自分だけが頼り ③
前回、横においといた「経済的には自立してるけど、精神的な支援が必要な人」は「自分だけが頼り」と思っているのだろうか。
おそらく、現在の私は精神的な支援を必要としない部類の人間だと思うので、身近な人について考えてみた。
彼はたぶん「繊細さん」か「アスペルガー症候群などの発達障害系」のどちらかなんじゃないかと、ひそかに思っている。
人とのコミュニケーションが極端に苦手。ストレスはお腹に直結していてよく下痢をするが、それは小さい頃からだという。
温度や光、ニオイに敏感で許容範囲が狭い。
わたしが不機嫌になると、いち早く察知してものすごくツラい顔をして黙っている。大きな声や暴力はすごく苦手。
じっくり考えてから発言するので、簡単なことでも返事をもらうまでにかなり時間がかかる。「今日はビールにする?焼酎にする?」→15分→「ビール」など。
信じられるだろうか。この15分の時間、彼は問われたことを忘れているのではなく、おかずを見ながらずっとビールと焼酎のことを「考えて」いるのだ。
音楽が好きで、端から見ていると心酔感動しているように見える。が、絵画など自分の興味がないことには徹底的に無関心。
かなり細かいことにまで気づいてしまうので何をやらせても完璧。しかしおそろしく遅い。一度にたくさんのこと言うとパニくる。同時に二つのことができない。等々。
要するにちょっと変わった人なのだ。
一般企業で普通に働くには、どちらかといえば生きづらい人なんだと思う。
時々、不眠もあるようだけれどお薬を飲んだりはしていない。がんばって社会に合わせて生きているという感じがする。
他人事のように言っているが、私の旦那さんである。
彼は、他人さまに何か支援を求めているわけではなく、どちらかといえば放っておいてほしいように見える。
そして「自分だけが頼り」と思っている。というか他人に期待をしない。できないのだ。
例えば子どもが何か揉め事を起こす。それで噛まれたり唾を吐かれたりする。そういう時、親なら怒るのが普通じゃないかと思う。
私は怒る。噛んだり唾を吐いたりした子どもに怒っているのではない。それを見て止めなかった周囲の大人に怒る。
彼はわたしの怒りの嵐が通りすぎるのをおどおどしながらじっと待っている。
肩で息をしながら怒りまくっている私を、ひどく恐いものでも見るような目で見て「うちの子だけがそういう状況な訳じゃないから。ある程度はしょうがない」と「怒ってもなにも変わらない。世の中はそういう風にできている」と静かに言うのだ。
いや、それ、なんか変じゃない?
もっと期待しようよ。ちゃんと伝えたらわかってもらえるかもしれない。と言っても「無理だから」やってみないとわかんないと言っても「いや、わからないから」じゃあ、私が言う。
じゃあ、こんなこともあんなことも言っといた方がいい。ボソッと呟き、そこで話は終わる。
言わなくちゃならないということが、わかってない訳じゃない。
何かを伝えようとして相手に伝わる自信がないから何も言わないのだと思う。
そこで、お義母さんに聞いてみた。彼はずっと「何も言わない子」だったんですか?
「そう。育てやすい子だった」と義母は言った。
根が深い。お手上げだ。
子どものことなら私がいる。でも会社で代わりに伝えてくれる人はいない。だから彼は何も言わない人として「いい人」をやっている。
人に頼らず(揉め事を持ち込まず)、文句も言わず、遅いけど黙々と仕事をこなし、完璧に仕上げる。そりゃ便利使いもされるわ。
同じ会社で働いていたこともあるので、状況はよくわかる。
その当時は「そういう性格なんだ」と「いい人」だと思っていた。明るく人付き合いもいい(フリを身につけて)、上司には頼りにされていた(便利使い)。
見方が変われば人の評価も変わるもんだ。
彼は、それなりに生きづらい人で、たぶんなんらかの支援を必要としている人のひとりだと思うけど、他人さまに何か支援をしてもらおうとは思ってない。
やっぱり「自分だけが頼り」だと思う。
私ももう「誰かの助けを求めたら?」とか「上の人に話してみたら?」とは言わない。
むしろそれが彼を追い詰めるような気がするからだ。
「定年が待ち遠しいね~」と言うことにしている。どうやらこのご時世に、60歳で退職するらしい。
まぁいいけど。交代で私が働くからゆっくり休みなよ。子どものことはよろしくね。
子どものためには、誰かが家にいれば良い。それは必ずしも私でなくてもいい。
彼はそこで自分の居場所を見つければよいのだ。自分が子どもに必要とされ、自分も子どもの温もりをかみしめ、そして最期に
「いろいろあったけど、最後は楽しかった」
そう言って死ね。と思っている。