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ひとひら小説 「階段ぶん」

原稿用紙一枚分、400字の小説です。今よりずっとロマンチストだったときに書きました。



「おめでとう」をたくさん言い過ぎたかな。
ちくちく痛まないように、ネックレスをずっと握ってた。
たくさんの「おめでとう」の中だから誰にもばれなかったかな。
私も同い年で、3年も前に結婚したこと。

今日のお昼休み、倉庫でこっそり電話をかけた。
「あの、今回もダメでしたので……」
自己申告をすると、病院の人は何でもないというように、次のステップを教えてくれる。

どこまでいったら、ああなれるかな。
育休復帰のご挨拶、柔らかい清らかな赤ちゃん、お母さんになった笑顔。

「今日は21時までに帰れそう」とLINEをしたけど、結局21時半になった。
こんな日はなんとなく悪い気がして、途中のマツモトキヨシで新しいハミガキを買った。

おめでとうを言ったから偉かったんだ

言い聞かせて歩く。マンションまで来て顔を上げたら男の人が真ん前にいて
「びっくりした…」

どうしてわかるの?
どうして私が会いたかったこと。

階段ぶん早く、会いに来てくれた。

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