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映画のはなし:コメディ分類でいいの?『トゥルーマン・ショー』

昨年のカンヌ映画祭のポスターが『トゥルーマン・ショー』でした。
なんで今??と驚いた。

「トゥルーマンは階段を上って作られた世界から抜け出したが、カンヌは赤い階段を上って真の芸術にたどり着く」ってことらしい。
いきなり作品のネタバレじゃん。1998年の映画だからいいのか?

カンヌはちょっと前にゴダールの『気狂いピエロ』がポスターだった年があったけど、あの時はゴダールがフランスの五月革命に付随して「カンヌ中止しろやー!」と言ってから50年という節目だったし、ゴダールの『イメージの本』もノミネートしていたから分かるんだけど……。『トゥルーマン・ショー』だけは本当に謎。

というわけで、『トゥルーマン・ショー』。

個人的にそこまで好きな映画ってわけでもないし、昔観たっきりだったのですが、Netflixさんがずっと私にオススメしてくるから(どんなアルゴリズム?)、「いいよわかったよ!もう一度観るよ!」と、観てみた。

原作があるわけじゃないけど、プロットはフィリップ・K・ディックによるSF小説「時は乱れて」と同じ。

海に囲まれた小さな離島。生まれてから一度も島の外に出たことがない、保険外交員のトゥルーマン。妻もいるが、学生時代に恋心を抱いたローレンのことが忘れられないでいる。
トゥルーマンはある朝、空から「シリウス」と書かれたライトが落ちてくるのを目撃した。そのしばらく後、今度はある男に声をかけられる。身なりは変わっているが、それは海で死んだはずの父。しかしトゥルーマンがそのことに気づいた瞬間、父は不自然に街中の人たちに連れられて行ってしまった。
実はトゥルーマンの生きる世界はすべて巨大なセット。その日常はプロデューサーのクリストフに管理されており、リアリティ番組「トゥルーマン・ショー」として全世界で放送、驚異的な視聴率を誇っていた。
周囲の不自然さに疑問を持ったトゥルーマンは、ローレンのことを思い出す。彼女も過去、「この世界は虚構」とトゥルーマンに話した直後、突然現れた彼女の父親に連れ去られてしまっていた。
そしてトゥルーマンは、真実を知るために行動を起こす。

トゥルーマンをジム・キャリー、リアリティ番組のプロデューサーであるクリストフをエド・ハリスが演じています(ベレー帽が似合うの!)。

フィリップ・K・ディックの小説「時は乱れて」は未読なのですが、この情報があるとないとでは、この作品の受け取り方ってだいぶ変わるのではないだろうか?と感じました。
私は今回初めて元ネタがSF界の巨匠フィリップ・K・ディックと知って、なるほどな、と思ったけど、この情報がないと、舞台が現代な分、気色悪さが増大するのではないかと思う。

だって、現代で、誰か知らない人の生活をずっとのぞき見してるわけじゃないですか!
そしてそれが全世界で放送されていて、視聴率めっちゃいいワケですよ。
で、プロデューサーのクリストフは、トゥルーマンの生活に変化を起こすべく、すべて指示をしている、と。

気色悪っっ!!!

SFっぽさを感じられたら、素直に「うわー!こんな世界になったらコワ―!」と思えたのかもですが、いかんせんトゥルーマンも視聴者も現代の私たちと同じような生活をしているため、「作るほうも観るほうも趣味悪いな!」という気持ちが強烈に湧き上がりまして。プロデューサーのクリストフが「テレビはすべて作られたものだから、作られてないリアルなショーを見せたかった」みたいなことを言うシーンがあるんですが、その考え方、マジでサイコパスだから!このセリフで、パパラッチがスクープを求めるあまり、倫理に反したりと過激になる映画『ナイトクローラー』を思い出した(この作品はサスペンス枠。面白いです)。

そして何十年ぶりかに観て感じたこと。
自分も視聴者側だったら観ちゃうのかな?趣味悪いよね、とか言いながらも観ちゃうのかも。なんか、そんな自分、イヤだな。

昔はトゥルーマンに感情移入しながら観た記憶がうっすらあって、「自分の人生を探し出せるかな!よかったね」と感じた(と思う)のですが、結末が分かってるからなのか、今回は誰にも感情移入せず、全編通して客観的に観ていました。
大人になって、広告とかそういう概念を知ったからなのか、客観的に観ることができたからなのか、「ココア飲みましょう。ココアなら●×社のココアが一番よね」みたいに日常に挟みこまれる不自然な宣伝セリフや、トゥルーマンが毎日ビタミンDのサプリを接種していたり(日光に当たらないとビタミンDが生成されず病気になってしまう。ブラック・ジャックが教えてくれた)ということに気づいた。その告知感を感じさせるタイミングは絶妙だった。

ってゆーか、ラストにクリストフとトゥルーマンが最後に直接話をするシーンがあるのですが、エド・ハリスが「私はキミを生まれた時から見てきた。初めて歩いた時もだ。誰よりもキミがどんな人間かも知っている」みたいなことを語りかけるシーンがあるんだけど、それってマジで相当頭おかしいからね!
エド・ハリスの演技でちょっと感傷的に見えるけど、ホント全然気色悪いわ!!(ちなみにエド・ハリスは大好きです)

コメディ映画に分類されているけど、ホントにこれコメディなの?
サイコスリラーとかでよくない??


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