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映画のはなし:知らなきゃいけない現実『わたしは、ダニエル・ブレイク』

労働階級のブルーカラーや移民など、社会的弱者の問題をテーマにした映画を撮り続ける、ケン・ローチ監督。『わたしは、ダニエル・ブレイク』は、第69回のカンヌ映画祭でパルム・ドール(いわゆる作品賞)に輝いた作品です。本当につらくて苦しい作品なんだけど、「悲しい現実から目をそらしてはいけない」と突き付けられる名作。

心臓の疾患を持ち、医者から働くことをとめられてしまった老齢の大工ダニエル。失業保険を申請しに役所に行くが、使ったことのないパソコンに苦労し、面談では「職務可能」と判断されてしまう。そして同じく役所で、ダニエルはシングルマザーのケイティに出会う。給付金も受け取れず、先行きの見えないダニエルとケイティとその子どもたち。お互い傷つきながらも、明日生きるため家族のように支えあう。
生きるために家財道具を売り、日に日に空間が増える家で暮らすダニエル。
ある日、役所の壁にスプレーで「私はダニエル・ブレイク 飢える前に申立て日を決めろ」と書いた。

日本よりも格差が激しいと言われるイギリスを舞台にした本作。日本だってダニエルやケイティと同じような状況の方は残念ながらいると思うし、悲しいかなたくさんの国で同じような状況の方がいるのが現実だと思う。

以前、是枝監督がTV番組のインタビューで「毎回フードバンクのシーンで泣いてしまう」と言っていたけど、本当にその通り。私も(辛すぎて何度もは観てないけど)毎回同じシーンで泣いちゃう。

それは、ダニエルとケイティが食べものをもらいにフードバンクに行くんだけど、空腹が限界を超えたケイティが、無意識のうちに缶詰を開けて食べてしまい、我に返った瞬間に号泣するシーン。

登場人物に感情移入して涙が出るのではなく、完全に第三者的な立ち位置で観ているのに、「こんなにも悲しいことが起きてしまうのか」と思って涙が出る。戦争映画のように、理不尽さに絶望するんじゃなくて、自分以外の人が置かれている現実に私も絶望する。他の映画では味わえない感情だし、もしかしたら生きている中でも、こんな感情で涙を流したことって数えるほどしかないかもしれない。

格差社会の現実を徹底的に弱者にフォーカスして描いている作品なので、本当に本当につらいけど、それでも、知るべき現実を描いた作品だと思う。

常日ごろ「すべてのことは(キリがないので)上とも下とも比べない」と思ってはいるけど、リアルを追求し、役所の方々に取材して(職務違反になっちゃうから名前はクレジットされてないけど)作り上げられたこの作品と比べると、本当に自分は恵まれているなと痛感するし、こういったカテゴライズは好きじゃないけど「社会的弱者」とされてしまう方のためにできることはしなきゃいけないな、と思う(偽善って言われてもいいの!やらない善よりやる偽善よ)。

少し前にYouTubeでイギリスのリアルを語っている動画を見ていたら「フードバンクというシステムを容認するような社会でいてはだめだ」みたいなことを言ってる方がいて、おっしゃる通りだなと思いました。
確かにフードロスの観点からみれば素晴らしいシステムだと思うけど、生きるために人の善意を頼らないと食べられない人がいる、というのは、あってはならない現実だと思う。

ふと『わたしは、ダニエル・ブレイク』とこの言葉をセットで思い出して、複雑な気分になった。


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