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自分を“食育”する2020に

イチロー選手がついにユニフォームを脱いでから9ヶ月。
あれだけの偉人が次に何をするんだろうと思っていたら、

育てる人を目指す

んですってね。なるほどなぁという思いと、すごい!という思いが
先日の「最後のイチロー杯」のニュースを観た際に脳内で交錯しました。

個人的な話ですが、初めて観戦したプロ野球の試合は、
オリックス対西武戦。西武ドームでした。
ピッチャーマウンドに立つ松坂大輔投手に対して、バッターボックス内であのサムライのポーズを決めるイチローの美しかったこと。
野生動物のようだ、という使い古された表現しか思いつかないほど、
あの日のイチローには、ちょっと人間を超えた雰囲気が漂っていました。

その後、海を渡った後の彼の活躍はご存知の通りで、
前出のイチロー杯で彼が子供達に語った話に、ちょっとビビビと来たのでした。詳細は上記のNHKのリンクでご覧になれますが、
最も印象に残ったのが下記の言葉です。

(指導者が若い人に)厳しく教えることが難しい時代に、じゃあだれが教育をするのかというと、最終的には“自分で自分のことを教育しなくてはいけない”。
そういう時代に入ってきたんだなというふうに思います。

そうだ、確かに彼はずっと、

自分を“教育”していた。

観に行った試合でも、打っているとき以外の守備位置についている時も一瞬だってじっとしていないイチロー。
ストレッチするかのように、四六時中腰を低く落としたり浮かしたりするのは、
今でも、活躍中の若手選手たちにも引き継がれる光景です。
どこかで聞いた話ですが、
イチロー選手は、自宅に友人の選手たちを招いてホームパーティーする時でも、時間が来るとサッと場を抜けて筋トレを始めるんですって。
彼が守り続けてきたストイックな姿勢というのは、打ちたいとか野球が好きとかという気持ちももちろんあるんでしょうが、
自分という一選手をいちばん近い立場から教育する
というのも、目的の一つだったんではないでしょうか。わからないけどね。

で、そんな時に思い浮かべたのは、食のことです。

今ってたぶん、これまでの歴史の中でも最も自由に楽しく幅広く、
自分の食を選び、コントロールすることができる時代です。
よく「昔の方が良かった」とか「昔の親はちゃんとしてた」とか言われるけれど
情報は簡単に入手でき、少し気をつければ意識の高い食材が手に入る現代、
親の庇護を離れた大人であればもう、

食は自己の責任です。

子供にはちゃんとしたものを食べさせないと。
誰にも文句言わせないきちんとした料理を家で作らないと。
そんな風に思っている若いお母さんも多いのではないかと思いますが、
子供がいない私が言うのもなんですが、大丈夫です。
それよりも、
ごはん、大好き!」という感情さえ持たせてあげれば、
たとえ偏食だったりアレルギーがあったとしても
いつか自分の責任において、自らを食育できるようになるのではないかと。

ただ、イチロー選手の言うように、
どんなに知識を得ても、実際に経験するとまた異なる学びがあったりする。
自分の食育ができる、というのは、
食に対して柔軟な感性をもち、いつでもなんでも試せてしまうチャレンジ精神も必要なのかもしれません。

友人の料理家で「inacoya」という料理教室を主宰する稲中寛子さんという人がいます。
彼女の料理を初めていただいたのは、友人宅で開催されたパーティーの席だったのですが、
たたき牛蒡のブルーチーズ和え
市販のバニラアイスに自家製のメレンゲを砕き割って混ぜたもの

など、うわぁ、何これ!っていうくらい、自由な発想に驚かされました。

稲中さんは、山陰の町のお医者さんの娘として育った方なんですが、

子供時代にどんなもの食べてたか、あんまり覚えてない

と断言するんです。
食に興味津々の子供ではなかったと。
ただ、そのおかげもあって「料理はこうあらねば」という自分の中でのルールがないのだ、といいます。
そんな彼女が料理に開眼したのは、すっかり大人になり、社会に出てからのこと。
ルールに縛られない稲中さんだけに、いったん火が付くと、
定石にとらわれない独創的で斬新な料理がぽんぽん出てくるのでしょう。

そんな彼女は、料理教室開催以外に、忙しい実業家ファミリーのプライベートシェフとしても働いています。
私と同じく子供はいない稲中さんですが、職場では離乳食も作るのだとか!
彼女はまさに、セルフ食育によって自らを食の世界に置いた方だと思うのです。

人生100年時代と言われる今、イチロー選手のように幼い頃から自分を教育してきた人でなくたって、今からでもアクションは起こせます。

2020年、自分をもっと食育してみようかと思います。

新しい食と出会い、試し、ハレの日からケの食卓まで、
長く人生を謳歌できるような、そんな食との向き合い方を知りたい。
食に対して常に欲望が消えることのない往生際の悪い人こそ、来年の私の目標です。

みなさま、よいお年をお迎えくださいね。

#料理 #COMEMO #イチロー

フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。