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映画のはなし:『月世界旅行』

PCを立ち上げたら、googleさんが今日は1902年に『月世界旅行』が公開された日と教えてくれました。
防災記念日(1923年の関東大震災)と同じ日なんだ。へぇ~、知らなかった。

というわけで久々に観返してみた、ジョルジュ・メリエス監督の『月世界旅行』。
原作は「八十日間世界一周」「十五少年漂流記」のジュール・ヴェルヌ。
作品を観たことがなくても、顔が描かれた月の右目にロケットが刺さっている、ちょいコワ写真を見たことはある人は多いかも。
マーティン・スコセッシ監督の『ヒューゴの不思議な発明』では、メリエス役をベン・キングズレーが演じていましたね。

『月世界旅行』は、世界初のSF映画。本編は15分。
サイレント映画だけど、セリフがないだけで音楽とナレーションはあります。
そしてモノクロ映画だけど、カラーフィルムじゃないだけで色もついています。

月の探検に行くことになった、6人の天文学者。
ロケットで月に到着し(これが、かの有名な右目にロケット刺さった月のシーン)、しばし月探検を行うことに。探検中に遭遇した月の住人に捕らえられた天文学者たちは、月の王の前に突き出される。しかし天文学者のひとりが王を殺し、月の住民に追われながらも彼らは自分たちが乗ってきたカプセルで地球へ帰還する。

あらすじ、っていうか、ストーリー全体はざっくりこんな感じ。
ちょっと物騒な感じがしちゃうけど全然そんなことはないので、身構えずに気楽に観るスタイルがおすすめです。
120年前にタイムスリップして、娯楽映画を観る気分で。

この作品や監督のジョルジュ・メリエスについて、何がすごいのか、なにがどう革新的だったのかはいろいろありすぎるし、超絶映画に詳しいの方々の記事がたくさんたくさんあるので、ご興味ある方はぜひ検索してみてください。ちなみにwikiさんも相当な情報量だった。

で、私がこの映画で好きなのは、色。
もうなんか、浅い楽しみ方で恐縮なのですが、この映画の色が本当に好きなのです。

この色をどうやって作り出しているかというと、フィルムの1コマ1コマに直接色をつけていく手彩色。当時、彩色さんの担当カラーも決まっていたそうで、「ひとり1色」を「1コマ1コマ塗ってゆく」という作業だったそう。
すごい!そんな情熱を持って映画を作っているとか、感動しちゃう!

カラー版フィルムは公開から100年後にスペインで発見されたけど、フィルムの状態がひっじょーに悪かったとか。
ほかにもいくつかフィルムは発見されているらしく、デジタル技術が発展した2010年に本格的な修復が行われて、たぶんいま配信されているのはこの修復版なのではないかな?と勝手に思っています(リマスター版かどうかは謎。適当ですみません)。

とにもかくにも、本作のカラーは、セルロイドのような優しい色。
全面パキッと主張しているのではなく、各カラーの上に透明なガラス塗料が塗られているような、色の境目が少し滲むような、優しいかすれ方が本当に愛らしい。
光を透かした動く仕掛け絵本をみているようで、とてもファンタジック。
いまでは撮影技術がレベチに発達しているし、こんなにお金と時間をかけて映画を作ることは現実的じゃないと思うけど、このセロファンのような温和な色あいの映画って作れないのかな、と思ってしまうほど。

手彩色ゆえの色むらがあるんだけど、それがまた映像の味わいを何倍にも膨らませていて、もうなんか私からするとすべてがプラスにしか働いていない。
今の技術なら同じような色合いを出すことなんて簡単にできると思うけど、この「塗りむら」というのは、手作業でしか出せない美しさや味。
個人的には、芸術は寸分の狂いもない完璧なものではなく、こういう「ちょっとした歪み」が持つ魅力が、私の心に刺さってくるのです。
「大工は家を作るときもわざと完璧に作らない」ってよく聞いていたし(うちの祖父は大工だった)。大工の家作りはちょっと違うか。

そんなこんなで、久しぶりに観ても、やっぱりこの色が素敵だなと思った次第です。
そして一緒に『ヒューゴの不思議な発明』も観たくなっちゃった。

ちなみに、メリエスがこの映画をアメリカで大々的に公開しようとしていたら、発明の父トーマス・エジソンたちが先にフィルムのコピーを大量に作って(無断だったらしい)アメリカ全土で公開してしまい、こっちが大儲けしちゃったなんてことがあったとかないとか。
ひどい話や……。


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