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【続】レシピって誰のもの?

11月に『世界一かんたんに人を幸せにする食べ物、それはトースト』を上梓してから、たまにテレビに出演する機会をいただくようになりました。

何度も言うのですが

私の本業は食のディレクターです

テレビどころか、人前でプレゼンするのもあんまり上手くありません。しかし、発行元、サンマーク出版の素晴らしき担当編集さんからは
死ぬほど嫌でなければ出てください。自分の本が可愛いでしょ?ね?!
と言われ。確かに、拙著ながら売れる方がそりゃうれしい。
「だれ、この素人」と後ろ指さされてんじゃないかとビクビクしつつも、

売られた挑戦は買ってやる

とばかりに、飛び出しそうな心臓を押さえつつ根性出してトライしてます。

ところで、何度か複数社のテレビの制作さんと関わっているうちに不思議な発見がありました。
私のトースト本では全部で118のアレンジトースト(簡単すぎるので、自分ではレシピなどとは呼べません)を紹介しているのですが、
こんなにたくさんあるのに、なぜかご指名をいただくトーストが重なるんです。
その1位は、

ひぃひぃ言ってしまうしらすのアヒージョトースト

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これまで、ご指名いただかなかったことはありません。本当にウマいんですよ。
2位は、

崩しコーヒーゼリーの生食パン

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生の食パンにコーヒーゼリーのせて崩すだけという「美味しい破壊行為」がウケているみたい。
3位が2つあって

いちごのバルサミコ炒めトースト

アボカドリボンのスクランブルエッグトースト

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です。お馴染みの食材なのに、がらりと変わる表情が楽しい朝ごパンです。
4つともめちゃくちゃ美味しくてクセになる味なので、もしよかったらお試しください。

書籍には記載しているのですが、
私のトーストは、自分で思いついたものもありますが、
友人の料理家によるメニューに着想を得たり、
レストランやバーで味わった一皿にインスピレーションを受けたり、
それをトーストで再現したものが多いのです。

上記で言えば、
アヒージョトーストは、ポルトガル料理研究家で友人の馬田草織さんが教えてくれた、「しらすのアヒージョ」が発想の源でした。

馬田さんの「しらすのアヒージョ」記事はこちら。


コーヒーゼリートーストは、フードプランナーの友人、大皿彩子さんが。
いちごのバルサミコ炒めは、料理家の友人、橋本彩子さんが撮影現場で見せてくれた料理テクが発想源です。

アボカドリボンは完全オリジナル……といっても、おそらくどこかの店か本か、人か、ビジュアルか、とにかく何かしらの“きっかけ”を経て、
私の心の中に降りてきたものだと思います。

インスタグラムで投稿するときは、「タグ付け」機能があるのでそれを使って「あなたのアイデア、トーストで試してみたわ〜💛」と伝えていました。
トースト本の校了前には、誌面でご紹介させていただいた友人全員に再び連絡を入れ、「このような形でお名前と共に本に掲載させてもらっていい?」と確認を取りました。

が、テレビやメディアでご紹介いただく際には
ひとつひとつのアレンジトーストの発想のきっかけなど、お伝えしたところで省かれてしまいます。
結果、いろんな人から

アヒージョトースト!すごい発想ですね! 
バルサミコでいちごを炒めるだなんて、素晴らしい!

などと言われるように。これが私にはなんとも居心地が悪いのです。

聞いて〜! これは私のオリジナルアイデアではないの〜!

と叫びたい。

この話を、「しらすのアヒージョ」の発案者、馬田草織さんにしたところ、
懐の深い彼女は笑い飛ばしてくれました。さらに
「お役に立ててうれしい! あのレシピ、もともとはスペインのうなぎの稚魚のアヒージョを目玉焼きアレンジしたものなんですよ」

と。神様なんでしょうか。続く彼女からのメールには

「実際にいろんな人が作っておいしいって言ったら、そのレシピはほんとにいいレシピなんだと思うんだよね

広めてくれてる繭子さんにもありがとうです」

と書かれていました。

コーヒーゼリーの大皿さんや、いちごバルサミコ炒めの橋本さんにも改めて連絡をしたのですが、
馬田さんと同様、「このレシピが広まることが純粋にうれしい」とおっしゃいます。あぁ、もう、神様だらけ。泣けてきます。

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まず、私が素晴らしい友だち運に恵まれたことに、心から感謝しなくてはなりません。本当にありがとうございます。熱くお礼を申し上げたい。

そしてもうひとつ、再び「レシピとは誰のものか」について考えてしまうのです。
かつて、レシピの著作権について考えさせられた折に書いたこのnote。

レシピはどこで生まれ、どこで変身し、どこで「誰かの所有物」になるんでしょうね。それを見分けるのは非常に難しいし、そもそも意味がありません。なぜなら、

レシピは世に広めるためにあり、
料理は、人々が幸せになるために存在する

から。

そんなことに、改めて今回の件で気付かされました。
今、胸にジーンと温かく横たわるこの思いは、なんとしてでもまた別の方法で、社会にお返ししなくちゃいけないと考えている昨今です。

#食の仕事 #COMEMO #料理

フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。