ひとひら小説「サンタさんには誰がプレゼントをあげるの」
サンタさんはみんなにプレゼントをあげるけど、サンタさんは誰からプレゼントをもらえばいいんだろう。
小さいとき、そんなことを考えて、父からもらった煙草とおはじきを包んでサンタへのプレゼントにした。
Sくんが遠い街へ行ってしまうのだという。
高校のクラスには1組から8組とはべつに、AからEまでの細かいクラスがあると思ってた。わたしはその中でいえばDにいて、それはいじめられない程度のつまらない女子だった。
そのAからEを、側転で飛び越えるのがSくんだった。
相手がAだかEだかを推し量ることもなく、Sくんは誰にでも話しかけていた。Sくん自体はクラスAの人なのに、Eのひとのグラスがまだ来てなかったら、「乾杯待とうよ」なんて言う人だった。
そのSくんの送別会に、はずみで参加することになった。
心配?と夫に聞くと、別に、と言った。551の豚まん買ってくるから、というと、別に、と言う。
つまらないやつ。それに比べてSくんときたら、何年たってもずっとクラスSだ。超越した存在。
みんなに愛と平和を与えるスーパーヒーローのままだ。
そのヒーローが遠い街へ行ってしまうのだという。なんとかせねば、と思うが、そもそも目をみて面白いことも言えないのに、無理な話だ。もじもじしてるうちに送別会は終わった。つまらないやつは私だった。
駅に着くと、寝巻きにパーカーを羽織って髪もヒゲもボサボサの無職感満載でママチャリに乗った夫がいた。思わずため息が出る。
「551は?」
「あ…忘れた」
「えー!」
別に、て言ってたくせに。
ブツブツ言いながら夫はパーカーのジッパーをおろし、バスタオルを取り出し、ママチャリの荷台に置いて、乗れ、という仕草をした。
「……秀吉かよ」
と私が言うと、
「別に」という。
荷台に乗りながら、思った。
遠い街でSくんが、もし、愛や希望の底がついて、髪もヒゲもボサボサになったとき。今日のみんなで会いに行こう(一人で会いに行く勇気はない)。
布団を日向に干してフカフカにし、豚汁を作り、バスタオルをパーカーから取り出して、荷台に乗れと言おう。側転をして笑わせよう。
SくんがクラスSじゃなくても好きだ。
そう、みんなで伝えよう。
つまらないやつなどいない。
それを知ることがこんなにも嬉しいと、私は今夜、二人の男の子に教えてもらったのだから。
昔書いてた(というダサい言い訳)800字の小説です。この、「サンタさんには誰がプレゼントをあげるの」が、ずーっと私の書くものの根底にあるテーマです。
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