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食も、伝え方が9割

何年か前のベストセラーで、
コピーライターの佐々木圭一さんが書いた「伝え方が9割」という本がありました。
あのタイトルだけでも、目にした瞬間グッときましたし、

日々、それを言い続けて暮らしてる!

と、思わず叫びそうになりました。言葉って本当に大事。
ビジネスも恋愛も「伝え方が9割」です。
間違いなくそうだと思う。

そしてもうひとつ、「食だって伝え方が9割」です。
もちろん、ビジュアルだけで「食べたい!」
と思わせてしまう料理もあります。
しかし、そうではない料理だって山ほどあります。
特に、私が日々追いかけている「ガストロノミー」。
いわゆる“作り手の表現が加わった料理”は、
不思議すぎるルックスや、想像をはるかに超えるストーリーを有していることも珍しくなく、
そんな一皿を恐る恐る眺めつつ、シェフやサービススタッフがそこにどんな言葉を添えてくれるのだろうと待ち構える瞬間が好きです。

でもね、たまにあるんです。

なんとなく、そうしてみた

的な、ノープランな料理も。あるいは

わかる人だけ、わかればいいや

という投げやり料理。それはダメ、勘弁してください。
例え作り手が「俺は皿の上だけで会話したい」と思っていたとしても、
「あなたにこの味がわかるものか」というような相手に料理を出す時でも、
私はやはりそこに、伝える努力をすべきだと思います。
でないと、せっかく生まれた料理が体温をもたないままになってしまうから。

そして、シェフ以上にどうしようもなく「伝え方」の技術を磨かなければならない人たちがいます。ソムリエです

見た目になんとなく食材や味わいの想像がつきやすい料理に比べ、ワイン、
あれは一体、どうやって選べば良いのでしょうか。
こっそり打ち明けますと、レストランで「食の編集者なんだから、選んでよ」とワインのセレクトを押し付けられた時は、

知ってるのを選ぶ

ことで、いつも逃げています。それしか、できませんもの。

そんな私に、いつも本当に鮮やかな伝え方で、ワインを薦めてくれるソムリエさんがいます。
小澤一貴さん。東京・西麻布のレストラン「Crony」を率いる方で、
ドラマ「グランメゾン東京」で監修役を務める三ツ星のフランス料理店「カンテサンス」をかつて支えていた人でもあります。

小澤さんのワインの薦め方は、おそらく他のどんなソムリエとも違うと思います。
例えば、鴨料理を食べる際に、どんなワインを合わせるか。
鴨料理には「ブルゴーニュの王」と異名をとる「ジュヴレ・シャンベルタン」という赤ワインを合わせるのが定石の一つです。
ナポレオンが好んだ組み合わせ(ってことはどんだけ昔からだ!)で、ワイン通には格段珍しくない組み合わせなんだそう。
一般的なソムリエなら、「そうですね、ジュヴレ・シャンベルタンはいかがでしょう。このワインはいわゆる……」という感じで説明されると思うのですが、

小澤さんは最初っから違います。再現します。

今日はナポレオンの教えに従って考えてみましょうか。彼、実はすごい香りフェチだったって知ってました? いい香りはもちろん、「え?」みたいな香りも果敢に味わいたいタイプだったようで。遠征から戻る際、愛妻ジョゼフィーヌに対して「風呂に入らずに待っておれ」と言ったそうですよ、すごいですよね。そんな皇帝が好んだのが、鴨とジュヴレ・シャンベルタン。
でもこれ、興味深い話なんです。だって、人間が料理を味わう時って、実は味覚なんてほんのちょっぴりしか使ってなくて、8割が嗅覚によるもの。匂いなしには、人は料理を味わえないんです。もちろんワインも。
そんなことを考えると、今から味わっていただく鴨とジュヴレ・シャンベルタンの香りって、いったいそこに何があるんだろうと思ってしまいませんか?

……こんな感じ。

同じワインを飲むにしても、こんな風に伝えられると、面白さにぞわぞわするし、味わいだってより鮮烈な印象に変わる気がします。
そして何よりもうれしいのが、ワインにそれほど詳しくない私でも、小澤さんの説明が添えられたワインは一発できちんとストーリーや性格までを記憶できてしまうこと。
ワインスクールの先生やワインジャーナリストが語る「ワインの話」を聞いていると、
耐えられない眠さに襲われたり(すみません)
あーもう私にはわかりませんと開き直ったり(すみません)
することもしばしばなのに、
なぜこうも、差が出るのか。「伝え方が違う」からだと思うんです。

小澤さんの例は、ソムリエにだけ言えることではありません。
私がビジネスに挑む際も、彼のスタイルを大いに参考にしたいと思っています。

同じことも、あなたが言えば面白い

そう思ってもらえたら、仕事ってもっと面白くなるんじゃないでしょうか。

#料理 #COMEMO #伝え方



フードトレンドのエディター・ディレクター。 「美味しいもの」の裏や周りにくっついているストーリーや“事情”を読み解き、お伝えしたいと思っています。