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夜のお香

夜、眠りにつく直前、マッチを擦ってお気に入りのお香に火をつける。
ふわりと室内に香りがひろがる…

香りがあると呼吸が楽になってずいぶんとよく眠ることができるのですが、先日どうしたわけかお香立てが失踪してしまって、ここしばらくお香なしですごしていました。
部屋の中でどうしてものが失くなるのか、
朝、寝ぼけ眼でお香のカスを捨てた時に、間違って一緒にゴミ箱に落としてしまったのかもしれない。そう思ってゴミ箱を漁ってみましたが、お香立ては出てきませんでした。
長いこと使ってきた、桜の花びらをかたどったお香立て。
間に合わせに新しいものを買うか、気に入ったものが見つかるまで夜のお香は諦めるか。
しばらく悩みましたが、とりあえずなんでもいいから買っておこう、そう決めたとたん、思ってもいなかった変な場所から桜のお香立てがひょいと出てきました。
いったいどうしてこんなところに入り込んでいたのでしょう。驚くやら呆れるやら、でも失くしたと思っていたものが戻ってきた喜びは大きいものでした。

ラベンダーをブレンドしたマリンベースのこっくりとした香りが、スティック状のお香の先から細い煙とともに部屋に広がります。
明かりを落とした部屋のくらがりにぽっちり浮かぶ火の赤みを見ていると、なんだか自分で自分にお線香をあげているような気がして、おかしな気分。
お香の香りとともに深く眠って起きた自分は本当に、昨日生きていた自分なのでしょうか?
夜をひとつ越すごとに、平行した別の時空間へ移動しているのかもしれない、そんな錯覚。

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