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読書メモ|「Working Backwards アマゾンの最強の働き方」コリン・ブライアー、ビル・カー

元アマゾニアンでジェフ・ベゾスの右腕だった2人が綴ったアマゾン流働き方の本。基本となる考え方の他に、プロダクト別の制作秘話が面白い。Kindle、アマプラ、AWSなどのヒットサービスはどう生まれたのか、ヒットしなかったものはどうして花開かなかったのか。
全部に触れると長いので(本著は504ページもある!)、アマゾンのキープリンシプルといくつかのエピソードをメモしたい。

リーダーシッププリンシプル14箇条
創業時はひとつの部屋で機能してたアマゾンも、事業拡大と共に人員が増えていった。かつてはジェフ・ベゾスが全従業員の動きを見張り、逸脱者がいれば注意できたが、規模が大きくなるとそうはいかない。創業者と直接関わらなくても従業員が同じ方向を向くため、また採用・育成の指針とするためリーダーシッププリンシプルを定めている。リーダーシップを発揮している従業員にヒアリングを行い、まとめることで作成され、さらにアップデートを経て14箇条におさまった。

1. Customer obsession お客様起点で行動する
2. Ownership 長期的時点で考え、会社全体のために行動する
3. Invent and simplify チームに革新と創造を求めると同時にシンプルな方法を模索する
4. Are right, a lot 優れた判断力と経験に裏打ちされた直感を持つ
5. Learns and be curious 常に学び、新たな可能性に好奇心を持ち、探求する
6. Hire and develop the best 優れた人材を見極め採用し、他のリーダーを育成・コーチングする
7. Insist on the highest standards 最高水準を追求し、問題が起きたら改善策を講じる
8. Think big 広い視野で考え大胆な方針と方向性を示し成果を出す
9. Bias for action スピードを重視し、計算した上でリスクテイクする、失敗したらやり直す
10. Frugality 少ないリソースで多くのことを実現する
11. Earn trust 傾聴し、率直に話し、相手に敬意を持って接する(自分の体臭を香水だと思わない)
12. Dive deep 常に全ての業務に気を配り、詳細まで把握する、リーダーが関わるに値しない業務はない
13. Have backbone; disagree and commit 場合によっては敬意を持って反論する、決定事項にはコミットする
14. Deliver results ビジネス上の重要なインプットにフォーカスし、適正な品質で迅速に実行する、困難でも妥協しない

これら14箇条を基にアマゾンのあらゆるプロセスと仕事が形作られている。

採用) バーレイザー方式
アマゾンは自分の儲けを優先する短期目線の「傭兵」ではなく、長期的に会社の成長にコミットし、リーダーシッププリンシプルを体現できる「伝道者」を求めていた。そんな人材を採用するために考案したのが「Bar raiser」方式だ。
一般的な採用面接では、応募者間の差別化を明文化できなかったり、面接官のバイアスや直感に依っていたりと安定して優れた結果を残すことが難しかった。
バーレイザー方式には、新規採用のたびにアマゾンのバーを上げよという意味が込められている。つまり新規採用者は、何らかの点で既存社員より優れていなければならない。また、このシステムを機能させる特別チームのこともバーレイザーと呼び、人事部などよりも権力を持ち、採用に対する拒否権も持つ。こうすることで、アマゾンとの親和性が高く、アマゾンをさらに成長させることができる人材を見極めて採用することを成功させた。

組織) シングルスレッドチーム
事業が拡大し、チームも拡大すると、事業やチームの詳細をリーダーが把握するのが難しくなる。また、複数の目標を追うのでリソース配分が最適化されない。「シングルスレッドチーム」制では、プロジェクトに専念し、スピード感を持ってイノベーションを達成するため、両立が難しい他の責任を負わない人物が1つのプロジェクトを統括し、全体から切り離せる独立したチームを率いる。何かのプロジェクトを達成するのに、別のチームに依存してしまう場合、スピードが落ちるし責任の所在が曖昧になる。また、チームメンバーはLサイズのピザがが2枚あれば足りる程度の人数に制限する「ピザ2枚チーム」を取り入れた。

コミュニケーション) 6ページで伝える
事業報告の場ではパワーポイントは使わず、6ページの文書にまとめる。パワーポイントは要点だけをかいつまんで図示するものなので、深掘りや最高水準の追求に向かない。また、前提の確認などに貴重なミーティングの時間が奪われて肝心の議論の時間が削られてしまう。アマゾンでは会議が始まるとまず全員が沈黙の中6ページを読み、大前提を理解した上で議論をする。発表者も、ナラティブで語るためプロダクトの思考を深め、より高い水準のプレゼンをすることができる。

プロダクト開発) ワーキングバックワーズ
顧客ニーズから遡って考え、どのようなアウトプットを出すか、誰にどう使ってもらうかをまず可視化する。まだできあがっていないプロダクトのプレスリリースを出すことでビジョンを明確にし、チームでそのプロダクトの良し悪し、改善点を議論する。反対に、プレスリリースが書けないプロダクトはニーズを捉えていない、詳細が煮詰まっていないなどの問題がある。プレスリリースの最後にはFAQをつけることで、社内外のあらゆる質問に先手を打つことができ、書き手・読み手の思考の整理にも役立つ。

評価) インプット指標
会社の成長はアウトプットではなくインプットで測る。株価のようなアウトプット指標は、会社側にはコントロールできないので適切で指標ではない。コントロール可能なインプット指標は、適切に管理すれば利益を押し上げる原動力となる。また、適切な指標の選択が肝心で、アマゾンの例では最初は商品詳細ページの追加数をみていたが、試行錯誤の結果、在庫があって注文後2日で届けられる商品の詳細ページの閲覧割合をみることになった。こうして決めた指標をデータ分析し、行動に落とし込むことを徹底する。

プロダクト事例
本著の前半は上述したアマゾン流働き方を丁寧にまとめており、後半はプロダクトごとの奮闘記となっている。

今でこそ当たり前になったアマゾンプライムやKindleが、どのような議論やライバル企業との対戦を踏まえて育ったのか、お仕事ストーリーとしてとても面白い。

個人的には、映像コンテンツでYouTube、Netflix、Huluに遅れをとった後、既存のアマゾンプライム顧客に無料で映像コンテンツへのアクセス権を付与してマーケットをとっていった話がおもしろかった。

様々なブレイクスルーをもたらし、時代のニーズと共にプロダクトを進化させていったアマゾンでも失敗は多いし、そこから学び、次の手に繋げていく。エピソードの中で、ベゾスのこだわりや異議により成功を掴んだ例も多かったので、なんだかんだベゾスの才能とカリスマ性に裏打ちされた成功の割合も大きそうだが、カリスマ制だけに頼らず組織をシステム化しているところは真似できそうだと感じた。

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