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息子の話

スマホやPCは使えるが情報インプット能力が不足気味の息子のことを好き放題書いていたら、最近全然連絡してこなくなったので、少し褒めてみようと思い立った。もしかして急にtwitterとか始めたんじゃないだろうか。誰か知り合いが「これあんたのことじゃない?」と教えたんじゃないだろうか。まあ、そこはどうでもいい。とりあえず褒める。

息子は保育園の時、運動神経が良く、上り棒はまるでオランウータンのようにするするてっぺんまで上っていけたし、鉄棒の腕立て前回りは永遠に回り続けるかと思うほどくるくる回ることができた。
また持久走も誰に似たのか大そう得意で、毎年優勝し、金メダルをもらってきたものである。保育士さんか母の会の役員さんが作ってくれたお手製のメダルである。
一番すごいと思ったのは、トイレトレーニングというものをしないうちにおむつが必要なくなったことだ。まだ2歳にならないうちに、勝手におむつを外し、自由に歩き回り始めたが、はっきり言ってトレーニングしていない=犬、猫のトイレしつけしてないバージョンである。つまり見えないどこかに「それ」があるのだ。「それ」を探す苦労も気にせず息子はおむつなしで過ごしているうちに一人でトイレに向かうようになった。
ほほう、人間の進化はすごい。
また自転車も補助輪をつけるのを嫌がり、上の子供のお古も嫌がったので、わざわざ新品の自転車を購入したら、あっという間にすいすい乗りこなすことができて驚いてしまった。これについてはスキーに行った時、彼だけ猛スピードの直滑降で山頂から滑り下りてきた勢いを思い出さずにいられない。とにかく恐怖知らずのツワモノというほかなかった。
ああ、そういえば幼児用の車に乗ったまま階段を下りてきたこともある。想像してみてください。幼児用の4輪の車で階段を下りてくるのだ。下はコンクリートでできた玄関である。今まさに下りようとしている息子に

「それだけはやめて!」

という母の叫びは空しく響くのみで、下まで豪速で下りてしまった。とりあえずけがはないし、べそもかいていないので良かったが。
だいたい息子はべそをかくことはなく

「あーん、あーん」

と大声で泣き叫ぶのが常である...しまった。褒めるんだった。
「あーん、あーん」で思い出したが、まだ保育園に入る前に、ぐっすり昼寝をしている隙に上の子供のお迎えに行き、帰宅したら寝ているはずの息子がいない。ベッドの下やあちこちの扉、たんすの中、冷蔵庫の中(いるはずがない)を探し、名前を読んでも返事がない。しかし息子の靴はちゃんと玄関に揃えておいてある。さてどこに行ったのだろう。まさかこの片田舎にある玄関に鍵をかける習慣のない家に「人さらい」がやって来て息子を連れ去ったのだろうか。
一応家の周りも探してみることにした。家から出て畑沿いの細い道を行くと獣道のような場所があり、そこを上りきると保育園がある。ちょうどそこにトラクターを運転して戻ってきた青年がいた。そして何やら私に話したそうである。

「あんたの家の子、さっき大泣きしながら裸足でここを駆け上がって行ったよ」

青年の口から出た言葉は私の想像をはるかに超えるものだった。
大泣きかよ。裸足かよ...。

「ありがとう。今、探しとったじゃんね」

極めて愛想よく返事をし、獣道を駆け上がると、その先に、涙と鼻水をダラダラ垂れ流した息子が裸足で立っていた。もちろん「あーん、あーん」と大号泣している。ここはとっとと家に連れて帰るしかないので、さっと腹のあたりを抱え、得意の手足バタバタ攻撃を避けながら超特急ひかり号で帰宅した。

「お昼寝しとるから置いていったんだよ」

「ギャーギャー。ウワー」

この時はどのくらい泣かれたかわからない。友人からお古でもらったミキハウスの一張羅のカーディガンは、涙と鼻水でぐっしょり濡れてしまっていた。しまった。褒めるんだった。
そうだよ。保育園も上の子が入ったらどうしても行きたくて赤ちゃん組から入って頑張ってくれた。小学校に入る前の年には同じく上の子が買ってもらったランドセルが欲しくてせがむので1年早く実家の親が買ってくれたんだった。それなのにずる休みが何と多かったことか。しまった。褒めるんだった。

そんなこんなで息子の話は尽きることがなく、そしてどれも今となっては笑い飛ばせるものばかりである。それが一番なのかもしれないと最近気づいている。

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