にも知的にもワクワク感がものすごかったんだと思う。
(かなり余談だが、物語に出てくるこの微小生物の名前はコスモファージ(星を食うもの)だったので、アニメ映画の Godzilla を連想した。しかしあっちはあまり好みではない……映画のプロローグになっている小説版はかなり好きなのでついでにおすすめしておきたい。)

というわけで、絶望に対して人類が知恵を総動員して解決する大きな物語のワクワク感が、2つめの好きだったところ。

いかがでしたか?

改めて言うと、科学それ自体の面白さと、そのスケールの2重性がめちゃめちゃ面白いので、みんな読んでほしい。
この記事では物語の内容に焦点を当てたけど、登場人物全員がイキイキしてる感じとか、一切ストレスなく進んで課題提示と解決がされていくテンポとか、マジでめっちゃおもしろい。
加えて、僕は物語のテーマ性に共感できるかが好みかどうかをめっちゃ決めている自覚があるのだが、僕の感じたテーマ性は個人的に最高だった。しかしそれもややネタバレになるので言いづらい。
なお、ここまではネタバレしすぎないよう他の良かった部分は捨象しているので、まだ疑っている人は他の人の感想なども見に行って欲しい。

おまけ

以下、ネタバレ込みの雑多な感想メモ。作品読んだファンにだけ読んで欲しいので有料にしてみる。
「〇〇ができないと〇〇を知れないんか〜〜!!たしかに〜〜〜!!」「〇〇めっちゃびっくりした!!」「あ〜〜!!〇〇〜〜〜〜!!!」レベルの、ただの叫びが並んでます。
眠い頭で書いたので雑文の箇条書きだし特に期待はしないで欲しい。


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