副業の予習をはじめよう
先日、長い付き合いのシェフと久しぶりに食事を一緒しました。
シェフ。正確に言えば「元シェフ」です。
さまざまな事情があってレストランのシェフを辞し、
今は経験を生かして高級輸入食材を取り扱う会社で働いていらっしゃるとのこと。
相変わらず寡黙に見えて饒舌で、
料理が運ばれてくるたびに、私の知識や経験からはとても生み出せないユニークで鋭いコメントをおっしゃるので
その日も本当に楽しかった。
食事をしたのは、少し攻めた調理法が自慢の焼き鳥屋さんだったのですが、
砂肝にかすかにタラゴンの香りを移した酢が効いていたことや
他では食べたことのないようなジューシーなつくねの秘密(蒸したり揚げたりしてない生だからこその味だという指摘でした)など、
即座に気づいて話す様子に
あぁ、この人はやはり今もシェフ
と思わずにはいられませんでした。
私は彼の料理が好きだったので、
正直、今彼が厨房に立っていないというのが、なんとなく寂しいなぁと思ったりもします。
が、それはもう、さまざまな事情があるわ、他人さまの話だわ、私がどうのこうの言うことではありません。
それに、個人的には高級輸入食材のお仕事には興味津々。
新たなフィールドに身を移した元シェフを、尊敬しています。
が、その日はワインを飲んだこともあって思わず、言ってしまいました。
その知識と経験を武器にいろんな副業もしたらいいのに!
と。
大きなお世話ですよね、すみません。
ただ、私は本気で言ってます。
*
昨今、航空業界の新型コロナ肺炎による収益悪化が大問題になってます。
花形稼業と言われたキャベンアテンダントたちを筆頭に、
アルバイトではなく、別会社との契約も認めるという
本格的な副業
を会社が推進してるんだと。
いろんな意見があるようですが、私は副業大賛成派です。
会社が「どうぞ新たな可能性と稼ぎ口を見つけてください」と認めてくれるなんて、
ラッキーだと思ってじゃんじゃんチャレンジすればいいと思っています。
なのにこのニュースを見るたびにちょっと複雑な気持ちになるのは、
手のひらを返したかのように「どうぞどうぞ!」という会社の姿勢に対して。
日本の大手航空会社は、青い会社も赤い他社も、総じて今までは社員に対して
俺のことだけ愛してろ!
と言わんばかりの姿勢でした。
いや、私がそう思い込んでるだけかもしれませんが、
「会社愛を強要している雰囲気」に見えていた。
なのに今、
俺はいいから、他のやつからも優しくしてもらえ。それがおまえの幸せだから
的にふるまうのが、なんか、信じられません。
CAたちも同様で、
私は一生青です!(赤の例もアリ)
みたいなノリで、自社と職業に、ちょっと過剰では?と思えるような誇りを持つ人も多かったように思う。
偏見なのかなぁ、私の。
ただ、その姿勢で生きてきて突然
「あなたの他の可能性も探してみなよ」
と言われたって、
それまでなんの準備運動どころか、ストレッチさえしてこなかった身で、
異種競技への緊急参戦は無理ってもんでは、と思うのです。
シェフという仕事は、料理を作ることだけではありません。
接客もして、会計もできた方がいいし、アートセンスも社会を俯瞰して見る目も、しゃべったり書いたりするような力もあったほうがいい。
CAだって、たぶんサービスと保安要員以外の素質が十二分にモノをいう世界では。
魅力のある社員やスタッフには、浮気せずに自分の会社や店だけで活躍してほしいものですが、
寄り道も浮気もどんどん許す。でもここの仕事だけはちゃんとしてね
と言える器の大きさを雇う側がもっていないと、
今後の日本、働く人口の確保さえ難しくなるのは目に見えているではないですか。
企業側にとっても、副業OKとする方が良い人材が集まると思うのです。
「元シェフ」の新しい職場は、非常に自由でチームワークも良い会社のようです。
彼が海外のクライアントと組んで日本のマーケットで受け入れられる新たな味わいの商品開発に取り組んだり、
取引先のレストランをまとめて現地の生産現場を視察するツアーを組んだり
シェフの視点を大いに生かした新しい仕事を創造することができたら、
これこそ、副業時代の賜物なんだろうなぁと勝手に妄想したりしています。
今、会社勤めをしている人には、
たとえどんなに面白いお仕事でも、「もし今、給料を半分にするが他で稼いでいいよと言われたらどうする?」と、常に頭の隅で考えるようにしたほうがいいよ、と言いたいのです。
趣味で習ってるクッキー作りは、通販で売れるようになるかもしれません。
合コンのセッティングが天才的に上手い人は、それでお金もらえるかもしれないし、もしかしたらめちゃくちゃ感謝してくれるカップルが誕生するかもしれない。
今後、人は何度でも第二、第三の人生に突っ込んでいく時代になります。
一生ついていきます♡と言うべき相手は、これからはたぶん、自分自身なんだと思います。
フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。