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値付けのセンス

パリで、フリーのシェフとして活躍中の沼田恵梨子さんが先週日本に帰国されていて、
久しぶりに食事をご一緒しました。

初めてお会いした時は27歳くらいだった彼女。
その時点ですでに、国内の星がつくレストラン厨房での経験を重ね、
さらには日本に参入するブランドのオープニングスタッフや、新規レストランの立ち上げなどにも関わっていました。
それらがいったん落ち着いた途端にご本人はまったく落ち着く気配も見せず、
ホイっとパリへ、2回目の料理修行に旅立っていったのでした。

ようやく30歳を超えたとおっしゃるんですが、
寒風吹き荒ぶ夜、レストランの入り口に現れたご本人は、
半袖のスウェットにブルゾン引っ掛けただけという信じられない軽装で(2月初めです)、
「寒いです寒いです!」と言いながらも相変わらずホットな笑顔が爆発するようでした。

この日も、日仏のガストロノミー界のウラ話やオモテ話で盛り上がり、
あっという間に夜は終わってしまいました。

今、私にはありがたいことにたくさんの友人がいて、
下は沼田さんのような方々から上は還暦を過ぎた方まで、
老若男女を問わず、非常に刺激的なヒントを日々私に与えてくれます。
その中で気付いたのですが、

年齢問わずお金のセンスのいい人

っているよなぁと。
みなさんの周りにもいませんか?
ガツガツしていないのに自然に楽しい仕事がその方に集まっているような、
普通避けたくなるようなリアルなお金の話も、その人が口にするとクリエイティブに聞こえるような。

前出の沼田さんは、お金の話をするわけではないのですが、
私が

沼ちゃん、いつ自分の店出すの?

と聞くと、

私、オーナーシェフになるつもりは今のところないんです
と言います。それよりは、料理という土壌に生きて社会と関わり、
いろんな活動をしていきたいんだというのです。

えらいね。私なんてもう、フリーになったからにはがむしゃらに稼がなくちゃと、そればっかりだよ。

と私が冗談めかして言うと、

山口さん。稼ぎは社会からの「ありがとう」ですよ!

それは尊いことだと私は思います、とおっしゃる。
今月いちばんのパンチラインはこれだな。
ズキューン!と胸打たれました。
もう一度言います。

稼ぎとは、社会からの「ありがとう」

別の友人で、還暦を迎えたのが信じられないスマートな実業家は、
クライアントに提示するギャランティー額の設定に悩む私に

自分が欲しい額よりは、相手が「あ、ちょっと得しちゃった」と思うような額を設定してみたら?

という素晴らしいアドバイスをくれました。
(それ、試してますが非常に効果あります!)
長いビジネスライフでいろんなことがあったでしょうに、
結果、私のような若造にそんなナイスなアドバイスができるって、素敵。
だからこそ、成功されてるんだろうなぁとも思います。

外資系金融に勤める友人の女性が

金融って、文系育ちの私が従事できる最もクリエイティブな仕事だと思う

という名言を放ったのも強烈な印象を与えました。

フリーの私だけでなく、アルバイトの学生からパートの主婦、バリバリのビジネスマンや社長まで、
お金の話を無視して生きることはできません。
昨今の飲食業界では、ブラックな職場環境改善を憂い、自身で起業してこの業界に風穴あける勢いのある方もたくさんいます。

いざ、お金の話をする段になって
急に萎えてしまったり、卑屈になったり高飛車になったり、
そんなマネーナーバスな人にはなりたくない。

結局、自分も一生懸命働いて稼ぎ、税を払い、
そして、いっぱいレストランに行ったり買い物したりして世に少しでもお金を流し、
……という収入&支出活動を、ワクワクと好奇心旺盛に繰り返すことによって、
値付けのセンス、お金のセンスを得られるのではないかと思っています。

レストランで食事を楽しむ際、最後のお会計の時に「わぁ、なんか今日は得したかも。また来よう!」と思ったら、その店は、
料理が素晴らしく、サービスもうるわしいのはもちろんのことですが、
もしかしたら目に見えないところに、
最高の値付けセンスが宿っているのかもしれないよ、

という話でした。

#料理 #COMEMO #お金

フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。